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撤退と説明

 教団のジジィは姿勢を正し白髪が混じった顎髭を撫でながら俺を見据えてくる。


「何がおかしい?」


 不敵に笑うジジィがどうにも胡散臭い。 何かあると思った俺は、愛菜とワルキューレを庇うように前に立った。


「判断力もあるようだな。 君の素性がますます気になる……どうだね私と手を組まないか?」

「断る」

「ふっ、即答かね。 まぁ話ぐらい聞いてくれてもいいだろう?」


 この余裕は一体なんだ? 何かを待っているのか?


「手短に言おう。 姫川夫妻の居場所を教える……どうだね?」


 これには愛菜がピクンと反応を見せた。


 こんな時に時間を止められる彼女(ブリーズ=アルジャントリー)がいてくれればな……

 この判断は俺よりも愛菜に任せるべきだろうな。


「愛菜、お前の判断に任せるよ」


 まぁ話を聞くと言うだろうけどな。


 そう思った俺の考えとは裏腹に、愛菜の返事は違うものだった。


「——お断りよ、帰りましょう」


 驚いた顔を見せたのはワルキューレだ。


「なぜです姫川愛菜! あなたの両親の居場所がわかるかもしれないのですよ!?」

「サハラさんは最初に断った。 なら私はそれに従う」

「わかった……という事だ。 悪いがここでお別れだ」


 ほんの一瞬だが、ジジィの奴が舌打ちをするのを確認できた。


「行くぞフェンリル! そいつがすぐに脱出できないだけの檻を作っておけ」

“殺さなくていいのか?”


 頷いて返す。


 あとあとを考えれば殺しておいた方がいいと思うが、なぜかそうしてはいけない気もしたため生かしておく事にした。




 パジャマ姿に裸足のままではさすがに歩かせるわけにはいかない。

 愛菜を抱え上げようとした直後、首に腕を回され抱えられなくされた。


「また脇に抱えようとしたでしょ! 私は物じゃないんだから、その……ちゃんと運びなさいよね!」


 そっぽを向いて顔を赤らめながら言ってくる。


「ならワルキューレに頼もうか?」

「——なっ!」


 俺がワルキューレの方を向いて言うと、ワルキューレは1歩下がって拒否を示してきた。


「今がどういう状況かわかっているのなら我慢するんだな」


 一刻も早くこのジジィから離れるべきだ。

 愛菜も理解したらしく、大人しく俺の脇に抱えられる。


「た、確かに酷い扱いですね……」

「うっさいわ! サッサと帰るぞ! ついてこれなきゃ置いていくからな! フェンリル行くぞ!」


 ダッシュでこの場から離れる。

 俺が感じ取れる感知(センス)ギリギリのところでジジィの他に何者かの存在が現れていたからだ。


 追ってくるか不安はあったが、どうやらジジィを優先したのか追ってくる様子はなかった。




 姫川家に辿り着いて愛菜を下ろす。


「危なかったな、あの後誰か現れていた。 愛菜の判断は正しかったよ」

「あっそう!」

「脇に抱えて走ったのは謝る。 もう怒るなよ」

「せめて抱っこかおんぶにしてよ!」

「それだと走りにくいんだよ」

「——もういいっ!」


 ドスドス音を立てながら2階の自分の部屋に入ると、バタンとわざと大きな音を立てて部屋に篭ってしまった。


「やれやれ……」


 それはさておき……


「フェンリル、ワルキューレはどうした?」

“もう少しで来るぞ?”


 フェンリルの言う通りそのすぐ後に感知(センス)に反応を感じ、そして息を切らせながらワルキューレが戻ってきた。


「遅かったな?」

「あ……あなたが、い、異常なん、です!」

「そうなのかフェンリル?」

“普通だろ?”


 呆然とするワルキューレの顔を見て、俺の異常さはこの世界でも抜きん出ていることがなんとなくわかった。


「そ、それで……姫川、愛菜は……はぁ、どうしたん、ですか?」

「とりあえず深呼吸でもしておちつけ。 愛菜なら大層ご立腹な様子で部屋に行っちまったよ」

「はぁ……まったくあなたという人は……少しは女心というものがわかってあげられないのですか?」

「わかってる、わかっているからこうしているつもりだ」


 いずれは別れの時が来る。 だからこそ恋愛感情を持たれないようにしているつもりだ。

 そんな俺の考えがわかったのか、ワルキューレはそれ以上何も言わない。


 部屋に立て籠もった愛菜は放ったまま、俺はリビングで今後のことを考える。


 少なくとも教団もかなり本腰を入れてきているように感じる。

 そして今さっきの教団のジジィ……なぜあの時殺さずにいた方がいいと俺は思ったのだろうか?


「ミスったか……」

「あの時点で老人を殺さなかったこと……ですか?」

「ああ……」


 たぶん愛菜の両親に関する情報がどう足掻いても得られなかった時のため、なんてことを俺は考えてしまったのだろう。


「あの時、君ならどうしていた?」

「そうですね……おそらく打ち倒していると思います」


 敵であれば容赦はしないといったところだろう。 おっそろしい女だ。



「なんの話よ。 私がいない間に勝手に決めないでもらえないかしら?」


 愛菜が部屋から出てきて、2階からリビングを見下ろしながら聞いてきた。

 どうやら服に着替えていたらしい。


 愛菜がリビングに来て、俺の横よりワルキューレの座るソファの方が広いというのにも関わらず、2人掛けとはいえそんなに広さのない俺が腰かけている方のソファに尻をねじ込むように座ってきた。


「あっちの方が広いだろ」

「説明してもらわないと私は今の状況がまったくわからないの!」


 そうだった。

 というわけで順を追って安倍の父親が来たこととそこで聞いた話、そしてワルキューレが残ったこと、そして先ほどの事までを説明してやった。


「うそよ……シャーロットおばさまが私を殺しに来たなんて」


 やっぱりさっきの事よりもシャーロットが愛菜を殺しに来たことの方が衝撃が大きかったようだ。


「もちろん安倍の父親の嘘かもしれない。 だが嘘をついて俺とシャーロットを敵対させるメリットはないだろう? それに腕試しといって戦った時、シャーロットは愛菜がいるにも関わらず守護者(ガーディアン)をけしかけてきた。 あれは下手すりゃどちらかが死んでいてもおかしくないやり方だ」


 ショックは隠せないようだ。


「だが……俺が勝ち、契約こそないが愛菜の守護者(ガーディアン)として俺がついている事でシャーロットは魔法使い協会に安全だと伝えた。 もう愛菜を狙ってくることはないから安心しろ」

「う……うん……」


 ま、そうは言ってもあれだけ懐いていたシャーロットに命を狙われたとなれば、そう簡単に気持ちの整理はできないだろうな。

 



 しばらくの静寂が訪れる。


「それでなぜワルキューレが手助けをしてくれるの?」


 気持ちの切り替えが早いのか、それとも気丈なのか。 愛菜はシャーロットのことが終わるとワルキューレに問いただす。



「そうですね、一言で言えば……彼に興味を持った、といったところでしょうか」

「きょ、興味!? それって好きって事? ダメよ! ダメダメ! 私の守護者(ガーディアン)に勝手に惚れないでちょうだい!」


 愛菜よ、ワルキューレはそこまでは言ってないし、俺は君の守護者(ガーディアン)じゃないぞ……




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