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一切の攻撃を受けつけない強敵

 例の人気の少ない場所に近づくと争う音が聞こえてくる。 もっとも音が聞こえる前に感知(センス)で気がついてはいた。


「争う音が聞こえるわ!」

「わかってる」


 愛菜を置いて先に行きたいが、それでは愛菜が危険にさらされてしまう。

 そう思った瞬間、愛菜が俺に飛びついてくる。


「走って!」

「了解だ!」


 落ちないように手で支えながらその場所まで一気に加速して辿り着いた。



 そこには安倍の守護者(ガーディアン)ワルキューレが、鎧を着て長槍を持った足が蛇の巨人と戦っていて、安倍も何者かと魔法で応戦しているところだった。


「無事か!?」


 俺の声に安倍が振り返り、安倍と対峙していた相手も俺たちの方を見てくる。

 初日にここであった教団の奴と同じく上下真っ白な服装をしている。



「わざわざ出向いてきてくれるとは手間が省けましたよ」


 ニマーっと見せた教団の男の笑顔が非常に不気味だ。


守護者(ガーディアン)よ! あの小娘を捕らえて連れて行きなさい!」


 教団の男に命令されると巨人が吠え、ワルキューレを無視して愛菜を抱えている俺の方へ向かってくる。


「ちょっと離れてろよ」


 即座に修道士特有の呼吸法に切り替えながら、鞄から贖罪の杖を取り出し構える。

 足が蛇の巨人は気にする事なく俺に……俺の後ろにいる愛菜を狙って向かってくる。


 握り返して振りかぶる動作のない上段から贖罪の杖による一撃を見舞うが、巨人も手に持った長槍でいなしてくる。

 だが杖術による攻撃はいなされようが即座に握り返しで次の一撃を放てる。

 防御のために長槍を構えようとする前に、俺の贖罪の杖が巨人の体にヒットさせた。


 だがその直後、俺の体に激痛が走ったと思うのと同時に吹っ飛ばされた。

 巨人は俺の攻撃を物ともせずに長槍を叩きつけてきたようだ。


「な……んだと!?」


 吹っ飛ばされた事よりも贖罪の杖で殴って無傷の巨人に驚かされる。

 壁にぶち当たる前に縮地法で巨人の前まで戻ったはいいが、それで反動までは殺せない。 なんとか踏ん張り勢いを殺したまでは良かったが、次の一撃がすでに俺に迫っていた。


 縮地法で逃れるためには視線で移動先を見なければならないのだが、贖罪の杖の一撃を受けて無傷だった事と長槍が迫ってくるのに目が奪われてしまい、巨人の長槍が俺を捉えるのが早そうだ。

 こんな状況になって今更俺が相手をしている相手は、神話やおとぎ話に出てくるような連中だった事を思いだした。


 体に力をこめて衝撃に備える。


「サハラさん!」


 愛菜の叫ぶ声が聞こえた直後、俺と巨人の間に誰かが割って飛び込んできたと思った瞬間、ガキィンと金属と金属がぶつかり合う。


「間に合ったようですね」


 ワルキューレが巨人の一撃を防ぎながら、俺の方に僅かに顔を向けてくる。

 戦乙女の綺麗な横顔の口元の口角が上がっていて、それがまたえらく美人に見えた。


「助かったよ」


 ギリギリと巨人とワルキューレがせめぎ合いをしている最中、教団の男はと姿を探すと胸から大量の血を流して倒れている姿が見つかった。

 いくら魔法使いや教団の奴らが魔法が使えようとも、神話やおとぎ話に出てくるような連中を相手に戦えるはずもないだろう。


 ついでに安倍も探すと、ちゃっかり愛菜を守るフリをしつつ肩を抱いてやがった。


「これで2対1だ!」


 せめぎ合いをしている2人の横から贖罪の杖で殴りかかるのだがビクともしない。


「おかしな話ですが、この者には攻撃が一切通じません」


 身構えたまま俺の横隣に来て教えてくれる。


 ワルキューレといえば金髪で冠のような兜をかぶって、槍と盾に胸当てにマント。 あとは白い布切れ姿だとばかり思っていたが、今俺の横隣にいるワルキューレは、武器は槍と盾で額にティアラを付けて胸ぐらいまでの長さの癖っ毛のある黒髪にベアトップの胸当て、腕にはブレスレットをつけている。 下半身はベアトップの胸当てで僅かに隠れている程度でその下は水着のようなパンツだけらしく、生足が覗けて実にエロい。 膝から下は革のブーツを履いているが、綺麗な太ももは丸出しだ。


