第2輪『魅惑』
「……えっ? 付き合ってること秘密にするの?」
美穂は戸惑った様に顔を歪ませた。
「うん……嫌かな?」
「嫌って訳じゃないけど……どうして?」
美穂は明らかに、不安さを顔に滲み出す。
(フフ、分かるぞ三浦。俺がこう言うと、女はどいつもこいつも不安そうな顔をする)
「だって、俺らもそろそろ受験勉強に臨まなきゃいけない時期だしさ。周りから色々言われたくないんだ。それに……」
「……それに?」
俺は間を溜めて、意図的に言葉を詰まらせた。
「……周りの人に俺らが付き合ってるって知られたら、恥ずかしくて美穂と人前で話せなくなるよ……」
俺がそう言うと、美穂はみるみる頬を赤らめる。
「そっ……そそ、そうだよね! 私も持貫くんと付き合ってるって知られたら緊張しちゃうし! わかった、誰にも言わない!」
「ほんと? ……それで良いかな?」
「うん、大丈夫!」
「ありがと」
俺は優しく微笑みかける。
第2輪『魅惑』
「玉!!」
自分のクラスへと向かう途中。交際中の女子の一人に呼び止められた。
「何?」
二年一組、小杉 万里。今のご時世、なかなかお目に掛かる事のないヤンキーの様な鋭い瞳。がさつな口調。三浦美穂とはまるで正反対の女だ。
ただ、しっかりと調教した甲斐あって俺と話したい時にはちゃんと人目につかない様な場所を選ぶようになっている。その点、あの三浦という女にもしっかりと教え込まなくては。
「何なのよ。今の女」
ちっ……。見られてたか。
「いや、またちょっと告白されちゃってさ。大丈夫、ちゃんと断ったから」
「……ほんとかよ」
「ほんと」
俺は輝かしい笑顔を作り出す。
「……なら、信じるけどよー……」
万里は渋々とその歯牙を納める。
「もう、本当だってば。どうしたんだよ急に?」
「別に。……ただちょっと不安でさ」
「不安?」
「あー、うー……。玉、結構モテるからさ……」
“結構”だと? ふざけるな。
「いや、そんな事は無いけど……」
「モテるんだってば! 玉は気付いてないかもしれないけど!!」
涙まで浮かべて、俺を他の女に取られはしないかと心配する女。……良いものだ。
「おいおい、今更何言ってるんだよ。俺が好きなのは万里だけだ」
俺は万里の両肩を掴み、顔を近づける。
「……、信じるけどさあー…………」
それでも万里は不満そうに、顔を逸らした。
「…………万里」
「何……?」
涙目で俯く彼女の顔を無理矢理上げさせ、そのつむんだ口に唇を重ねた。
「――――俺は地球上の何よりも、万里だけを愛してる。前にそう言っただろ?」
「――――うん」
万里の顔が真っ赤に火照る。これを見るのが何より楽しい。
「玉…………」
「何?」
「愛してる。マジで」
万里は恥ずかしそうに視線を逸らしながら、投げ捨てる様にそう言い放った。
「フフ、俺もだよ」
俺が満面の笑みでそう言うと、万里の頬は一層赤みを増す。
「わっ、わざわざ呼び止めて悪かったな! じゃーな!」
万里は両手で頬を覆いながら、その場から走り去った。
「…………チッ」
(あいつ、相変わらず唇乾燥してんなー。女ならリップぐらい塗っとけや)
俺は、走り去る万里の後姿を眺めながら、制服の袖口で唇を拭った。




