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愛菜

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 サハラさんと別れた私はそそくさと自分の教室に向かう。 校門であれだけの人に見られた私は必死に冷静さを保とうと、素っ気ない態度で教室に入った。


「愛菜おはよー」

「オハヨォ愛菜」


 教室に入るとクラスの中でも特に仲のいい同級生が挨拶してきた。


「うん、おはよう」


 気づかれてないみたい、そう思いながら席についていると2人が笑みを浮かべながら近づいてくる。


「朝から彼氏同伴で登校って、愛菜ってばやるぅ〜」

「ウンウン、みんな見てたよ」


 え? 嘘っ!


 慌てて教室を見回すとニヤニヤしてる人や汚いものを見るような人なんかが感じられる。

 私と目が合うとそらしてくるから、それが余計に気になりだす。


「あ、あああ、アレは違うの! えっと……」


 偶然って言おうと思ったところで、帰りも迎えに来ると言っていた事を思い出して口ごもった。


「ま、別に気にしなくてもいいんじゃない? あたしたちの年頃になれば彼氏ぐらいいたっておかしくないんだしさ」

「でもでもぉ、学校1の才女にしてアイドルの愛菜にしては地味な彼氏さんだよねぇ?」


 いつの間に私ってそんな風に見られてたの!?

 というかサハラさんは彼氏なんかじゃなくて、3人も奥さんがいる既婚者だし異世界から召喚したただの守護者(ガーディアン)なんだから。


「これは今までフラれてきた男どもが黙ってないぞー?」

「彼氏さんお金持ちとか? それとも頭いい人とかかなぁ?」

「そ、そういうんじゃないから」


 サハラさんはお金持ちでも頭がいい人でもないと思う。 優しくて頼れる人かな?

 とはいえどういったらいいのか困る。 特にこの2人は彼氏って言ってるし、2人っきりで映画を見に行ったのも知ってる。

 返答に困っているとチャイムが私を救ってくれた。



 担任が教室に入ってきてホームルームが終わる。


「——以上だ」


 担任がホームルームを終えて出て行こうとしたところで立ち止まる。


「姫川、この後職員室まで来るように」


 そう言って教室の扉が閉められて担任が出ていくと、クラス中の視線が私に集まり、居にくくなった私は逃げ出すように教室を出て職員室に向かった。




「——失礼します」


 職員室に入って担任のところへ向かう。 悪い事はしてないのに気分はまるで犯罪でもして出頭する気分だ。


「先生、何か用でしょうか?」


 平静を装いながら声をかける。


「なんで呼ばれたのかもうわかっているだろう」

「はっきり言ってもらわないと何のことかわかりかねます」

「はぁ……もう学校中で男と登校したと噂になってるぞ。 お前はもう少しそういう分別ぐらいできると思っていたんだがなぁ」

「それが何か問題でもありますか? 別に異性交遊は学校で禁じられていなかったと思います」


 突っ撥ねるしかない。


「ん、ま、まぁそうなんだが、しかし私も見ていたが君と一緒にいた男はどう見てもいい大人だった。 君はまだ未成年だからあらぬ誤解も生みかねないだろう?」

「彼とはそういう関係にはなっていません」


 言ってて自分が恥ずかしくなる。 これと言うのも全部サハラさんのせいなんだから!


「まぁまぁ、谷口先生それぐらいでいいじゃないですか」


 止めてくれたのはまさかの校長先生だった。 そしてそのあと信じられないことを私は耳にする。


「それに姫川さんが連れてきた人は私の友人でしてね、今日から数日間、代理の先生をしてもらうことになったんですよ。 なのでそれで一緒に来たことにしておけば問題ないでしょう?」

「そういう事でしたら……わかりました。 姫川、もう戻っていいぞ」

「はい」


 職員室を出て教室に戻る。


 あの人、一体何をしたっていうの!? 代理の先生ってあの人に何が教えられるんだろう。

 せいぜい運動能力は高いから体育辺りかな?



 そんなことを考えながら教室に戻るとちょうどチャイムが鳴って、1時限目の英語がはじまる。

 教室の扉が開くとサハラさんが入ってきた。 当然教室は大騒ぎになり、中には私とサハラさんを見比べる人もいた。


「今日から少しの間英語の担当になった遠野沙原です。 短い間ですがよろしく」


 自己紹介が終わると早速手をあげている生徒がいる。


「何かな?」

「先生と姫川の間柄ってなんですかー?」


 やっぱりそう来るわよねぇ……


「先生と生徒ですね」

「そうじゃなくて学校が終わってからに決まってんじゃん」

「一応恋人、という関係です」


 わーっと盛り上がる教室。 唯一私だけは盛り上がれない。

 更に突っ込んで質問するバカまで出てきたんだけど、サハラさんは今は授業中だから後で聞きに来るように言って授業をはじめた。


 最初はざわついていたクラスも、サハラさんのまるで本物のアメリカ人のような流暢な発音に静まり返る。

 そしてあっという間にチャイムが鳴って1時限目は終わりになった。


「それじゃあこれ以降、俺に用事があるときは英会話で尋ねるように」


 にっこり笑いながらサハラさんは教室から出ていった。

 これには当然ブーイングが起こったのは言うまでもないわね。



 お昼休みになって食堂に行こうとしたら、声をかけられた。


「姫川さん、ちょっといいかい?」

「何か用?」

「ここじゃ言えないからついてきてもらえないかな?」


 声をかけてきたのはよそのクラスの男子生徒。

 自信ありげな口元の歪みさえなければ、結構なイケメンなのにと思う。


「私お昼御飯食べたいんだけど」

「そんなに時間は取らせないよ……狙われてるんだろ? 教団に」

「え!?」


 顔をニヤつかせながら頷いてくる。

 教団の奴かとも思ったけど、声には出さないで口だけ魔法使いと答えてきた。


 男子生徒の後をついていくと屋上に出た。 屋上には私たちの他に誰もいない。


「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。 僕は安倍博道。 君と同じく魔法使い協会に属する家系の者だよ」

