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身の上話

 フェンリルにはイヤリングに戻ってもらい、地下駐車場を出て外へ出ると既に夜になっていた。 だが繁華街の夜は明るく人通りも多い。


「それでどこへ向かうんですか?」

「私の家……って、まるで別人みたいね」

「いろいろとありましたからね。 それで愛菜の家はどこになるんです?」

「ついて来ればわかるわ。 それよりもさ……サハ……サラさん、あなたってやっぱり目立つわね」

「ですねぇ〜、あはは」


 そう、俺たちは目立っていた。 と言うよりもさっきからナンパがしつこい。


「どうせぜーんぶあなた目当てよ、サラ。 私はオマケね」


 俺の目から見て愛菜も決して可愛くないわけじゃない。 むしろ美少女だと思う。

 流行りなのかわからないが、愛菜はブレザーの制服姿に黒いタイツを履いている。 その黒いタイツの足もほっそりしていて俺的には良い。

 タイツフェチの俺の採点では10点満点中9点はある……っと、それはどうでもいい。

 確かにナンパのお目当が俺だというのは俺自身でもわかった。


「モテる女は辛いわね」

「あーそうですか!」


 少しやりすぎたか。


 その後、池袋駅に着くまでの間に何度もナンパされながらやっと電車に乗り込んで移動していく。

 乗車券を買おうとした愛菜にスイカを取り出してニッコリ笑って見せた俺を見て、愛菜は呆れた顔を向けてきた。

 目的の駅に着くと愛菜は今度はタクシーを使って移動する。


「ここよ」


 そう言われてたどり着いた場所は、どこも変哲のない閑静な住宅街にある庭付きの一軒家。 だが……


「——結界か」


 俺のこの特別な目は誤魔化せない。

 愛菜が驚いた顔を向けてきた。


「驚いたわ、一瞬で見破るのね」


 その場はにっこり笑って誤魔化しておく。

 結界が張ってあることはまではわかるが、どういう結界かまではわからないからだ。


「侵入者があれば即座に私が気がつく結界よ。 入って」


 やはりまだまだ若いな。 結界の効果は口にする必要はないものを。

 見渡すと結界は地面まではわからないが敷地全体を覆っている。

 だがここにきて疑問が浮かび上がった。

 召喚魔法に結界、愛菜は魔法を使えるとでも言うのか?

 そしてここが元の世界だとして、魔法が存在するのだろうか?



