クリスマス閑話
特別ストーリーです。
ここはどこだ?
気がつけば俺は見知らぬロッジの中にいた。
窓から見える景色は、真っ白に雪が降り積もっていて、今もその雪は降り続いている。
そして外には1本の大きなモミの木が見える。 あちこちに不思議な輝きを放つその木はまるでクリスマスツリーのようだ。
「なんだよこれ……まるでクリスマスじゃないか」
「うーん……あれ? ここはどこ? あ、サハラさん!」
先ほどまで誰もいなかったはずのこのロッジに癖の強い赤毛で膨らむ髪の毛を紐でリボンに結んだアリエルがいた。
程なくして俺と色違いのローブを着たエルフ、【魔法の神エラウェラリエル】と異常なまでに赤い髪が特徴的な女の子に見える赤帝竜も現れた。
「ここは……あ、サハラさん」
「主がここへ呼んだのか?」
2人も訳がわからないといった様子だ。
「いや、俺も今さっき気がついたらここに来ていた」
「ここは……どうやら元の次元とは全く違う場所の様ですね」
さすがは【魔法の神エラウェラリエル】。 即座に場所の特定をしたようだ。
「ねぇ、これってアレじゃないかしら。 クリスマスの奇跡」
アリエルが浮かれた様子を見せる。
「一体誰がこんな粋な事をしでかしたのだろうな」
「赤帝竜がわからないんじゃ誰もわからないだろう?」
「そんな事は別にいいじゃない。 せっかくなんだから楽しまないと損よ?」
「そうは言ってもなぁ……ここには何も……」
そう思った直後だ。 ロッジの中が綺麗な飾り付けがなされ、大きなテーブルには山のような料理が用意されていた。
「なんだよこれ……」
驚いてそれらを見ていると、ロッジの出入り口が開いた。
1人は扉を抑えている男で、その顔は端正な顔立ちをしている。 その後ろにいるのは今もたまに会っている少女の姿をした【愛と美の神レイチェル】だ。
「うおぉぉ寒ぃぃぃ! ほらレイチェル、早く入れよ」
「う、うん。 でもマルス、勝手に入っても大丈夫かしら……」
「んなの事後承諾でいいんだよ。 だいたい俺がお前と会えてる時点で何かが狂ってるんだ……あ?」
やっと2人が俺たちに気がついた。
「お前、サハラか!? いや、その面は間違いなくサハラだ!」
「マルス……お前なのか? なんで生きてるんだよ。 しかもその姿、若い頃のままじゃないか」
「俺にも何が何だかわからねぇ。 だけどこうして会えたんだから余計な事は考えないほうが良いんじゃないか?」
そこには老衰で亡くなったはずの俺の友だったマルスがいた。
2人がロッジに入り、暖炉で体を温めながら俺に尋ねてくる。
「なぁ、ところでそこにいるのはアリエルとエラウェラリエルだよな? もう1人は誰だ?」
「そうだったわね、マルスは結局会えてなかったから初めて見るのね、ん?」
「だから誰だよ」
「彼女は……」
「主よ、我が自分で言う。 我は赤帝竜だ。 そしてサハラの番でもある!」
マルス以外は全員知っていることだ。 だが初耳のマルスは目を見開いて驚いた顔を見せている。
「赤帝竜ってあの赤帝竜の事か!? サ、サハラ……お前……」
「ああ、やっと会えた……」
「3人も美人の嫁さんいて羨ましい奴だなぁおい!」
直後にマルスが【愛と美の神レイチェル】に殴り飛ばされた。
「こんの浮気者がぁぁぁ!」
いや、マルスは別に浮気はしてないぞ。 だが、相変わらずだな。
そんなところにまた扉が開いて2人が駆け込んできた。
「うひゃー! 運良くロッジがあって良かったね、セッターお兄ちゃん」
「とはいえ勝手に人の家に入り込むのはいけないことだぞセーラム」
