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帰宅

 俺は鞄から贖罪の杖を取りだして修道士の呼吸法に切り替える。

 こうする事で、俺の肉体は神鉄アダマンティンと同等の硬度を持つ。


 対するワルキューレの方は槍と盾を構えて様子を伺っている。


「うちのフェンリルが世話になった。 その礼はさせてもらうぞ」


 フッと口元に笑みを浮かべるが早いかワルキューレが攻撃を仕掛けてくる。


 攻撃の軌道が脳裏に浮かび身をそらして躱す。

 どうやら予測(プレディクション)は通じるらしい。 ならばと次は俺が贖罪の杖を握り変えて振りかぶるモーション無しで上段から振り下ろした。


 贖罪の杖の一撃を盾で防いだワルキューレだったが、その体が大きく沈む。


「っな! くっ……ぅううううっ!」


 世界は違うが創造神が俺のために創造したこの贖罪の杖は、俺以外では持ち上げられない。 それはこの世界でも同じらしく、ワルキューレが盾で防いでも支えきれず苦悶の表情を浮かべた。

 無理だと判断したワルキューレは盾を手放し、息を切らせながら槍だけで身構えてくる。


 とそこで……


 キーンコーンカーンコーン……


「時間切れか」

「ちっ! 下がれ守護者(ガーディアン)


 ワルキューレは一度俺の顔をマジマジと見つめた後、空高く舞い上がって消えてしまった。


「さてと……お前ら午後の授業の時間だぞ!」


 男子生徒はふてぶてしい表情を見せた後屋上を出ていく。


「愛菜も急げよ」

「う、うん……」

「どうした?」

「フェンリル、無事かな?」

「あとでご馳走でもあげれば大丈夫だ」

「うん、わかった……」


 うっすら涙を浮かべながら愛菜も屋上から出ていった。



 俺も戻りながら考える。

 詳細を聞いていないからなんとも言えないが、さっきの男子生徒も魔法使いらしい。

 そして守護者(ガーディアン)もつけていた……

 愛菜と、というかフェンリルや俺と戦うことになった理由はくだらない理由だったが、シャーロットも守護者(ガーディアン)をそばに置いていた。

 もしかしたら魔法使いは全員、身を守るために守護者(ガーディアン)を召喚しているのが当たり前なんだろうか?


