今後の方針
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さて愛菜にここまで言われたワルキューレはというとだ。
「姫川愛菜、まず彼はあなたの守護者ではない」
そうそう、はっきり言ってやるんだ。
「そして好意を持つのは私の自由だと思います」
うんうん……って、はぁ!?
「何を言うかと思えば……あなたは所詮人間に呼び出された実在しない存在なのよ? 召還されたらそれでおしまい、さようならでしょう?」
おおう、なんだか話が違う方へ向かいだしてるぞ!
「召還されなければ居続ける事は可能ですので」
「ふんっ! それなら今からでも安倍君に電話して、付き合ってあげるからワルキューレを召還するようにお願いするんだから!」
「そ、それは卑怯です!」
なぜ話がそうなっていくよ……
とにかくこのままじゃ泥沼になるだけだな。
「2人ともちょっと冷静になれ」
「サハラさんはこのワルキューレの事が好きなんですか!?」
「私はあなたに好意を持ってはいけないのですか?」
……なぜか知らんが、どうやら俺はワルキューレに惚れられたようだ。
って違う!
「とりあえず愛菜、召喚魔法の事について教えて欲しい。 好きだなんだっていうのはその後で好きなだけやってくれ。 今はやるべき事を優先するんだ」
ハッと2人が赤面して黙り込んでしまう。
「コ、コホン……ええと、召喚魔法だったわよね? 前にも説明したと思うのだけど……」
「まず新月だったな。 これはどうにもならないとして、召喚魔法に使う品々はまだあるんだよな?」
「ええ」
「んで、呼び出す場所は地上よりも深い場所なんだろ?」
ここでおとなしく聞いていたワルキューレが、「え!?」と声をあげてくる。
「私はごく普通に安倍家の外でしたが……」
今度は愛菜が「え!?」と声をあげた。
って事はなにかい? 地上よりも深い位置というのは関係なかったのか?
「おそらくですが、召喚魔法は使った時に目立つ発行をします。 なので目立たない場所を探させたのでは……」
「そんな……」
他にももしかしたら理由があるのかもしれないな。 なにしろ愛菜の両親は魔法使い協会の上に当たる秘密結社の人員なんだから。
「まぁそこは今は置いておこう。 最後に召喚する時は思い描くとか言ってたな。 どうやったら俺が召喚できたんだ?」
「え! う、え、えーと……」
愛菜が顔を赤くさせて口ごもる。 仕方がないからワルキューレに聞いてみることにするが、俺同様そこはわからないようだ。
となればやはり愛菜に答えてもらう以外ない。
「頼む愛菜、教えてくれ」
「い、嫌よ! 絶対に嫌!」
「——愛菜」
「言わないって言ったら言わないわよ」
「——愛菜」
うーっと赤面しながら俺を睨んでくる。
「——愛菜」
「わ、わかった! わかったわよっ! 言えばいいんでしょ、言えばっ!」
というわけで愛菜が思い描いた事を話しだす。
まぁおおよそ予想はついていたが、もはや守護者を呼び出すというよりも、まるで理想の男でも呼び出すかのようなもので、聞かされる俺まで恥ずかしくなってくる。
「これで納得したかしらっ!」
「いやぁ……」
「こ、これは……」
半ギレしている愛菜に対して、半ば呆れる俺とワルキューレ。
「ま、まぁ、愛菜を絶対に守り抜いてくれる騎士様っていうのは当てはまらなくもないが……別に俺はイケメンじゃないだろ」
「それを自分で言ってしまうんですか?」
「そりゃそうだ。 まだ俺がこの世界の住人だった頃、そりゃあ彼女ぐらいはいた事もあるが、モテたかと言われればそんな事はないからな」
「人は外見だけが全てではありません。 私もあなたと行動を共にしてみて素敵な方だと思いました」
「そ、そうよ!」
まいったな……
だがこれでわかったのは選択して呼び出せるというわけではないようだ。 当たり前って言えば当たり前だ。 もしも神話やおとぎ話の中から自由に選択できるのであれば誰しも知りうる最強の存在を呼び出すに決まっている。
という事は俺の嫁を召喚するのは厳しいか……
どちらにせよ、新月まではまだまだ先だしそれはおいおいってところだな。
「——さん、サハラさん!」
「ん、なんだ?」
随分と考え込んでいたようだ。
「あの……ま、魔力! 魔力は大丈夫なの?」
「何ともないな」
「魔力供給を無くしてここまで平気でいられるなんて信じられませんね」
そう言われても何ともないんだから仕方がない。
「しかし何でまた急に魔力のことなんか聞いてきたんだ?」
「急に黙り込んじゃったから……」
愛菜なりに心配しただけか。 だがな、俺はたとえ魔力が闊歩しようが、掘られる趣味はないからな。 っとそれはさておき……
「とりあえず召喚は諦めるか……」
「一体何を召喚しようとしたんですか?」
「ん、ああ、俺の嫁さんたちを召喚できればなと思ったんだ」
「駄目!」
「駄目です!」
2人揃って拒否してきやがった。
「何でだ?」
「奥さんを危険に晒すなんて良くできるわね?」
「そうです! 大切ではないのですか?」
2人とも俺の嫁さんを知らないからそんな事を言うんだな。
「3人のうち1人は確実に俺よりも遥かに強いぞ? たぶん……あれに勝てるものはない」
「それってサハラさんでも?」
「本気でやりあったらたぶん瞬殺されるな」
「……しゅ、瞬殺」
「どちらにせよ無理そうだとなると、この3人で何とかするしかなさそうだな」
“俺が抜けてるぞサハラ”
「はいはい」
“愛菜、サハラはいつもこうやって俺をいじめるんだぞ!”
なに愛菜を味方につけようとしてるんだこのバカ犬は。
愛菜だって苦笑いを浮かべてるだろう。
「一度整理してみよう。まず俺は教団の守護者から愛菜を守りながら愛菜の両親の救出だ」
頷いてくる愛菜とワルキューレ。
「愛菜は両親の救出だな?」
「そうね」
「で、ワルキューレは俺たちの手伝い」
「はい」
となれば、現状なに一つ目的には近づいていない。
「明日、フェンリルとワルキューレは愛菜を守っていてくれ」
「サハラさんは?」
「 俺は学校に顔を出して愛菜をしばらく休ませる旨を伝えてくるのと、俺の教員を辞めてくる」
学校に行かせるのはどうにも危険が大きい。 ならば問題が解決するまでの間、休ませるのが得策だろう。
そしてもう一つ聞いておかなくてはならない事がある。
「ずっと気になっていたんだが、家にいる間はなんで襲ってこないんだ?」
「襲ってきたじゃない」
「あれはシャーロットだろう?」
「そうじゃなくて、さっきの奴よ!」
確かにそうだが、手を出してきたわけではない。
「私たち守護者は招かれない限り、他者の家に侵入することはできません」
何そのドラキュラみたいな設定……
「じゃあ何か? 愛菜の両親が捕らえられている場所が分かったとしても、俺らは入り込めないっていうのか?」
「おそらく……ただ、あなたは別だと思います」
なるほど……契約に縛られているってわけか。 教団員だけでは守護者を相手にはできないから襲ってはこないというわけだな。
なんにせよ、それならそれで好都合だ。 今日は休んで、明日やるべき事を済ませよう。