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「よしのそんなに髪の毛茶色かったっけ?」
裸でタバコをふかしながら、リョウジはそう言ってわたしの髪の毛をつまんだ。
わたしはタオルケットを身体に巻きつけたま、テーブルの上にいつからか置きっ放しになっていたミネラルウォーターを飲む。
「こんなもんじゃない?リョウジと知り合ってからまだ一回も染めてないし」
「ふーん」と興味なさそうにリョウジは言った。
興味がないなら、最初から聞かなきゃいいのに、という心の声をわたしは胸の中に閉まって、喉の奥に飲み込む。
「ところでさ」
「なに?」
「俺、別の子と付き合うことにしたわ」
「そう。じゃあ、もう出て行くね」
「申し訳ないけど、最初から約束だったから さ。ほんとごめんな?」
「わたしもそろそろかなって思ってたから大丈夫だよ。
わたしはそこらへんに置いてあったケータイやら、財布やらをリョウジのアパートに転がり込んだときに持ってきたボストンバッグに詰め始めた。
雑多にだらしなく周辺に散らばったわたしの私物はそうそう簡単に見つかりそうもない。リョウジといた期間はそんな長くもないのに、リュウジの私物とわたしの私物が混ざってて持ち主が分からなくなってしまいそうだ。
「お前、他に行くとこあるの?」
リョウジは自分からわたしを追い出そうとしているくせに、わたしの行く当てを案じているようだった。
乗りかかった船ではあるものの、わたしはリョウジにそこまで迷惑をかけるつもりはなかったし、期待もしていなかった。それはリュウジも同じであると思って数ヶ月間生活してきた。
だから、いま、ほんの、ほんとにほんの少しだけ、わたしは泣きそうになっているのだと思う。
リョウジと別れたあとのわたしのことを、ほんの少しでも考えてくれたリョウジの優しさに。