モーニングコール
後輩からの資料メールを待つ間に優香に電話を掛けた。
『……ふぁい。おはよう』
電話の向こうから寝ぼけた優香の声。やっぱり寝ていたらしい。
「グッドモーニングコール」
『あはは。早寝早起きだねー賢斗。ふあぁぁあ……ライン見てくれた?』
のん気に聞いてくる優香。正直、伝えるのは気が重いが。
「うん。さっき見た。……あのさ、本当に申し訳ないんだけど、仕事でトラブルが起きて今から会社に行かなくちゃいけなくなったんだ」
案の定、優香が思いっきり非難がましい声を上げる。
『ええ~!? じゃあ、お母さんとは今日は会えないの?』
「いや、多分昼過ぎには終わらせられるはずだから、夕食は一緒できるけど、優香の卒業式には間に合いそうにないんだ」
優香がちょっとホッとする様子が電話越しに伝わってきた。
『あ、なんだ。じゃあ夕方のレストランの予約はキャンセルしなくていいんだね?』
「うん。それまでには絶対間に合わせるよ。ごめんな。優香の振袖見たかったのに」
『仕事じゃ仕方ないよ。あたしもこれから賢斗に扶養してもらうんだからワガママは言わないよぅ。あ、それに、振袖は夜まで着ておくからちゃんと見せてあげるからね?』
優香のせめてもの心遣いに思わず口元が緩むのを感じる。
「ははは。俺は幸せ者だなぁ。いい奥さんを貰ったなぁ」
『あははは。賢斗が他の人からもそう言ってもらえるように頑張るね。じゃあ、お仕事頑張ってね! あ・な・た!』
「おう。愛してるよ! 奥さん。じゃあ、また後で」
優香が照れているのが電話越しでも分かった。
『……えへへ。うん。じゃあ終わったらラインして? 式の最中だと電話は出れないと思うから。じゃね』
早口にそう言って、優香の方から電話を切った。
そして、後輩からの資料メールが届いたのはほぼそれと同時だった。
「さてと、じゃあチャッチャと終わらせますかね~」
僕は幸せの余韻を噛み締めながら会社に行く仕度を始めた。