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襲撃者

 愛菜の話す内容は確かに俺の思ったこととは全然違った。


 この世界にはごく少数の人にしか知られていない事があり、それを秘密結社として活動しているんだそうだ。 まぁその名前は言わなくてもわかる奴はわかるだろうが。


 で、彼らが頑なに秘密を守っているものの1つが魔法使いの存在で、本当か嘘かわからないが神話に出てくる魔女や魔法使いがその始祖にあたるらしい。

 その血を脈々と受け継いでいるうちの1人がここにいる姫川愛菜なんだそうだ。


 そしてそんな彼らと同じく世界を救済という名の下に邪悪な神を目覚めさせようとする存在がいるらしい。 教団、と言われる相手と日夜人知れず戦い続けているのだそうだ。

 愛菜の両親もやはりその教団連中と戦っていたようだが、数日前から行方知れずになってしまったという。

 行方不明になった両親は、教団の奴等が関係してるはずだと言う。


「なるほどね、それでなんでまた俺を召喚したんだ?」

「私の護衛と両親を探しだす手伝いをさせるためよ」


 護衛はまぁなんとかなるだろう。 だが捜索となると俺の得意ジャンルじゃないんだよな。

 そういったのは今までウェラかアリエルの方が得意で任せてきたからな。


「……でも、契約は破棄されてしまったからそれももう無理だけど」


 何も聞かずに契約を破棄した俺も悪かったんだろうが、それよりも問題がある。


「俺はどうやって戻ればいいんだ?」

「召還魔法を使えば戻せるわ」


 どうやら帰れなくなる、なんていうふざけたような設定ではないらしい。


「なら俺を召還魔法で還して、別の奴でも召喚したらどうだ?」

「それが簡単に出来たら苦労しないわよ!」


 召喚魔法にはいろいろな条件や環境、準備などが必要らしく、次の召喚をするにはまず次の新月を待たないといけないらしい。 その間に環境や準備を整えなければならないそうだが、それだと両親の捜索が相当遅れてしまう。


「……それはアレか? 契約してないと手伝ったらいけないのか? いや、俺も理由を聞かないで破棄しちゃった手前責任があるしな」


 愛菜が目を見開いて俺を見てくる。


「い、いいの? 勝手に召喚したのに手伝いまでしてくれるの?」

「家族が大切な気持ちは俺だって……いや、なんでもない。 とにかく君の気持ちはよくわかるからな」


 それに次の召喚までの間に愛菜の身に何かあったら俺のせいでもある。

 というわけで契約を破棄しているとどんな不都合があるのかを聞いてみると、本来契約をしていると召喚者から現存するための魔力供給が得られたり、身に危険が迫ると気がつけるのだそうだ。 そして3度使える命令には、本来であれば不可能な様々な事が行えるらしい。


「つまり俺は君から魔力供給されてないことになるけど、放っとくとどうなるんだ?」

「あなたの魔力が尽きれば、あなたは消えるわ」

「消えるわって簡単に言うけど、それはアレか死ぬのか? それとも元の世界に戻れるのか?」

「そこまではわからないわ」


 さすがにそれはマズいだろう。 俺にはやる事がある……やる事……なんだったか? いや、思い出せないならそれは後でいい。 それよりも今は魔力切れはするわけにいかない。


「再契約はできないのか?」

「同じ相手には無理ね」


 ぐ……こいつは聞いても大丈夫なんだろうか? もしもアレと設定が同じなら、俺は愛菜と交われば魔力を供給されるはずだ。


「な、なんだか良からぬことを考えているようだけど、あながち間違ってはいないわよ」


 顔を赤くさせながら口元に手をやり、コホンと咳払いをしてくる。


「でもそれは却下だから」

「——まぁそうだろうな」

「当然で、へっ?」


 俺の返事が意外だったのか、愛菜が素っ頓狂な声を上げてきた。


「未経験なんだろ? 初めては誰もがみんな好きになった相手とって思うのは当たり前の事だ」

「驚いた……見境ないかと思ってたけど、あなたって案外紳士なのね」


 心底驚いた顔で愛菜が言ってくる。


「おいおい、一応俺は嫁以外とそういう関係になったことは一度もないからな?」


 本当は1人だけいるが、あの時は俺も女体化していたからセーフだ。

 それを信じられないとでも言いたげな顔を愛菜がしてくるが、そんなに俺は節操なさそうに見えるか?