「遠野先生?」


 いつの間にか久保先生がそばに来ていて声をかけてきた。 考え事に集中していたせいですっかり感知(センス)で近づく久保先生に気がつかなかったらしい。


「あ、ああ、はい。なんでしょう?」

「考え事ですか? なんだか怖い顔をしていましたよ?」


 知らないうちにそんな顔をしていたのか。

 スッと手が伸びてきてネクタイに触れてくる。


「ネクタイ、曲がってますよ」

「い、いやぁ、どうも……」


 ヒューヒューとどこかから聞こえてくる、と思ったら教室から覗いていた生徒たちにバッチリ見られていた。


「それじゃあ、じゅ、授業があるんで……」


 慌てて距離を置いて逃げ出すように離れていった。




 授業も終わり下校時間になる。

 次々と下校していく生徒を見送りながら、愛菜の姿を探すが見当たらない。

 昼休みの男子生徒のことが脳裏に浮かんだが、その男子生徒も友人らしい仲間と下校してきた。


「先生、さようなら」


 礼儀正しく挨拶をして帰っていく。

 他の生徒がいる前では魔法使いの事は秘密なんだろう。


 少し遅れて愛菜の姿が見える。 やはり友人らしい例の2人の女子生徒と歩いていた。


「じゃあ愛菜、また明日ね」

「バイバ〜イ愛菜」

「え!? あ、うん。 バイバイ」


 全校生徒が下校して校門には俺と愛菜の2人きりになる。


「悪い、このあともうちょっと職員室でやる事あるから……」

「うん、待ってる」


 俺と出会ってから色々あったからだろう。 不安そうな顔を浮かべながらそう答えた。


 職員室に戻って、会議のようなものが終わりやっと俺も解放される。

 急いで待っている愛菜のところへ向かおうとすると久保先生に声をかけられた。


「遠野先生、もしよかったらこれから食事でもどうですか?」


 だから職員室でそれをやられると他の教師の視線が痛いんだってば。


「い、いやぁ……」

「遠野先生、早く行ってあげなさい。 姫川さんが待ってるんでしょう?」


 ここで校長が助け舟を出してくれたのは嬉しいのだが、久保先生の冷めた目がとてつもなく怖い。 まるで【死の神ルクリム】のようだ。


「そ、そうなんですよ、はははは……」


 それじゃあとまたも逃げるようにして出ていった。



 校門に行くと愛菜が1人きりでボーッと待っている。

 俺が出てくるとパッと明るい顔を見せてきたが、すぐに普段通り済ました表情に戻った。


「終わり?」

「ああ」


 無言で歩きだし学校から離れた頃になって、やっと愛菜が喋りだした。


「どんな手品を使ったのよ」

「魔法使いに手品とか言われるとはね」


 おもわず笑いがこみ上げてきてしまう。


魅惑(チャームパーソン)という魔法を使ったんだ」

魅惑(チャームパーソン)?」

「その魔法にかかった者は、術者のことを古くから知る友人のようになるんだ。 それを校長に使って入り込んだんだ」

「じゃあ、あの英語は?」

「それも魔法だ。 知らない言語の読み書き会話が出来るようになる魔法を、以前来た時に使ったんだ」

「その魔法あれば勉強いらずね」


 俺も習得した時そう思ったよ。

 さて、今度はこっちが聞く番かな。


「昼休みの時の生徒、魔法使いと言ってたが何者だ?」

「彼は安倍博道っていうらしいわ。 あの安倍晴明の子孫らしいわよ?」


 陰陽師のアレか。


「争いになった理由はわかったが、魔法使いはみんな守護者(ガーディアン)を召喚してそばに置いておくもこなのか?」

「私がわかるわけないでしょ!? 本当につい最近まで普通の女の子だったんだから!」


 そうだった。 すっかり忘れていたよ。


「悪かった……」

「まぁいいけど! それよりも随分と美術の久保先生と仲良くしてたらしいけど?」

「なんだ妬いてるのか?」

「ち、違うわよ! 私を守るのを忘れてないかと……っあ」


 愛菜がそこで急に黙り込んだ。

 俺は愛菜を守らなければいけない義理はない事を思いだしたんだろう。


「安心しろ、あちらさんが積極的に近づいてきているだけだ。 俺はちゃんと愛菜を守る。 昼休みの時だって駆けつけただろう?」

「え……あ、うん……」


 顔を真っ赤にさせてきた。 これでいい雰囲気になられても困る。


「愛菜を守らないと俺は元の世界に帰れなくなるからな」

「そうね、そうでした!」


 コレを言うと、いつもの愛菜に戻った。

 一応付け加えて言っておく。


「何怒ってんだ?」

「怒ってない!」

「いや怒ってるだろ」

「怒ってないって言ってるでしょ!」




 しばらく会話がなくなり、愛菜はぷりぷりしたまま歩いている。


 一本道の狭い通りに入った時だ。

 後ろからダンプカーが入ってくる。


「ちょっとアレ無理ないか?」

「何言ってんのよバカ! あれは私たちを狙ってるのよ!」


 そう言うなりダッと愛菜が走りだすが、すぐに愛菜を追いこす。


「もうちょっと早く走れないのか?」

「これでも精一杯走ってるわよ!」


 このままじゃ完全に直線に入ったら追いつかれる。 フェンリルに乗せれればいいが、今のあいつは怪我を負ってるからな。


「ちょっと失礼」

「え? ちょっ、ひゃあっ!」


 愛菜を脇に抱えあげると、可愛らしい声があがった。

 ダンプカーも完全に直線に入り、速度を一気に上げてきている。


「このままじゃ追いつかれちゃうわ! もっと早く走れないの!?」


 コイツめ、やり返してきやがったな。


「小便チビっても知らないからな!」


 一気に速度を上げて走りだす。 修道士の呼吸法をすれば俺はライディングホースと同等の速度で走ることが可能だ。


「ん、んんんんんん——!!」


 愛菜が声にならない叫び声を上げていたがそれを無視して走っていき、直線の通りを抜けたところで足を止めて振り返る。


「しつこいな」


 依然暴走ダンプカーは止まる様子はなく加速している。 この先は大きな通りで人通りも多くなる。 さすがにこのまま愛菜を抱えて歩くわけにもいかないだろう。


「人通りが多くなればアレも諦めるだろう」


 愛菜を下ろして返事を待つより先に手を掴んで早歩きで大通りにでた。

 その少し後に後方からダンプカーが出てきて道路を走り去ってゆく。


「諦めてくれたようだな……ってどうした?」

「もうちょっと抱え方ってあるんじゃない!? あれじゃまるで私、荷物みたいじゃない!」

「咄嗟だったんだから仕方ないだろう。 それならどんな抱え方なら良かったんだ?」


 ウッと声を詰まらせ顔を赤くさせる。 その様子からなんとなく想像はついた。


「まぁとにかく逃げ切れたんだから良しとしてくれ。 それよりこの後あの人気のない通りか、夜辺りは気をつけないといけないかもしれないな」

「あいつら手段を選ばなくなってきてるものね」


 頷いて返事をしながら俺は情報源の少なさに歯がゆい思いをする。

 シャーロットがいればとは思ったが、連絡を取る術もない。


 愛菜は反対するだろうが、明日、安倍から情報を貰うしかないな……




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