 俺の視線を感じたのか、ワルキューレが俺を見てニッコリ微笑んでくる。


「すまない……」



 さて気を取り直して改めて巨人と対峙する。

 俺の知るやつであれば召喚者が死ねば、その守護者(ガーディアン)も消えるはずだがそうではないらしい。

 野放しかよとも思ったが、例外のやつもいたからコイツもそういう類なのかもしれない。

 そもそも俺自身がそうだしな。


 とりあえず縮地法で巨人の背後に移動して贖罪の杖で殴りつける。 ワルキューレも俺の攻撃を見て槍で上毛を仕掛けるが、まったく手応えを感じられない。


「コイツ、一体何者なんだ!」


 巨人が振り回す長槍を回避しながら誰にとも言わず問いただす。


 俺のファンタジー好きの知識の中から必死に探し出そうとするが出てこない。

 おそらくギリシャ神話辺りの奴だろうと思うが、ゼウスやアテナのようなのは知っていても、その敵側までは詳しく知らなかった。


 決定打になる部位を狙って攻撃しても、まったく手応えがない。



「六根清浄、急急如律令!」


 安倍の魔法だろうか? 突然巨人が苦しみだす。

 魔法なら効果があるのか?……ならば!


「フェンリル! 精霊よ我に力を貸せ! 雹よ降り注げ! 雪よ(みぞれ)よ嵐となれ! 氷嵐(アイスストーム)!」



 辺りの温度が下がりだすとワルキューレがサッと俺の横隣に戻ってくる。 雹が降り始め巨人を中心に凍てつくブリザードが吹き荒れだした。


 これならどうだ!


 目を凝らしてブリザードの中にいる巨人を見つめていると、予測(プレディクション)で長槍が振り回されるのを予測したためワルキューレを掴んで後ろに急いで下がる。

 そのすぐ後に振り回された長槍が空を切った。



「あっぶねぇ」

「助かりました」


 急いで態勢を立て直すべく立ち上がろうとした時になってはじめて俺がワルキューレに覆いかぶさっていた事に気がついた。


「悪い……」

「先ほど私の足を見つめていた時とは目つきも違いますので、咄嗟の事だとわかっています」


 そう言ってニッコリ微笑んでくる。


 あちゃぁ……やっぱりさっき見ていたのはバレてたか。

 っと、それどころじゃない。 安倍の魔法が通じて俺の氷嵐(アイスストーム)が効果がなかった違いを見つけ出さないといけない。

 考えられるとすれば属性か? だが安倍の使った魔法の属性がさっぱりわからない。


「さっき使った魔法の属性はなんだ!」


 氷嵐(アイスストーム)が止み、巨人の攻撃をまた防ぎながら尋ねた。


「え? ぞ、属性ですか!? アレは呪術的なものなのでよくわかりませんが、たぶん聖属性あたりじゃないでしょうか」


 終わった……俺に聖属性の魔法なんかない。 となれば贖罪するしかないか……だがアレはできれば使わないでおきたかったんだけどな。

 単に隠しておきたいだけなんだが……


 で、贖罪をするにはまず断罪しなければならない。 そしてそのためには相手の目を覗き込む必要がある。


「ワルキューレ、下がっててくれないか?」

「何か術があるのですね? わかりました」


 ワルキューレが下がったことで、巨人は俺1人と対峙する状況になる。

 目標が1つになれば嫌でも俺を見ることになるわけだ。




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