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久保深雪の守護者になったサハラ

 なーんてな。


「遠野先生、やっと私のものになったわ!」

「……俺をどうする気だ」


 返答次第によってはこの程度の契約、いつでも破棄させる事はできる。 だがせっかくのチャンスかもしれない。 愛菜たちには悪いが利用できる間は利用させてもらうとしよう。


「言いましたよね? 私のものになったって。 そうね……裏の駐車場で、待っててもらえますよね?」


 拒否しようとする俺の意思とは無関係に、体が勝手に移動をはじめだす。


 これが命令権の力か。 贖えないわけじゃないが、従っておくべきか。


 体が勝手に動くというのはなかなか面白いもので、うまく表現できないがまるで何者かに憑依でもされているかのように動く。


 駐車場に着くと一台の車の前で動きは止まった。



 少しすると久保先生がぱたぱたと笑顔で走ってくる。


「お待たせしちゃいましたね、さぁ行きましょう?」

「何処へですか」

「決まっているじゃないですか。 私の家ですよ」


 教団に連れて行かれるとばかり思っていたが、どうやら違うらしい。

 車を走らせ30分ほど走ったところにあるマンションの駐車場に車は止まり、久保先生の自宅に連れ込まれた。


 教師にしてはなかなかのマンションで、玄関もそこそこの広さがある。

 廊下を抜けて扉を開けると20畳ほどのリビングになっていた。


「適当に座っていてくださいね」


 久保先生が妙にウキウキしながらお茶の用意をしながら言ってくる。 怪しまれるわけにはいかないため、おとなしくソファに腰を下ろした。


「お砂糖とミルクはいくついりますか?」

「いや、ストレートのままでいい」


 そう、答えると久保先生が俺の真横に密着しながら座ってくる。


「と、とりあえずどういう事か説明をしてもらいたいんだが? 久保先生……いや、久保深雪、あなたは魔法使い協会の者か? それとも教団の者か?」


 久保先生がティーカップに口をつけてテーブルに戻す。 カップについた口紅を指で拭ってから俺を見つめてきた。


「もう少し私の事を避けるよりも調べておくべきしたね」


 愛菜が、というよりも姫川家に目をつけた時点ですでにマークされていた。

 久保深雪は美術教師として愛菜の高校に侵入して、確定するまで静かに静観していたのだそうだ。

 そして姫川夫妻の拉致が起きて行動を起こそうとした矢先に俺が愛菜と現れた。 しかもありえない手段で臨時講師として。


「これを守護者(ガーディアン)と疑わないはずはないですよね?」

「前もって準備していたのなら当然だな」


 そこでネクタイに触れてくる。


「違うネクタイですね。 もっとも取り替えなくてもそんなに長い時間は盗聴できませんでしたけどね?」


 盗聴! ネクタイを直したあの時か! 剣と魔法の世界が長くなったせいで、すっかり機械文明の事を忘れてたぞ……


「そういう事だったのか」


 これでとりあえず久保深雪は教団の1人だという事はわかった。 どこまで知っているかはわからないが、そこから俺が愛菜の守護者(ガーディアン)ではない事も知ったのは間違いない。


「それで俺に何をさせるつもりだ?」

「そうですね、まずはその便利そうなピアスが頂いておこうかしら?」

「便利ではないな。 これは単にあいつが入っている小屋のようなものに過ぎない。 ランプの精みたいにピアスがあれば言う事を聞くわけじゃないぞ?」


 久保深雪が渋い顔を見せてくる。 どうやら盗聴で聞けたのはせいぜい8〜10時間程度だろう。 昼休み明けに仕込まれたのだから、愛菜が1度眠るぐらいまでといったところか。


「それじゃあ早速ですけど、姫川さんの家に行きましょうか」

「俺が拒否したら?」

「服従する様に命令権を使ったのだから、命令すれば遠野先生は従うしかないですよ。 そうですね、2度目の命令権を行使しておきましょう。 私を守り、危害を加えてはならない」


 ほぉ、3回しか使えない命令権を上手に使うもんだな。 つうか今の命令権2回分じゃないのか?