続いて入ってきたのは俺の弟子でもあり、後に史上最強と呼ばれるようになった7つ星の騎士創設の1人でもあるセッターだ。 彼も老衰で亡くなったはずだった。
そして元気なのはハイエルフで俺の娘のような存在で、今はセーラム女帝国の女帝にして生ける伝説と言われているセーラムだ。
「セッター!」
「なっ、マスター!?」
どうやらこの不可思議な場所には時代や年代を無視した力が働いているようだ。
その証拠に次々と俺と関わった人物たちがロッジに入ってくる。
最近は会っていなかったバルロッサ師匠。 姿が見つかり次第、赤帝竜がいつもの如くいじめに入っている。
それにカイとその旦那のフェガス。 2人はセッター、セーラムと会話を楽しんでいる。
懐かしいリーダーのキリシュとその仲間のセレンやウォーレン、ボルゾイにズィー。 彼らは元同じパーティメンバーだった【魔法の神エラウェラリエル】と懐かしんでいた。
他にもエンセキをはじめとするブライス、ベアリンク、グレーン、リプト、リューダー。 彼らも【愛と美の神レイチェル】を相変わらず讃えている。
自己犠牲を払って死んだセレヴェリヴェンもいて、【闘争の神】となったレフィクルが居ることに驚いている。
もちろん【闘争の神レフィクル】とその妻ラーネッドやムスメのスエドムッサ、レフィクル配下だった最終的に俺の敵じゃなくなった者たちもいる。
アリエルと懐かしく会話をしているのはキャッティやクゥ、カトレア、アーテミス、そしてブリーズ=アルジャントリーの姿もあった。
ってちょっと待て。 彼女らがいるのは俺的にマズイだろう。
そしてもちろんマルスの息子ラークとその妹バージニアもいて、更にマルスの孫にあたるヴォーグ、そしてララノアの姿も。
他にもアラスカやカフィン、歴代のキャビン女王たちの姿もある。
懐かしい人たちを見ながら俺は過去を思い出していると、腕を掴んでくる人物がいた。
場違いな格好、ファンタジックな世界には絶対にいるはずのない女子高生。
「お前もか愛菜!?」
「えっと、ここって……どこ?」
絶賛進行中の姫川愛菜まで紛れていて、繋がりが俺しかいないためか、おびえた様子で俺の側にいる。
「まさか愛菜までいるとはな」
「そんな事はいいから説明しなさいよ!!」
この愛菜の声でロッジ内が一斉に静まり返った。
「え、あ、私……どうしよう……」
「あらサハラさん、その子一体どこで手をつけたのかしら?」
「しばらく会えなかったと思ったら、そういうことだったんですね……」
うおお! やっぱり恐れていたことが! って違う! 俺は愛菜に手をつけていない!
「アリエル! ウェラ! これは違うんだ!」
「サハラさん、私の時は娘扱いだったのにズルい!」
「そうだそうだ! 私も娘扱いじゃん!」
ララノアとセーラムが揃って攻め立ててくるんだが、こうなってくるとどう足掻こうが俺にはどうしようもなさそうだ。
救いは赤帝竜だけは無関心な事だろう。
と、その赤帝竜を目で探すと、見知らぬ連中と何やら会話を楽しんでいる。
まさか赤帝竜に俺は捨てられたのか!?
「え、えーっと……」
愛菜は声を張り上げた事による注目を浴びた事で恥ずかしがっているが、それよりもちゃんと説明をしてもらいたいものだ。
「あ! 謎の超美女!」
「うん?」
「はい?」
愛菜がアリエルとエラウェラリエルを指差して言う。
人を指差ししたらダメだろう。 と、そんな場合じゃなかった。
「落ち着いて聞いてくれ。 今俺はこの子に召喚されて元の世界にいるんだ……って」
聞いてねぇぇぇ!
