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深い眠りに落ちた愛菜

 その日の夜、また例の霧が辺りに充満しはじめる。



 ——まな


 ——ひめかわ まな


 ——おいで


 そんな声が聞こえだす。

 起き上がり、ベッドで寝ている愛菜の側に行くと、愛菜がまるで寝ぼけたような顔のまま起き上がろうとしはじめた。


「愛菜! 目を覚ませ!」


 揺すってみるが目をさます気配がない。

 軽く頬を叩いてみるが、前回とは違って目が醒める様子がない。


 くそっ! どうすればいい? このまま愛菜が行く場所の後をつけるか? それともこのままここで押さえつけるべきか。

 安全策は押さえつけておくことだろうが、こんな事が毎晩やられたらこっちはたまったもんじゃない。

 では少々危険だが愛菜の後をつけ、大元を断つか?



 押さえつけながら考えていると、愛菜を呼ぶ声が収まる。 愛菜も力が抜けたように倒れそうになったところを支えベッドに運んだ。


 終わった……のか?


 しばらく眠る愛菜の様子を伺ったが、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。


 ひとまず安心なようだ。 だがコイツも早く手を打たないとマズそうだな。





 朝になり目をさます。 疲労もあってか眠ってしまったようだ。

 すぐに愛菜の様子を見ると今もスヤスヤと眠っている。

 だがそこですぐに異常に気がついた。

 昨日寝かせた時の格好のままだった。


「おい、愛菜起きろ。 朝だぞ」


 声をかけてみるが目覚める様子がない。

 慌てて今度は体を揺すってみるが、それでも目が覚める様子がない。


「嘘だろ!?」


 脈があるか手首に触れてみるがよくわからない。 胸に耳を当てて心臓の鼓動を確認してみてホッとする。

 ドクンドクンという音が聞こえ、死んでいないことは確認できた。


 眠りの魔法か何かか? くそっ! わからない。


「フェンリル、眠りから目覚めさせるようなドルイド魔法はあったか?」

“ない”


 フェンリルが姿を見せて答えてくる。


 このまま放っておくわけにもいかないだろう。

 すぐに学校の方へ連絡し、愛菜が病気で倒れたから俺と愛菜は今日は休むと電話を入れたまではよかったのだが……


「こんな状況で襲ってこられたら太刀打ちできないな。 フェンリル、調子の方はどうなんだ?」

“ダメかもしれないけどバッチリだ”


 いや、意味わかんねーよ、それ。


 たぶん大丈夫ってことでいいんだろう。

 安倍が気づいて来てくれると心強いのだが、かといって昨日の奴らを相手となると危険すぎる。

 特にあの超絶美女はとんでもなく危険な香りがした。


 しかしこうも愛菜に執着する理由がどうしてもわからない。 仮に両親の口を割らせるための道具だとしても大げさなような気もする。

 それともそうまでしてでも魔法使い協会の場所を知りたいのだろうか?



 しっかし酷い話だよな。 姫川夫妻の捜索はしてくれているみたいだけど、それ以外は魔法使い協会からの助け舟は一切無し。 なんとか味方になった奴はすけべ根性丸出しの奴ときたもんだ。


 今のこの状態じゃあ俺は愛菜から離れるわけにもいかないとなると実質消耗戦だ。

 しかも守護者(ガーディアン)として出てくる相手も生半可な強さじゃないし、愛菜を呼ぶアレの正体もわからない。


「唯一の救いは俺にはお前が居てくれるってとこだな」

“おう!”