「男女逆なら……不純な行為をして、という方法があるのはわかりますが、遠野先生は男ですから契約していなくても消滅しないのはわかりませんが、念の為に保身はしておいた方が良さそうですよね?」


 魔力供給は分かっているんだな。


 どれ……その命令権がどの程度効果があるのか試してみようか。


 ソファから立ち上がって、久保深雪を引っ叩いてみる。 もちろん加減はするが当たれば相当痛いだろうと思う強さだ。


「ひっ!」


 久保深雪が頭を手で抱えてうずくまったとこから見て、どうやら戦闘方面はからきしの様だ。

 そして肝心の俺の方は、ビタッと当たる手前で手が勝手に止まる。


 恐る恐る手をどけて顔をあげた久保深雪は、俺の手が当たる手前で止まっているのを見てホッとした顔を見せていた。


 なるほどね、確かに体が勝手に抑止した。 なかなか面白いものだな。


「こ、これで分かってもらえましたかっ!」


 涙目になりながら久保深雪が叫んでくるんだが、なんと言うか……必死な感じが見えて少し可愛らしい。

 っと、いかんいかん。


「確かに俺は久保先生に手を出せないらしい」


 ホッとした表情を見せているところから、守護者(ガーディアン)をつけるのは初めてだろう事がわかる。


「それでは姫川さんの家に……」

「待ってくれ。 久保先生はどうも他の教団の連中と違う気がする。 愛菜を攫うのは久保先生の本心なのか?」

「私は生まれた時から両親が教団の一員だったから自然と……って、誘導する様なことはやめてください」


 やべぇ、なんかチョロいんだが。


「そうか……愛菜もな、つい最近までそういうのを知らずに育ったそうだ。 お互い立ち位置は違う様だが似た境遇の様だな」

「姫川さんも……」

「久保先生は本気で邪神なんかの復活を望んでいるのか? 地球上全ての生物が滅びるかもしれないんだぞ?」

「遠野先生? 何を言っているんですか?」


 久保先生が驚いた顔をしている。 嘘なんかではなさそうだ。


「その話は一旦置いておこう。 ならなぜ愛菜を攫うんだ?」

「それは秘密結社は裏で各国を操る悪い人たちで所在が不明だったそうだけど、やっとその1人が姫川家だと尻尾を掴んだからと聞いています。 今姫川さんの両親に秘密結社の人数やら組織の本拠地なんかを聞いているけど答えないから、世界のために姫川愛菜さんを攫ってでも口を割らせなくてはならないと聞いています」


 いやぁ……ほんとこの人、ペラッペラ喋っちゃうなぁ。


「それは俺の聞いた話と違うな。教団の望みは旧支配者と呼ばれる邪神を復活させて世界を滅ぼすのが目的だと聞いたぞ?」


 目をパチクリさせている。


「父に確認してみます……」


 うおぉぉぉい!


 スマホを取りだして電話をかけようとするから慌てて取りあげる。


「あ、何を!」

「どちらが正しいのかはわからない。 だけどもし久保先生が嘘の情報をつかまされていたら命を狙われるぞ!」

「父が私に嘘なんかつくはずないですし、命を狙うなんて何を大げさな事を言ってるんですか」


 やだなぁもう、みたいな顔してるし……


「愛菜も両親に教団は邪悪な集団だと教わったそうだぞ?」


 思えば愛菜もそうだ。 愛菜も両親に聞かされていたからそれを信じていたけれど、こうなってくるとどちらが正しいのかわからなくなってくる。

 秘密結社と魔法使い協会の方が、組織の秘密を守る為と嘘を教えている可能性もないわけじゃない。

 というより久保深雪……馬鹿なのか?



「愛菜と違って久保先生は大人だから冷静に考えてくれ。 こんなハッキリしないのに愛菜を攫うのか?」

「だから父に……」


 と言ったところで口を噤んだ。


「……確かに現状では私も姫川さんも両親に聞かされた事を信じているだけですよね……」


 うん、久保深雪はチョロいが馬鹿ではなくて助かった。 しかしそうなると久保深雪を利用するのも少しばかり気が引けてくるな。


「ところでもしも愛菜を攫ったら、その後はどうするつもりだったんだ?」

「ええと、父に連絡する様に言われてます」


 つまり久保深雪も教団の事を詳しくは知らないということだろう。


「愛菜を攫い、吐かせたら、間違いなく姫川一家はその後皆殺しだぞ?」

「そんな大袈裟ですね。 その後は秘密結社の事が明るみに出されるだけですよ」


 根本的にズレてるなこの人……


「それなら俺たち守護者(ガーディアン)を呼び出す理由なんてないだろう?」

「……あ」


 説明すれば一応考えてくれるところは助かるな。


「久保先生、俺に1つ提案がある」



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