聞けた情報
下校時間になる。 今日は別の教師が見送りに出て、俺は臨時職員のため少しだけ会議をした後解放されて帰宅となる。
下駄箱のある場所に着くと安倍が約束通り待っていた。
「待たせたか?」
「多少は。 でも仕方がありませんからね」
まるで人が変わったようで気持ちが悪い。
「じゃあ行くか。 それと愛菜はこのことは知らないから、俺の事を恋人として扱ってくるだろうがそこは我慢してくれよ?」
「今は我慢しますよ」
これで愛菜にフラれたらコイツはどうなっちまうんだろうな……
校門で1人待っていた愛菜が俺の姿を見てパッと笑顔を見せたが、そのすぐ横に安倍がいるのを見てむすっとした表情に変わる。
「僕、嫌われてるみたいですね」
当たり前だなんて当然言えない。
「今は我慢するんだ」
「わかってますよ」
実に単純な奴で助かる。
で、愛菜のところまで来ると安倍を睨みつけながら聞いてくる。
「サハラさん? なぜ安倍君がいるのかしら?」
「朝も言った通り協力を求めたら応じてくれたんだよ」
「それは分かったけど、私はなぜ一緒にいるのかを聞いているの」
「実はな、これからいろいろな情報を聞くために家に連れて行くつもりなんだよ」
愛菜が俺を手招きしてくる。
安倍から少し距離を置いてから俺に尋ねてきた。
「一体何を対価に出したのか聞かせてもらうわよ」
てっきりキレるのかとばかり思ったが冷静に聞いてくる。
「君と安倍の交友関係を条件に出した。 もちろん最終的に決めるのは愛菜だと言ってあるし、納得してくれている」
「じゃあ答えは決まっているわよ。 0はどれだけかけても0よ」
「それならそれで構わない。 今はとにかく情報が欲しかっただけだからな」
「それならその話に乗ってあげるわ」
納得いったのか、愛菜が悪女めいた顔で笑顔を見せたあと歩きだす。
俺が安倍に首で合図したあと愛菜に続くと、愛菜が当たり前のように腕を組んできて安倍は愛菜の横を歩く。
「一応帰り道も狙われているから気をつけてくれよ?」
「大丈夫ですよ、守護者もいるし僕だって一応魔法は使えますからね」
「え! 安倍君って魔法使えるの!?」
「一応程度だけどね」
陰陽師の魔法というやつか? 是非とも一度見てみたいものだな。
意外にも愛菜は安倍と親しそうに会話をしている。 本来なら学生同士だし、こういうもんなんだろう。
で、昨日ダンプカーに轢き殺されそうになった一本道に入ると、愛菜も思い出したのか俺を掴む手に力が入る。
「姫川さんどうかしたの?」
「昨日はここでダンプカーに狙われたの」
安倍が慌てた様子で振り返って見ている。
「俺の予想だが、おそらく連中は同じ手は使ってこないように思う」
「そうですか」
ホッとしたような表情を安倍が浮かべる。
「愛菜を守るという事はそういう事に遭遇する事になるが、覚悟はできてるんだよな?」
「教団の奴らか守護者同士なら覚悟はできてますよ」
その後も人気がなくなる通りも特に何事もなく愛菜の家まで辿り着く。
「着いたわよ」
姫川家を眺める安倍が驚いた様子を見せてきた。
「姫川さんの家って、防御の結界を張っていないの?」
どうやら姫川家の結界を1発で見抜いたようで、そこはさすがとしか思えない。
「一応警報の結界は張ってあるはずよ?」
「これじゃあ襲ってくださいって言ってるのも同然だよ」
俺と愛菜は安倍のいう意味がよくわからない。
すると安倍が鞄から何かを取り出して、ブツブツと呪文らしいものを身振り手振りをしながら唱え始める。
「——これでもう大丈夫」
フゥと額の汗を拭う安倍に対して、俺と愛菜は何をしたのかさっぱりわからない。
「とにかく入って……」
リビングに行き食卓の椅子に腰掛けて待っている間に愛菜はお茶の用意をしている。
「良い感じじゃないか。 焦らないでそうやってれば良かったものをなんだってあんな実力行使に出たんだ?」
愛菜に聞こえないようにそっと尋ねると、返ってきた返答はやはりというかヤキモチからだったらしい。
まぁ好きな子が知らない男と朝っぱらから仲良く登校するのを見せつけられれば、そりゃあ発狂もんなのかもしれない……たぶん。
お茶の用意が終わった愛菜が当然のように俺の真横に座る。 これでちょうど安倍とは対面になるからごく普通だろう。
「それで遠野先生が僕に聞きたいこととはなんですか?」
安倍の帰宅を考えれば、あまり時間はかけられない。
かといってすっかり聞きたいことをまとめておかなかったため、今日はとりあえず思いつく限りを聞く事にした。
まず、魔法使いは全員守護者を連れるものなのか?
