キャビン女王の召喚とキャビンの知恵
眩い光はそう長くはなかった。 1〜2秒ぐらいだろう。
「あら、ここはどこかしら?」
感知にも1人増えていて、新たに現れた人物を見た俺は開いた口が塞がらなくなった。
「キャビン女王!?」
「サハラ様……なるほど、ということはここはサハラ様の昔の世界、そして既にこの世を去ったはずの私がここにいるという事は、世界の守護者によって召喚されたわけですね?」
さすがはキャビン王女だ。 説明するまでもなく状況やらを理解してしまった。
しかも俺が召喚したと言った……
「君、そちらの女性は……女王と言っていたようだが」
代表するように愛菜の父親が聞いてきた。
「ああ、この方はキャビン魔導王国の……何代目かまでは知らないが、キャビン=グランド女王。 英雄キャビンの血を受け継ぐ俺の知るキャビンの血の中で最も優れた賢者だ」
今いるキャビンは英雄と呼ばれたキャビン=アテンダントの娘だが、戦術や先を読む策士としては俺の知るキャビンの中で最も優れていた女王だ。
「サハラ様にそう言ってもらえるなんて光栄ですわ」
「しかしどうして……俺が召喚したと言ったな」
「新たなる力……というよりは創造神様から頂いた力ですわね。 もちろん私の想定での話ですけれど、サハラ様と知り合った者たちを一時的に召喚する力を授かったのでしょう」
そんな力、いつの間に!?
いや、そんな事は今はどうでも良い。 せっかく俺の知りうる最高の賢者が現れたのなら、その力を借りないてはないだろう。
「すまないが知恵を貸して欲しい」
手短に状況を説明していく。 伝わりにくい部分は聞き返されながらもキャビン女王も火急の事態と把握したようで、無駄な事は聞いてこなかった。
全てが説明し終えるとキャビン女王は一度この場にいる全員の紹介をお願いしてきて、それが終わるとほんの僅か思案してから口を開いた。
「愛菜さんはサハラ様お一人で救出に向かえば問題ないでしょう。 今のサハラ様であれば勝てる者などいませんからね」
随分と過大評価してくれているようだが、キャビン女王がいうのなら間違いはないはずだろう。
だが……
「そうしたいのはやまやまだが、その愛菜の居場所がわからないんだが?」
「ええそうですね。 まずはこの建物にキャビン魔導王国同等の結界を張りましょう」
キャビン魔導王国の結界。 それは国1つまるまる存在を認識されなくし、外部からの侵入はほぼ不可能にするものだ。
「これで外部からの手解きはおそらく問題なくなりましたわ。 シャーロットと言いましたね? 場所を教えていただきましょうか?」
その場の全員が一斉にシャーロットに向く。
「な、何を言っているのかしら?」
そこでキャビン女王が種明しするかのように話しだす。
まず愛菜を連れに行き俺と遭遇してからの教団の行動の早さ。 もちろん最初に遭遇した時はフェンリルが食っちまったからノーカンなのだそうだが、その後の襲い方が俺にはよくわからないがおかしいらしい。
「あなたも愛菜の守護者がいる事は知らされていた。 そうですわね?」
「ああ、確かに」
「それはいつです?」
深雪の父親の返答に驚く。 なぜならシャーロットが来たその日のうちだったからだ。
しかし緊急連絡網が回ってきたって学校かよ……
「私とは違う魔法使いのようですけれど、それでも魔法使いは必ず痕跡を残しておくものですわ。 サハラ様は見つからなかったと言いましたね? それは不在の時に侵入できる者が侵入して痕跡を消したからですわね」
この辺りになると俺にはだんだん意味がわからなくなってくる。
だが明らかにシャーロットの表情は強張って見えた。
「もしも、あなたが私の言うことを戯言だと言うのであれば、そちらにいらっしゃるエリニュスに目を覗いて貰えば真実を見抜いてくれますわ」