「安倍ってまさか……」

「そう、そのまさかの通り安倍晴明の血を引く一族さ」

「そう、それで?」

「それでって……君の両親の事は僕も親から聞いて知ってる。 君も危ないんだろ? だから僕が君を守ってあげる」


 私の頬に安倍くんの手が触れてくる。


「僕の彼女(もの)になってよ。 そうしたら僕が守ってあげるからさ」

「私、もう好きな人いるから。 それと気安く触らないでもらえる!」


 気安く触ってきた手を払い退ける。


「あの臨時の教師の事か? いや、守護者(ガーディアン)といったほうがいいかな? あんな奴より僕の守護者(ガーディアン)の方が遥かに強いし君を守ってあげられるよ」


 やっぱりバレてる。 守護者(ガーディアン)がいる人にはすぐに見破られるみたい。


「遠慮しておくわ。 だって、私、あなたみたいな人は嫌いだから」


 はっきり言ってやった。

 みるみるうちに表情が変わっていったかと思うと、引っ叩いてきた。


「お前に拒否権なんてないんだよ! 僕の言う事を君は聞いていればいいんだ!」


 ちょ! コイツ何いきなり切れてんのよ!


 身の危険を感じて逃げようとした私を捕まえて抱きついてくる。


「あ、あんな奴より僕のほうがいいって教えてあげるよ! あ〜姫川さんいい匂いだよ。胸も着痩せするんだねぇ」


 コ、コイツ……


「だ、誰か助けて! サハラさ——ん!」

「叫んだって聞こえやしないよ!」

“サハラの前に忘れてないか?”


 真っ白な毛並みの狼、フェンリルが姿を現して身体をブルブルっと振っている。


「な、なんだよコイツは……喋る狼? いや、コイツが守護者(ガーディアン)だったのか?」

“そいつ喰ってもいい?”


 勘違いしている安倍に対して、フェンリルはサハラさんに言われた通り私を守ろうとしてくる。


「こっちだって! 来てくれ守護者(ガーディアン)!」


 安倍が呼び出すと神々しくも美しく、槍と盾を持った女性が空から舞い降りてきた。


「安倍晴明の血を引く割に、随分と洋風な守護者(ガーディアン)なのね」

「召喚にそんな事は関係ないんだよ。 彼女は僕の最高の守護者(ガーディアン)だ。 君の守護者(ガーディアン)では絶対に勝てっこないぞ!」


 守護者(ガーディアン)の正体ってみんな明かさないものなのかしら? もっとも安倍の守護者(ガーディアン)、アレは間違いなくワルキューレよね。


「勝てっこないって、なんで魔法使い同士で戦わなきゃいけないのよ」

「そんなの僕を拒んだからに決まってるじゃないか!」

「安倍くんの守護者(ガーディアン)もそんな理由で戦うつもりなの!」


 ここはたぶんだけど、ワルキューレの善性に賭けるしかない。 これでもしダメだったら……


 チラッとフェンリルを見ると私と目が合って尻尾を振ってくる。 ワルキューレを目の当たりにしても平然としているのに驚かされる。


「どういう理由であろうと、召喚された者は召喚者に従うしかないのです。 あなただってそうでしょう?」

“んあ? 俺は俺だ。 今は愛菜に危害を加えようとするなら守るだけだ”


 なんだかサハラさんがいるみたい。 精霊も飼い主に似るのかしら?


守護者(ガーディアン)! そいつを倒して姫川さんにわからせてあげるんだ!」


 ほんの一瞬だったけど安倍の守護者(ガーディアン)が安倍に侮蔑するような眼差しを見せたのを私は見逃さなかった。


「仕方がありません。 召喚者の命令なので覚悟してください」


 たぶんワルキューレ……もうワルキューレでいいわ! 戦闘態勢に入った。


「フェンリル!」

“まかせてー”


 あう……なんだか気が抜けるなぁ。

 そう思ったのもつかの間で、フェンリルが唸り声をあげただけで辺りの温度が急激に下がりだした。


“何者かは知らないが、凍てつく寒さぐらいは耐えてもらうぞ!”

「あなたは氷の精霊でしたか!」


 フェンリルがいくつもの氷柱を作り出して、ワルキューレに向けてまるで弾丸の様に飛ばしていく。

 盾に身を隠す様に構えて氷柱を全て防ぎきると、電光石火の速さで槍で突いてきた。


“ほい”


 その一撃をヒョイと軽々と躱したフェンリルに向かってワルキューレが次の攻撃に備えている。


“ほれ”


 間合いを詰めようとしたワルキューレが急に足を止めて首をグンと逸らした。

 そこにはスレスレのところに地面からまるで刃物の様な氷の壁が出来上がっていた。


“それも避けるか。 いい反応速度だ”

「そういうあなただって、まだ遊んでいますね」

守護者(ガーディアン)! 遊んでないでさっさと倒してくれよ」


 守護者(ガーディアン)をなんだと思ってるのよ。 召喚されたと言っても彼女にだって意思も感情もあるのよ?

 それをまるで道具みたいに……


「召喚者が急かすようなので次で仕留めさせてもらいます!」


 次の瞬間、ワルキューレの槍に雷が纏ったと思うとフェンリルに向けて雷が放たれた。




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