「そういうわけだから、俺が手伝えるのは魔力が尽きる前までとさせてもらうぞ」

「わかった。 っていうか、その姿で男口調おかしいわよ?」


 正体を知られている以上、素で接した方が話しやすいんだけどな。


「どっちが君にとって都合がいいんだ?」

「そうね、女性の方が本当は色々といいんだけど、あなたの女装って逆に目立ちすぎるから元の姿でお願いするわ」

「女装と一緒にするな。 これを長期間やると心まで女になっちまうんだぞ?」


 自分で言っておいてなんだが、遠い昔の事を一瞬だけ思いだす。 アレは俺にとって黒歴史だ。


「はいはいわかりました。 とりあえず今日はもう遅いから、明日にでもあなたの服を見繕い……」


 言い終える直前で急に愛菜が口をつぐんで庭の方に顔を向けた。

 俺もこっちの世界に来た驚きですっかり使うのを忘れていた感知(センス)を使うと、庭の方に1体の存在を確認した。


「侵入者よ」

「そのようだな、どうする?」


 疑うこともしないで俺も愛菜の向いた方角を見たからか驚いた顔を見せてくる。


「どうするって、戦うしかないでしょ?」

「戦うってずいぶんと物々しい言い方してるが、ただの不法侵入者って可能性だってあるんじゃないか?」

「明かりがついている家に堂々と入ってくるような不法侵入者って、一体何が目的なのかしらね?」


 ごもっともで……

 感知(センス)に加えて予測(プレディクション)も加え、修道士特有の呼吸法をして備える。

 程なくしてリビングの扉が開いた。


「1人きりだと思ったんですが……お友達を呼んでいたんですか?」


 入ってきたのは女だ。 パンツスタイルのスーツ姿で、指貫のグローブを着けている。

 まるで男装の麗人だ。


「家に招いた覚えはないんですけど?」

「すぐにお暇しますよ、あなたを連れて」


 俺は眼中にないってか?

 そう思った直後、俺の心臓目掛けて手刀が伸びてくるのを予測(プレディクション)する。


 実際にその攻撃が来た時、僅かに身を避けて躱した。

 侵入者の女の目が見開き俺と目が合う。

 慌てた様子で俺から距離を置いたようだが、本当ならば十分に反撃もできるところを手を出さないでおいた。


「何者ですかあなた……今の攻撃を必要最低限の動きだけで躱しましたね」


 なぜなら、こういうお喋りな相手には情報を引き出し安いからだ。


「えっと、偶然です」


 指を一本ピーンと立てて笑顔で答えてやると、愛菜がクスクス笑っている。


「ふざけてますね……こうも人を馬鹿にするとは……」


 カッと目を見開いて懲りずにまた俺に仕掛けてくる。 今度は連続攻撃で仕留めに来るようだ。


「なんで……私を、狙う……んです、か?」


 攻撃を全て避けながら聞いてみる。


「あなたには……関係、ない!」


 最後の一撃を手で受け止めた俺は掴んだ手に力を込める。

 痛さに俺の手を解こうとするが、当然ビクともするわけがない。


「ならこうしましょう。 あなたが答えてくれたらこの手を離します。 でも話してくれないのなら、このまま腕を折りますよ?」


 既に掴んでいる手首から先が紫色に変わりつつある。


「誰が……答えるものか!」


 そう答えた直後に俺は女の手首の骨を折った。

 ぷらんとなった手首から先を見て、女は悲鳴にならない声をあげる。

 その隙に今度は反対の腕の手首を掴んだ。


「愛菜、聞きたいことがあったら聞いてみて?」


 にこやかに俺が言うと愛菜も顔を引きつらせながらも、女に尋ねだす。


「私の両親はどこ? 生きているんでしょうね?」


 少し掴む腕に力を込めてやると、女は観念したのか話だしはじめた。


「あなたの両親は最後に会った時は健在だったわ……今はどこにいるか私も知らない……っ!」


 そこで俺が更に力を込めるとメキメキと骨が軋む音が聞こえる。


「ほ! 本当に知らないの! 私は姫川愛菜を連れて来いと命じられただけ!」


 女の目を覗き込み今の言葉に偽りがないか俺の断罪の目で覗き込んだが嘘は言ってない。

 断罪の目は俺が覗き込んだ相手の目から罪に対して判決を下せる。 なので今のが嘘かどうかを看破することも可能だ。


「嘘は言ってないようですね」


 掴んでいた手を離すと俺から急いで距離を取る。


「なんで離したのよ!」

「彼女からはもうこれ以上情報は得られないから」


 愛菜は理由がわからず女に迫ろうとするが、女は俺が折った手を押さえながら逃走していった。



「何で逃したのよ!」

「言っただろ? もう情報は持ってないからだって」

「そんなのわからないじゃない」

「俺のこの断罪の目はわかるんだよ」

「断罪の目?」

「言っただろ、俺は創造神の執行者だ。 断罪し贖罪する力があるんだ」


 そこまで言うと愛菜がキョトンとした顔を見せてくる。


「あなたが人を裁くの?」

「人に限らず魂のある者は全て対象だ」

「何それ……インチキにもほどがあるんじゃない?」

「だから言っただろ……俺はバケモノだって」


 やっと愛菜が黙り込む。

 そして俺自身もまさかこの世界で断罪の目が使える事には驚いた。


「でもコレであなたの事も敵に知られる事になったわね」

「それはどうでしょう? 今の私は魔法で女体化してるだけですから。 元の姿に戻ればわかりませんよ?」


 人差し指をピンと立てながら笑顔で答えてやる。


「あー、そっか! というか元の姿を知ってると、そういう仕草や口調は気持ち悪くしか見えないわよ」


 ハハ……手厳しい子だなぁ。



 その日の夜は俺はリビングのソファで、愛菜は自分の部屋で眠る。

 愛菜はいつまた襲撃が来るかわからないから一緒の部屋でもいいと言ったが、感知(センス)で気がつくからと丁重にお断りしておいた。



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