これに対する回答はNO。 守護者を連れると教団にも魔法使い協会だとバレるため、敢えて召喚しない者の方が多いらしい。
連れるか連れないかは、召喚で呼び出した守護者によるそうだ。
つまりそれは安倍の守護者は連れるだけの強さがあることを意味している。
次に真横に当事者がいるため聞きずらかったが、魔法使い協会は姫川家を切り捨てたのかを尋ねる。
だがこちらもNO。 魔法使い協会の腕利きが捜索しているそうだ。 だとすれば愛菜はなぜ守られないのかというところになるが、それは俺がいるからだと言ってきた。
つまり魔法使い協会は愛菜に俺がついていることを知っているという事になる。
そこで声をあげたのは愛菜だった。
「サハラさん、それってきっとシャーロットおばさまの事だわ!」
確かに……それなら話がつながる。 シャーロットは俺に愛菜を任せるといったし、魔法使い協会の裏切り者の懲罰を任されているらしいし、魔法らしい魔法も使って見せてきた。
念のため安倍にシャーロットか確認してみたが、誰かまでは知らないと言われた。
ひと段落がついたように思えたところで次は魔法使い協会の場所、または関係者の紹介をしてもらえないかを聞いてみる。
「僕の両親なら知ってるかもしれませんが、でも間違いなく教えませんね。 姫川さんの事だって断片的に教えられただけなんですから」
ふむ……まぁ魔法使い協会のバックは秘密結社だというのだから、場合によっては口を割るぐらいなら死を選ぶのかもしれないな。
他にも聞きたい事はあったが、時計を見るといい時間になってしまっている。
「まだ聞きたい事はあるが、今日はこの辺にしておこう。 それに俺たちに関わりすぎて君まで狙われるようになっても困るからな」
「先生? 僕なら大丈夫ですよ。 守護者もいるしね」
それがマズいんだ。 守護者がいれば魔法使いとバレるからな。
「安倍君、そういう油断が危険を招くのよ。 昨日のはあなたから仕掛けてきたけど、もし逆の立場で本当の命のやり取りになったらそういう余裕はなくなるわ」
アッと気がついた様子で安倍が立ち上がり、愛菜に頭を下げてくる。
「昨日はゴメン。 まずこれを最初に言うべきだったね」
「もういいわよ……」
というわけで安倍を玄関まで見送り、十分に注意するようにもう一度言っておく。
「それじゃあ姫川さん、遠野先生また明日」
安倍が去っていく。
「途中まで見送った方が良かったのかしら?」
「それは迷ったがやめておいた。 今ならまだただの友達程度に見ているかもしれないからな。 一緒にいる所を襲ってきたら間違いなく彼も狙われるようになってしまう」
これには訳があり、帰宅中に感知で不審な動きをする人物を俺は捉えていた。
襲ってこなかったのは様子を伺っていたからという可能性が十分にあったからだった。
だが俺はここで1つ重大なミスをしてしまう。
「だとしたら家に入る前に彼、魔法を使っちゃってたわよね?」
「——っ! マズい、愛菜追うぞ!」
俺と愛菜は慌てて安倍のあとを追った。