そうだ。 エリニュスには真実を見抜く目を持っている。 俺もあれで正体を見抜かれた思い出があるからよくわかる。
どうですかと問い詰めるキャビン女王の言葉にシャーロットはじわじわと後ずさりをはじめ……
あの時同様、固有結界を展開してきた。
「本性を現してくれたようですわね」
「ふふっふふふふふっ……驚いたわ。 ええ、そうよ! 私は教団の一員として魔法使い協会に潜入し機会をずっと伺っていたのだけれど……失敗したようね。 でも良いわ、姫川は諦めてほかを当たらせてもらうだけよ! 行きなさい守護者!」
シャーロットを守るようにシャーロットの守護者が前に立つ。
俺が贖罪の杖を構えると、ワルキューレとエリニュスも身構えだした。
「サハラ様、シャーロットを殺してはダメですよ」
「了解」
堂々としたシャーロットの守護者は俺たちを一睨みした後、口に手を当てて指笛を鳴らす。
「ふふふ……私の守護者が本気を出すようだわ」
悪鬼達が現れるような空間に歪みを見せると、5人が姿を見せた。
「こいつも召喚するのか!?」
てっきりヘラクレスだとばかり思っていたが、どうやら違うようだ。
しかも6対3になってしまった。 いやキャビン女王も加われば6対4だが、キャビン=グランドが戦いに加わった所はほとんど見ていない。
「サハラ様、こちらの方々は私が守りますわ」
「頼む」
なるほど、言われなくても自分にできることを選んだわけか。
「フェンリル、お前も手伝ってくれ」
“あいお”
気の抜けるような返事と共に真っ白な毛並みの狼が姿を見せる。
これでもまだ数では劣勢。
「私たちであいつらは相手をします。 あなたは守護者をお願いします」
ワルキューレがそう言って槍と盾を構えながら走りだした。
エリニュスは頭髪で捕縛しようとしつつ、炎を吹き出す弓を放ちはじめ、フェンリルも氷柱を作り出して射出しだした。
余裕そうにひょうたんに入った酒を飲んでいるシャーロットの守護者を見て、やっと俺はそいつの正体に気がついた。
「お前、酒呑童子か!」
酒呑童子……鬼の頭領で八岐大蛇の子孫と言われている最強の鬼神だ。
ヘラクレスあたりだとばかり思っていたがそうだよな。 教団の側の人間は守護者は神聖な存在は召喚されない。
シャーロットは教団側の人間だから当然といえば当然なわけだ。
つまり守護者の正体も1つの見極めにはなるというわけか。
そんなわけで贖罪の杖を構えて間合いを取り詰め寄るが、シャーロットの守護者酒呑童子は酒を飲んでいるばかりで動く気配がない。
そう思った直後、俺に向けて酒を吹きかけてきた。
もちろんその行動は予測で分かっているため、縮地法で酒呑童子の背後に移動して殴りかかる。
電光石火に近い俺の移動からの攻撃を酒呑童子は軽々と金棒で受け止めてきた。
「それが噂の鬼に金棒って奴か」
「ふん、小蝿がブンブンと飛び回りおって」
ぬぅおぉぉらぁぁぁっ!
そんな怒声と共に金棒を振り回してきた。
一撃二撃と振り回してくる金棒を予測して受けとめ躱すのだが、筋骨隆々としているのは伊達ではなく、予測すら上回る速さで振り回してきた。
「どうした? 偉そうな態度を見せていた割に、この程度で手も足も出んのか?」
「手加減してやってんだよ」
というのは冗談だ。
残念ながら純粋な武力は俺よりも酒呑童子の方が上だ。 そこに……
パシパシパシッ!
シャーロットが打ち込んでくる光弾の魔法を防壁で防ぐ。
「一騎打ちが怖いのか?」
「一騎打ちなんてする必要などないわ!」
次の光弾を射出する準備をしているシャーロットが醜く顔を歪ませながら答えてきた。
こうなると後ろの3人は5人を相手にしているため、俺1人でシャーロットと酒呑童子を相手にするしかない。
「召喚するといいですわサハラ様」