「これっ!」
スマートフォンを取り出して画像を見せている。 おそらく俺が見せられたものと同じ画像だろう。
「あ、これ懐かしいね」
「サハラさんの元の世界だったところですね」
「サハラの……パパの元の世界?」
「わぁ、これってサハラさんが部屋に飾ってた絵みたい!」
これが女の連帯感と言うやつか……
気がつけば俺は放置されて女だけで勝手に盛り上がりはじめた。
「小僧、相変わらず女に困らないやつだな」
「やめてくださいよバルロッサ師匠。 ここまでくると女難でしかないですよ」
「カッカッカ、女難ときたか」
「俺は普通に羨ましいと思うぜ?」
「今のレイチェルに聞かれたら知らないぞ、マルス」
「っは! レイチェルならガールズトークに夢中……ぐふぁっ!」
「こんの浮気者がぁぁぁぁ!」
ガールズトークに加わっていたはずのレイチェルが、マルス顔面を殴り飛ばして握りこぶしをプルプルさせている。
……死んだな。
「サハラは随分と変わったな」
「そうか? いや、そうだな。 ズィーといた頃の俺はまだまだ甘かったからな」
「どういう魔術かは知らないが、また会えて嬉しいよ」
「俺もだ、ズィー」
「そういや俺が、いや、キャビン女王の力添えもあったが、転移装置は役に立ってくれているか?」
「あれは……」
「破壊されてしまった」
いつのまにかセッターもいた。
「そうか……動力の復帰自体はそう難しいものじゃないんだがな」
「私ももうすでにこの世を去っている。 今を生きるものたちが必要なら修復する者もでてくるだろう」
なんだかしっちゃかめっちゃかだ。
これはクリスマスが起こした一夜限りの奇跡だ。 余計な事は考えないで楽しむべきなんだろう。
気がつけば誤解は解けていて、愛菜も俺の世界の住人たちと打ち解けているようだ。
っと、それよりもだ。
「おーい、ルースミア。 俺にもその人たちを紹介してくれないか?」
「おお、そうだったな」
「ねぇ、もしかしてこの人がルーちゃんの旦那さん?」
「案外普通だな?」
「……人は見かけで判断しちゃダメ」
「わっはっは! 一本取られたようじゃなカル」
というわけで紹介してもらったんだが、どうやらルースミアが異次元に飛ばされた時に知り合った者たちらしい。
「へぇ、ルースミアが俺の事をなんて言ってたのか是非聞かせて欲しいな」
「そりゃあたいそうあんたにベタ惚れだよ」
「そうねぇ、最初から最後まで番番番ってあなたの事しかなかったわよ?」
おうおう、嬉しいねぇ。
で、そのルースミアはと言うと、俺の胸に頬を擦り付けてきている。
「ティアよ、こりゃあ儂らじゃ敵わんわけじゃな」
普段ならこのルースミアの行動は恥ずかしいんだが、今この時ばかりはルースミアのこの愛情表現が愛らしく思える。
「ねぇサハラさん」
アリエルが声をかけてくる。 その顔は何か考えがある時に見せる顔つきだ。
「愛菜ちゃんから聞いた今の状況を聞く限りだと、サハラさん八方塞がりなんじゃない?」
「いや? そうでもないぞ」
「え?」
「実はな、今俺は教団の1人の女性に契約されてるんだ」
「……また女性ですかサハラさん」
うおっ! ウェラの目がめちゃくちゃ怖いぞ!
「もちろんいつでも破棄できるが、このチャンスを逃す手はないだろう?」
「つまりその女性を利用するってわけね?」
「そう! それだ!」
気がつけばロッジにいる全員があれやこれと俺に知恵を与えてくれる。
だがこれだけの知恵をくれたとして、目覚めた時俺は覚えていられるのだろうか?
