姫川家では
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サハラが姫川家を出てそう間もない頃だ。
まだ消えずに残っているグラント女王が色々と思案していた。
「シャーロット、あなたが先ほど使った結界はまだ使えますかしら?」
考えがまとまったらしくシャーロットに話しかける。
「可能よ。 痕跡を残さないように処罰できるからこそ、私の能力は買われていたわ」
「そう、それならもしここに敵が現れたら結界を使ってもらいますわ。 あの結界内であればあなたたちの力も存分に発揮できるでしょうからね」
先ほど結界を見たグラント女王がセッターたちに向かって言う。
セッターたちは結界を知らない為首をひねってはいたが、キャビン一族の知恵が優れている事を知っている為特に何も言い返したりはしなかった。
「グラント女王……でしたか? 結界を作れば確かに我が家は破壊されずに済むし、外にも音が漏れることもないが、それは相手に取っても全力で攻撃できることになると思います」
愛菜の父親は相手が女王の為か敬語で話しかけたが、グラント女王はにこやかに無礼講で構わないと伝えた。
「サハラ様がおっしゃられた通り、セッター様とアラスカさんの実力ならば先ほどの相手もさほど苦戦することはなかったはずですわ。 たぶん召喚する時に【闘争の神レフィクル】を選んだのは、きっとまだサハラ様自身が呼び出せる力を理解しきっていなかったからですわね」
さらっとグラント女王は答えたが、それに反応したのはシャーロットだ。
「仮にも私の守護者は酒呑童子よ! さっきは神が相手だったからだとしても、人間が相手だったら遅れをとることなどありえないわよ!」
プライドの高さが垣間見えたが、愛菜の父親が睨んだことですぐに謝ってから黙り込んだ。
「マイセンさんの強さは知りえないですけれど、セッター様とアラスカさんの持つ7つ星の剣は神をも凌駕する星剣ですわよ。 それと……」
グラント女王はこの世界と守護者と呼ばれているものたちと、サハラと自身たちの違いを話しだす。
守護者と呼ばれるものたちは、神話やおとぎ話に出てくる者たちであり確かに強大な力を持った存在だ。
だがグラント女王は自身たちの世界は、更にその後この世界で考えられて作られた世界なのではと推測してきた。
つまり、エリニュスはサハラやグラント女王のいる世界では存在する魔物であり、また話で聞かされたメドゥーサやヴァンパイアも存在する。
「複合された世界が私たちの世界ということですわ」
「ということは、我々が召喚する守護者と同等の存在は既にいる、と?」
「あくまで私の推測の範囲ですわ」
話が一度途切れたところでマイセンが思い出したように口を開く。
「そういえば僕が主だって戦った相手をサハラ様はエイリアン又はゼノモーフと言ってました。 もしかしたらこの世界と関係がありますか?」
もちろんセッターもアラスカもグラント女王も今いる世界のことは何も知らない。 マイセンの疑問に頷きながら愛菜の父親を見つめる。
「エイリアンまでいるという……のか?」
愛菜の両親と深雪の父親は互いに顔を見合わせ、深雪だけはなんのことかわからないようだった。
「ん……」
「来たようですね」
不意にセッターとアラスカが玄関の方に向きを変える。 少し遅れてマイセンも玄関の方を見つめた。
「6人のようだ」
「なぜあなたたちはわかるの?」
接近どころか人数までわかることに疑問を感じたシャーロットが尋ねる。
「私と娘は7つ星の騎士といって、神の力を行使できる。 この能力はマスターが言うにはジェダイナイトというものに似ていると言われた」
「夫のは別物だがな」
手短にセッターとアラスカが答えた。
「それでは手筈通りに」
グラント女王がシャーロットを見ると頷いた。
「6人ということはおそらく3人は召喚者だ。 合っていれば守護者は3人だと思う」
乱暴に玄関が開かれる音が聞こえてリビングに姿を見せてきた。
その直後にシャーロットが結界を展開させて、異質な空間を作り出した。
「——結界ですか。 ああシャーロット、貴女ですか。 今すぐ助けますよ」
「さすがですねぇ……おや? 久保さんまでいたのですか」
「2人とも、様子がおかしい……気をつけろ」
入ってきたのは3人だけで、教団の召喚者しかいない。 一番最後に来た教団員は鎧を着込み、腰に剣を吊るす3人と槍を手にしているワルキューレ、そして美しくも慈悲のかけらも見えないエリニュスを見て2人に警告する。
「召喚者と守護者の数が合わない。 どうやらシャーロットと久保は我ら同士を裏切ったと見て間違いないようだ」
「それならこの場にいる全員、供物として捧げれば我らが主もお喜びになることでしょう」
「守護者は倒し、召喚者は皆生贄に捧げるとしましょう」
様子を伺っていたセッターたちはこの3人を見て、狂っていると思ったであろうことは言うまでもない。
「ここはマスターの命に従い私たちが引き受ける。 下がっていてください」
セッターが愛菜の両親たちに言って間に立つ。 言われなくてもアラスカとマイセンもセッターに並んだ。
ワルキューレとエリニュスもセッターたちの方へ寄ろうとしたのだが……
「2人には彼らを守ってもらいたい」
無言で下がるエリニュスに対してワルキューレは不服そうな顔を見せたが、黙って下がった。
「どこのおとぎ話の中世の騎士か判りかねますが随分と強気な姿勢ですね。 守護者よ、あの愚かな守護者を亡き者にしてしまいなさい!」
1人の教団員が自身の守護者に命じると、今まで姿が見えなかった守護者が現れた。
命令を受けてセッターにノシノシと近づく相手は1つ目の巨人、サイクロプスだ。
戦ったことはないがサイクロプスも存在する。 そのためセッターは全くひるんだ様子を見せていない。
「相手も守護者だ。 一斉に攻撃させて叩き潰させろ!」
その様子に気がついたらしく、教団員の中でも先ほどから一番偉そうに喋る男が、残る守護者にも攻撃させるように命令してきた。
続いて現れたのは雄牛の頭部を持ち、巨大な斧を担いだ巨人で、ミノタウロスだ。
「まさか! アレはシンドバッドの7回目の航海の1つ目の巨人とクレータ島のミノタウロスだというのか!?」
愛菜の父親が震える声で教団の守護者の素性を口にする。
「ふふふ、さすが秘密結社の1人ですね」
「いかにも我らが守護者はサイクロプスとミノタウロス……それと」
「……ま、まさか! 嘘だ! あり得ん!」
最後に姿を見せたのは人間の形をしているが大きく違う場所が1箇所あった。
本来なら顔のある頭部が烏賊の様な奴だった。
間違えていた箇所を少し修正しました。