 一見ごく普通に見える家の中に土足のまま通された俺は広いリビングに連れて行かれ、そこにある椅子に勧められるまま座った。

 部屋の中に怪しげなものはなく、本当にごく普通のリビングのようだ。


「土足のままで良いのか?」

「いつ狙われても良いようにね……その話は後にしてあなたの長い話っていうのを聞かせてもらえるかしら? 言っておくけど私が召喚したのだから拒否はできないわよ」

「へぇ、どうしてだ?」


 愛菜が腕を見せてくる。 そこには奇妙なアザが浮かび上がっていて、それを見た俺は思わずため息が漏れてしまう。


「あなたを召喚した私には3回、あなたに命じる権利があるわ」


 もしもこれが本当に効力を発揮したとして、絶対服従なんて命令でもされたらかなわないな。


「ならとりあえずそんな危ないものは破棄させてもらおう」


 目に力を入れるとパシーンと音が鳴って愛菜が痛みからか腕を押さえる。


「悪いが俺にそんなものは通用しない」


 慌てて愛菜が腕を見てアザが消えているのを確認すると、明らかに敵意をあらわにして身構えてきた。


「ありえない。 この術式を破壊できるっていうの? それも世界(ワールド)守護者(ガーディアン)とかいう力なわけ?」

「まぁそんなところだ。 それよりなんでそんなに身構えるんだ?」

「当たり前でしょ! 契約が破棄されればあなたは私を襲うこともできるんだから!」


 さっきからどうにも俺がよく知る設定のような事ばかり聞かしてくれる。


「俺は君に何もしやしないよ。 ただ俺を束縛していいのは嫁さんだけにしてもらいたいだけだ」


 愛菜が今もなおおとなしく座っている俺の事をじっと見てくる。 そしてプッと笑った。


「冗談にしちゃアレだけど、どうせ本気で戦ったところであなたに勝てそうな気は全くしないわね」

「そうだな、万に一つもない。 なにせ今の俺は……バケモノだからな」


 そうだ、今の俺はもはや人間なんてレベルじゃない。 それも俺が今暮らしている世界の創造神の執行者、という創造神と対等の存在のようなものだ。


「最初に自己紹介をした時、あなたは遠野沙原と名のった。 教えて、あなたの身に一体何があったの?」


 自身をバケモノと言ったのを心配してくれたのか、愛菜は眉を八の字にさせながら聞いてきた。


「そうだな……」


 俺は愛菜が用意してくれたお茶を一口すすってから話しはじめた。


 俺がこの世界から車に跳ね飛ばされてあちらの世界に行ってしまったこと、そしてそこでいろいろな人や神々にも会ったこと、そして仲間だった者たちの老衰による別れ。

 つまり凡人だった俺が異世界に転移してしまい、その後【自然均衡の神】の代行者である始原の魔術師として生きてきたことを話した。


 そこまで話をして気がつくと、目の前に座る愛菜の目に涙が溢れていた。 それを見ないようにお茶を一口すすってから話しを続ける。


 その後も生き続ける俺は世界(ワールド)守護者(ガーディアン)となり、その世界を守る存在になった。 様々な人達と出会い、そして死に別れていった。


 だいたいザッと話し終えて口をつぐむと、愛菜は涙をボロボロ流していた。


「そんなに感動するような話だったか?」

「感動っていうより、そんなに大事な人達と死に別れてきてあなたは何にも思わないの?」

「それを気にしてたら今頃自殺でもしてるな。 それに俺には3人の嫁さんがいる。 その3人を残して死ねないだろう?」


 そういや今頃あの3人はどうしてるんだろう。 俺の最後の記憶は……くそっ、あやふやで思い出せない。

 俺は何か大切なことを忘れてるんじゃないか?


 そんな事を考えていたら、愛菜が笑い出しやがった。


「なんだよ?」

「なんかさ、あなたの3人の奥さんの話だけを聞くと、ラノベの主人公街道まっしぐらよね」

「それは確かに否定できないな」

「でもそうなるとあなたは元の世界に帰ってこれたって事なんじゃないの?」

「それは違うな、俺はもう既にここの世界の住人じゃない」

「なんでそんな事がわかるの?」

「簡単な理由さ、俺と初めて会った時に君自身が言っただろ?」


 ……あ、と愛菜も理解したような顔を見せてくる。 召喚魔法で呼び出されるのはこの世界に存在しないものと言ったのは彼女自身だ。


 さて俺の昔話はしたんだ。 今度は愛菜が俺を召喚した目的なんかを聞かなきゃいけない。


「それで? 俺を召喚した目的はなんだ? まさか聖杯を得るために他にも君のような魔法使いがいて、同じように召喚した連中と殺しあえ、とか言わないよな?」


 もしその通りならまさしくアレと同じだ。


 愛菜はキョトンとした顔を見せたあと、大笑いをしはじめた。


「あなたってもしかして結構なオタクだったの? 安心して、そういうんじゃないわ。 それにあなたと私はもう主従の関係じゃないでしょ? ……でも、戦ってもらうっていうのは間違いじゃなかったけどね」


 どうやら同じ設定じゃないらしい。 だがどうやら戦うというのは変わらなかったようだが。


「話してみろよ、もしかしたら俺の気がむくかもしれないぞ?」

「そうね、規格外の力を持つあなたのその助力が得られたらうまくいきそうだものね」


 そういうと愛菜がポツポツと話しはじめた。


 


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