 とはいえフェンリルもワルキューレを相手にした時にやられている。


 俺……というか愛菜だが、愛菜の味方となる人物は安倍の他にはシャーロットしかいないのだが、そのシャーロットも連絡を取る術がない。


 仕方ない……次の愛菜を呼ぶ声があったら行かせてみるか。 せめて愛菜に目覚めてもらわないとどうにも動けないからな。




 次がいつかわからないが夜を待つことにする。 それまでに昨日の奴らが来たら詰むかもしれないが。


 昼が過ぎた頃、姫川家に近づく者がいる。

 チャイムが鳴り、窓から覗くと安倍が来た。


「今日2人とも休みだったんで、午後から早退して来たんですが何かあったんですか?」


 あまり愛菜の元から離れたくない俺は、安倍を愛菜の部屋に通して状況を説明する。


「一応、俺が祈祷してみましょうか?」

「やらないよりはマシだな。 頼む」


 そう言うと安倍が神社の神主がやるような祈りを捧げはじめる。

 一通り終わったようだが愛菜が目覚める様子はない。


「僕程度の祈祷じゃダメみたいですね、父さんなら可能性あるかもしれないけど……」

「頼んでも無理なんだろ?」

「ですね」


 そこでふと思った事を聞くことにする。


「お前、昨日の事は両親に話してないのか? たぶんお前もターゲットにされてるはずだぞ?」

「言えるわけないじゃないですか。 両親には姫川家とは関わるなって言われてるんですよ?」


 こいつアレだ、バカだ。


「今すぐ両親に電話して伝えるんだ。 さもないとお前の両親は何も知らないうちに襲われるかもしれないぞ!」


 いやいやだってがあったが、最終的には渋々ながら家に電話をする。

 隣にいる俺にまで聞こえるほどの怒鳴り声が聞こえてきた。


「……今から迎えに来るそうです」


 安倍は今にも泣き出しそうな声で言ってきた。




 10分もしないうちに家の前に車が止まる音が聞こえチャイムが鳴る。

 俺が顔を出すと、険しい表情をした安倍の雰囲気に似た父親であろう人物が立っている。


「誰だね君は」

「俺は遠野沙原と言いまして教師をやっているものです」


 明らかに怪しむ目で見てくる。


「それで、うちの息子は何処ですかな?」

「姫川愛菜の部屋にいます」

「連れてきてもらおうか」

「俺の説得に応じないのですが?」

「なら私が行く!」


 というわけで愛菜の部屋に連れてくる。

 安倍の姿を見て開口一番怒鳴りつけはじめた。


「あれほど姫川家に関わるなと言っただろう! お前の軽率な行動でうちまで狙われることになるのだぞ!」


 とまぁ、壮大な親子喧嘩が始まろうとするのだが、俺が間に入って止めることにした。


「まぁ待ってください。 安倍君はすでにもう襲われてしまい、顔も見られています。 すぐに安倍家も狙われることになるでしょう」

「うちは問題ない。 姫川家とは違うからな」

「失礼ですがその理由を教えてもらえませんか?」


 安倍の父親が俺の事をジッと見つめてくる。 まるで俺の心を見透かそうとでもいうかのようだ。


「お前は守護者(ガーディアン)だったのか。 貴様がこうなる様に仕向けたんだな!?」


 まぁ違わないが、先に関わってきたのは安倍の方だ。 親の言う通りにしていればこんなことにはなっていない。


「父さん、俺が接触したんだよ」

「なっ……」

「俺は姫川さんが好きだ。 俺のモノにしたかった。 だから助けてあげれば俺の事を好きになってくれると思ったんだ!」


 うん、思いきりコイツ本音を言ったな。 それでもって安倍の父親も呆れた様子を見せるのも頷ける。


「なんと不誠実な……呆れてものも言えんわ。 お前は家に帰ったらしばらく反省するまで家からは一歩も出さん!」


 安倍の腕を掴んで連れて帰ろうとしはじめ、このままじゃせっかくのチャンスも無駄になってしまう。


「俺に提案がある。 なぜ姫川家が狙われるのかと、愛菜を目覚めさしてくれたら俺も安倍君の説得に力を貸そう」

「お前! 僕を裏切る気だな!」


 裏切るもなにも愛菜がお前と親しい仲になる事はまず無いんだけどな。


守護者(ガーディアン)はなにも知らないのか?」

「俺は愛菜に召喚されたが、その時すでに姫川夫妻は連れ去られた後だったんでね、何にもわからない状態なんだ」

「ふむぅ……」



 しばらく考えた後、安倍の父親が話しはじめた。


 驚いたことに姫川家は魔法使い協会ではなく、実は秘密結社の一員の1人なのだそうだ。

 そしてその秘密結社の人間は魔法使い協会の強い念じにより、どの様な拷問を受けようとも口を破る事は無い様に施されているらしい。

 では意味がないのではと思ったが、唯一血を引く子に教える時は例外に伝える事が可能なのだそうだ。

 となれば愛菜を連れ去り、最愛の娘が拷問される様を目の当たりにすれば口を破るだろうと踏んだのだろうと安倍の父親は言う。


「最低な奴らだが、なぜ魔法使い協会は全力で助けないんだ?」

「簡単な理由だ。 今回で言えば姫川家が犠牲になれば秘密は守られる。 人としてどうかと思われるかもしれないが、我らはそれ以上に守らねばならないものがある」

「邪悪な神の復活の妨げ……か」

「うむ」


 全ての人類のために犠牲が出るのは仕方がないというのはよく映画とかでありがちな展開でもあるが、いざ実際目の当たりにするととんでもなく残酷な話だ。

 だがおかしい、なら愛菜は守らねばならないはずじゃないのか?


「当然最初は暗殺することになっていたそうだが、おそらく君のことだろうな。 もう会ったと思うが、魔法使い協会の懲罰担当が姫川の娘は優れた守護者(ガーディアン)に守られているから安全だと言ったそうだ」


 ……つまりアレか、あの時シャーロットが来た本来の目的は愛菜を殺すためだった。

 だが俺がいて目的が達成できなかったということか。 どうりで加減しなかったわけだ。

 そして守護者(ガーディアン)に本気を出させる前に勝敗を決してしまったと言ったところか?



「これで私が知る姫川家が狙われる理由は全てだ。 それと残念だがその娘の眠りは守護者(ガーディアン)によるもの。 人の手には負えん」

「なるほど……そういうわけだそうだぞ。 死ぬ覚悟が無いのなら今は俺に任せておくんだ」


 いくら守護者(ガーディアン)がいるとはいえ、日本という平和な世で生きてきた者に命を張るなんて、それも昨日の相手とも遭遇している。

 それでもという様なら少しわからせないとダメだ。


「ぼ、僕は……」

「昨日の奴らを相手にする事になるんだぞ?」


 多少の問答はあったものの、ワルキューレも加わり昨日の様なのが相手の場合、守りながら戦うのは難しいと言われ、さすがに愕然としながらも諦めてくれた。


 父親に連れられ安倍が車で帰っていったのだが……


「で? なんで君はここに残っているんだ?」


 俺の横にはワルキューレが残っていた。




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