召喚の力
最近忙しくて更新が遅れてしまい申し訳ありません……
キャビン女王の声が聞こえてきた。
だが今ひとつ俺の新たな力というのがわからない。
そもそも呼びだすってどうやるんだよ。
今必要なのは強力な戦力。 ルースミアなら間違いないだろうが、その場合シャーロットの作ったこの結界すら破壊しかねない。
シャーロットの結界は酒呑童子達にも有利に働くのだろうが、こちらにとっても姫川家の崩壊や近所に迷惑がかからないというメリットもある。
となるとセッターか? だが相手は鬼神だ。 それならばこちらも神の方がいい。
「【闘争の神レフィクル】、俺に力を貸してくれ!」
これで合ってるのかわからないが、声に出して言ってみる。
——すると腕輪が輝きだし見覚えのある男の姿が現れた。
「余を呼びだす、か……世界の守護者」
クックックと笑うその男こそ過去に俺と魔王として対峙した存在であり、その強さはルースミアにこそ及ばないが俺を優に上回る。
「レフィクル、俺を助けてくれるか?」
「ふっ……何時ぞや貴様に言ったであろう? 余も貴様を手助けをしてやると」
言うが早いか漆黒の短剣を両手に1振りづつ手にして身構えながら見回す。
「……アレなら楽しめそうだ」
レフィクルがアレといったのはもちろん酒呑童子のことだ。
そのレフィクルはまともな白兵戦だと俺を優に上回る強さを持っている。 いや、レフィクルの場合いかに相手が強大で強くても、瞬殺でもされない限り相手と同等以上に戦える力を持っている。
俺は下がってレフィクルに譲る。
酒呑童子は呑気にそんな様子を酒を飲みながら眺めていた。
「酒なんて飲んでないでさっさと倒しなさい!」
シャーロットだけは別であり、今の会話の最中も光弾を射出してきていたが、防壁の前には全く効果がない。 にもかかわらず自身の守護者がのうのうと酒を飲んでいる姿に苛立っている様子だ。
レフィクルが酒呑童子の前まで立って向かい合う。
互いの視線が合った瞬間に酒呑童子の金棒が振り下ろされた。
対するレフィクルの武器はそれぞれの手に持った短剣だけだ。 そんな武器で金棒を防ごうとすれば当然レフィクルは吹っ飛ばされてしまった。
「わっはっは! 威勢だけは良いが己の力量すら計れぬとはただの愚か者だったわい」
だが……
「いいぞ、この感覚だ……」
むくりと起き上がったレフィクルの表情は嬉々として見えた。
その様子を伺いながらも俺はシャーロットを捕縛しようとするが、酒呑童子の呼び出した鬼の1人に阻まれてしまい、結局はその鬼とシャーロットの2人を相手しなくてはならない状況になっていた。
そこら辺は流石は酒呑童子といったところなのだろう。 とはいえ実際には酒呑童子ほど手強くはないのだが、レフィクルに何かあったら、その妻や部下に申し訳が立たなくなりかねない。
それゆえにレフィクルと酒呑童子の戦いからも目が離せなかった。
「余の心配は無用だ。 世界の守護者」
ゆらゆらと酒呑童子に向かいながらレフィクルが言ってくる。
「何が【闘争の神】じゃ! その程度で【闘争の神】とはたかがしれるわい!」
近寄るレフィクルにトドメとばかりに金棒を振り下ろしてきた。
「ぐふっ……」
そんな声を上げて倒れたのは酒呑童子の方で、振り下ろした場所にレフィクルの姿はすでにそこにはなく、背後に回ったレフィクルが酒呑童子の心臓辺りに短剣が突き刺さしている。
そして今度はレフィクルはトドメに頸動脈に刃を突き立てようとしていた。
もともとレフィクルは暗殺者だ。 本気になったレフィクルに情や無駄なセリフなどは吐かずに淡々と相手を殺す。 そういう男だ。
だが鬼神である酒呑童子も人ではない。 最初の一撃では仕留めきれなかったのか、すぐに距離を取ると吊るしたひょうたんの中身を傷口にぶっかけている。
「少しばかり舐めていたわ。 訂正してや……」
そこで慌てた様子で酒呑童子が体を避けると、ビーン! と音を立ててスローイングナイフがひょうたんに突き刺さった。
「よくも俺様の酒をぉぉおっ!?」
容赦のないレフィクルの追撃が始まる。
相手がセリフを吐いているときは待つのが常識みたいなものはレフィクルには持ち合わせていない。
「少しは待たんかぁぁぁぁあっ!」
酒呑童子が雄叫びでも上げたかのように叫びフーフーと息を切らせる。
ここで初めてレフィクルが動きを止める。
そして俺以外のこの場にいる全員が2人の戦いに目を奪われていた。
「殺し合いに言葉など、必要なかろう?」
「いいじゃろう! 俺様も本気で貴様をぶっ潰してくれるわ!」
そういって金棒を振り下ろしてくる酒呑童子に対して、レフィクルは最初の時のように短剣で防ごうとする。
「今度こそぶっつぶれてしまえぇぇぇぇえって!」
ドスンと音が聞こえた。
だがレフィクルは立ったままで、俺にもどうやったのかわからないが金棒は軌道をそれて振り下ろされて動きが止まっていた。
「ふん、この程度か」
よく見れば酒呑童子の脳天に短剣が突き立っている。
ふわぁっと煙のように酒呑童子が消えていくと他の鬼たちも消えていった。
「さて……」
レフィクルがシャーロットの方へ向きを変える。
「レフィクル待ってくれ。 彼女には聞きたいことがあるんだ」
レフィクルが動きを止めてくれて助かった。
正直言うとレフィクルが暴れたら贖罪の杖を使う以外俺では止められない。
「なら余の用事は済んだな。 次に呼ぶ時はもっと手応えのあるやつにしろよ、世界の守護者」
そういうとレフィクルが消えていった。
「……嘘、嘘よ、酒呑童子があんな呆気なく倒されるはずはないわ! あなた何者なのよ!」
結界も消えて元の姫川家のリビングに戻っている。 シャーロットがなんとか声を振り絞って出した言葉だったようだ。
「そんなことはどうでもいい。 質問に答えてもらうぞ」