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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冷蔵庫

作者: 野間義之

 扉が開くと、明かりが灯る。そして冷気が逃げていく。

 扉が閉まると、暗くなって、そしてどんどん寒くなる。

 そんな当たり前のことを、今さらながらに実感する。

 ずいぶんダラダラと開けっ放しにしてたなー。反省反省。



 あぁもう! またお肉のパック破ってそのまま入れてる。お肉が乾いちゃうし、匂いが他のにうつっちゃうのに。裏からきれいにパックを剥がせばって何度言っても聞かないんだから。それか破ったなら上からラップをかけるとかさ。それぐらいのことも面倒くさいの?

 牛乳もちょっと飲んだだけでもう一週間使ってないし。また正味期限切れるでしょ。あんまり飲まないんだから小さいパックで買えばいいのに。ほんと、学習能力ないんだから。

 昨日、チラッと見えたけど、野菜室はあんまり入ってなかったわよね。

 彼って自分では健康に気をつけてるつもりみたいだけど、結局自分が好きなのしか食べてないのよね。

だいたい、『自炊=ヘルシー』って考え方が短絡的。

 お肉だってさ、せっかく包丁使うんなら脂身は外しなさいよって話。

 なんだか心配……あいかわらず野菜はあんまり食べてないみたいだし。

 新しい彼女は……料理なんて出来ないだろうな。一度もここ開けたことないもんね。

 ここ開けたらびっくりするだろーな。ふふふ。ふふ……。



 あぁ、なんだか臭いな。気になる。

 消臭剤ぐらい買って来てくれないかな。



 鍵穴を回す音。そして玄関の扉を開ける音がした。

「おじゃましまぁす」

 うわ、またあのコ連れてきた。ちょっと舌っ足らずなコ。一昨日来たばっかりじゃない。あれ? 昨日だったっけ? お盛んね、って私はおばちゃんか。まぁ、もうおばちゃんにもなれないんだけどね。いいんだか悪いんだか……よくないよね、この状況。

「ちょっと待ってて。すぐ仕込んじゃうから」

「はーい」

 男が料理して、女が待つ。うーん、普通逆なんじゃない? まぁ、私もそうだったんだけどね。料理男子なんて結構アタリじゃない?なんて思ってたもんよ……。

 あーあ、あのコも実はとんでもない物を食べさせられてるなんて想像もしてないだろうな。私もそうだったし。

この前のチンジャオロースに混じってたコリコリした肉、「あーそれ? 鶏の軟骨の残り。歯ごたえのアクセントにいいだろ?」とか言われて納得してたけど、違うって教えてあげたい! 耳だったの! 耳よ耳、私の耳!

 声を出せないのが超くやしい! なーにが『唇は誰にも渡さない』よ! 真っ先に食べやがって! まぁ唇が残ってても喋れないんだけど、歯が乾いて苛々しちゃう。

 あっ、扉が開いて、明るくなった。

 冷蔵庫の中を覗きこんでくる彼と目が合う。といっても私の瞼は閉じたままでもう全然動かないんだけど。今の私はスピリチュアルっていうか幽霊的な? だから彼は目が合ったなんて思ってないんだろうけど。

 それでも彼は、耳も唇もなくなった私の首にむかってニコリと微笑む。

「なに作ってくれるの?」

「タンシチュー。とっておきの」

 彼は半開きの私の歯の間に指を入れてきた。


 食べつくされたら成仏できるのかな?

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