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『取り消せない過去』

確かに、優香は苦しまずに死んだのかもしれない。でも、だからといって優香の人生が幸せだなんて思えない。


だって、優香はもっと生きたかったんだ。


もっと幸せになれるはずだったのに、無理やりその人生に終止符が打たれたんだ。


もしも、優香の幽霊がここにいたら、幸せな状態で死ねた自分に満足するだろうか? 断じてそうは思えない。


気付いたら立ち上がって叫んでいた。


「幸せなわけないじゃないですかっ!! 優香は、もっと生きたかったのに、無理やり生きることを終わらされたんです!! そんなことを彼女が望むわけがないじゃないですか!!」


「言わないでっ!! そんなこと、言われなくても分かってるわよっ!! でも、優香は死んじゃったのよ!! 

 

教えて! 何であの子が死ななくちゃいけなかったの!? 幸せを目前にしてこんな死に方をしなくちゃいけない、どんな悪いことをあの子がしたっていうの!?」


まくし立てるように言って、彼女は両手で顔を覆った。


「そんなことっ……」


僕に分かるわけがないじゃないか! 僕だって同じ思いでいるのだから。


もし、幾つも重なった条件の一つでも違えば優香は死なずにすんだ、ということを考えると、なぜ自分に予知能力がないのかと悔しくてならない。


もしも時間をやり直せたら、僕はどんな手を使ってでも優香を助けるのに。


でも、そんなことは出来ない。


過去は変えることは出来ず、優香の死はすでに変えられない過去になってしまったのだから。


悪夢であってくれと何度もつねった頬はひりひりと痛く、腫れている。


優香の死はもう取り消せない。


僕は今この瞬間、そのことを理解してしまった。目を背けていた事実を、なぜだか今、心の中で納得してしまった。


僕は、優香の死を受け入れてしまった。


「う、あああああ……」


僕は自分の半身を無理やり引き裂かれてちぎり取られるかのような猛烈な喪失感に襲われ、もはやこれ以上自分を抑えることなど出来そうになかった。


抑えていた感情の奔流が堰を切って溢れ出し、涙がぼろぼろと溢れてくる。


「うああ……う、うわああああぁぁぁぁん!! うわああああぁぁん!!」


僕は、まるで小さな子供のように大声で泣いた。


今の僕にはもう、泣くことしか出来なかった。


病院の暗いロビーに、愛する者を亡くした人間たちの嗚咽の声だけがいつまでも聞こえ続けていた。



Fin.




『取り消せない過去』


This is “Mobius no tobira” Worst Ending.





メビウスの扉の分岐ストーリーの中で誰一人救われない最悪(worst)エンディングです。書いている本人がムカムカするどうしようもない話ですみません。ハッピーエンドへのルートもありますのでそちらも楽しんでいただければ幸いです。


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