「その時はその時ってもんだ。 サハラはいつも難しく考えすぎだ。 それとな……ずっと言ってるが、俺はお前が困っていれば必ず助けに行くからな」
「マルス……」
「俺の爺様はそっちの気がある人だったのか?」
「そんなことありえませんよ、ヴォーグ様」
「うおぉぉ! ベネトナシュ、その目、たぎってくるぞぉぉぉぉぉ!」
「コイツ、本当に俺の孫か?」
「……ああ」
「申し訳ありません、父上」
マルスの息子であるラークは冷静にしてマトモだ。 むしろラークの方が血が繋がっているのか不思議に思えるほどだ。
——ゴーン。
不意に柱時計の音が鳴る。
「どうやらこの奇跡の時間も終わりに近づいているようだぞ小僧」
バルロッサ師匠が何かを感じ取った様子で俺に告げてくる。
「困ったことがあったらいつでも来い。 話ぐらいは聞いてやるからな」
バルロッサ師匠がそう言うと薄っすらとなっていき消えていく。
「余の力も必要であれば……気が向けば手を貸してやろう」
「サハラ様、私も及ばずながら」
「私もいつでもいつだってサハラ様をお慕いしていますから」
レフィクルとその妻ラーネッド、そして訳のわからないことを口にしたスエドムッサたちもそう言うと消えていく。
「サーラ、じゃなくてサハラだっけ。 あんまり話せなかったけど楽しかったよ。 まぁあたしらじゃ役には立たないだろうけどね」
「仕方がないのれす。 僕は転生してクゥでもあるからサハラさんの事も分かるんれすけど、会えてよかったれす」
「アルクレスタ様はぁ、最後までサーラさんの事忘れることは無かったのですよぉ」
「君が男であっても私の気持ちは変わらないよ」
うう、黒歴史のキャッティの仲間たちとはあまり会いたくは無かった。 だが、まぁ今となっては良い思い出だろう。
本当は全員の別れの言葉を聞きたかったが、この奇跡の時間も許してはくれないようだ。
気づけば残ったのは俺の嫁3人と愛菜だけになる。
「サハラさん、ちゃんと愛菜ちゃんを守ってあげるのよ?」
「当たり前だ」
「愛菜さんは覚悟出来たんですね?」
「えっと……はい。 でも本当に良かったんですか?」
「強い雄に雌は集まる。 これは仕方がないことだ。 だが、実現するかはサハラ次第だがな」
なんだか怪しい話をしている気がする。
「一体なんの話だ?」
「サハラさんは知らない方がいいわよ」
「愛菜さん、無理強いは絶対にダメですよ!」
「イレギュラーな行いだけに危険かもしれんなぁ」
そう言うと3人も消えてしまう。
残された俺と愛菜。
「一体なんの話だったんだ?」
「ど、どうでもいいじゃない! それより見て! クリスマスツリーがとっても綺麗よ」
話を逸らしたか。 まぁどうせ記憶から消えるんだろうからどうでもいいことか。
「そうだな」
「そういえば、さっき契約されてるって言ってなかったかしら?」
「実はな美術の久保先生、教団の1人だった」
「えぇえぇぇぇえ!」
驚くのも無理はないな。
「安心しろ、愛菜は俺が必ず守るし両親も必ず助けだしてやるからな」
「……うん」
愛菜が俺に寄りかかってくる。
まぁ今日ぐらいはいいか……
「そうだ、サハラさん、メリークリスマス!」
「メリークリスマス……ってマジかよ!」
「アレって……」
「「サンタクロースゥゥゥッ!?」」
クリスマスツリーの上空をトナカイに引かれたソリに乗った赤い服にたっぷりとした白い髭を蓄えたサンタクロースが駆け抜けていく。
「見て! ツリーの下に何か置いてあるわ!」
まさかとは思ったが、ロッジを出てクリスマスツリーに近寄ると俺と愛菜それぞれの名前が書かれたプレゼントが置いてある。
手にした瞬間、意識が遠のいていく。
どうやら俺の奇跡の時間も終わりが来たようだ。
「愛菜、俺を信じろ。 必ず約束は守るからな」
「うん、それとどうせ記憶に残らないんだから伝えておくけど……サハラさん、私ね、サハラさんの事好きになったかも」
「はぁぁぁ!?」
盛大な告白を受けながら意識が途絶えた。
メリークリスマス!
時間が無かったため、内容もいい加減で懐かしい登場人物たちもあまり描けきれてませんが、過去の作品を知っている方たちは懐かしい名前が出てきていると思います。
メリークリスマスです。