始まり
まあ読んでみてください。ふと思いついた設定の話です。
はじめまして、私は元聖堂騎士のアレン=エリフォンという。
元聖堂騎士ということだが数年前に不慮の事故で魔法の要である魔力炉を満足に扱うことが出来なくなった。それで聖堂騎士を引退し部下の者に継がせ隠居をしようとしたのだが今は教会の計らいで、あるお嬢様の身の回りの警護を承っているのだがそれが思ったより楽しめている。
そのお嬢様の名前はエリス=アーデルダンテという一つか二つ下の少女だ。
彼女は三大貴族の一人で才に奏でた面もあるが少しわがままなところもある。容姿は同じ年頃の者として見てもとても美しく可憐で無垢、そしてその髪は太陽のような金色の輝きを放っている。で公式の場では蝶よ花よと愛でられておりそれに応じた振る舞いも出来る器用な少女である。
話は変わって僕がまだ聖堂騎士として職務を全うしていた時の話をしよう。僕が彼女に仕えることとなった経緯だ。僕は数年前に彼女を含める何人かの貴族の護衛を任されていたのだが何者かが手引きした刺客によって屋敷を襲撃され毒を盛られ吐血し倒れたエリス様を救うべく魔力炉の魔力を全て絞りだし彼女の命を繋ぎとめることができた。
公ではこの事件は秘匿され護衛をしていた自分の存在さえも一部の者しか知り得ていない。
被害者の一人でもあるエリス様でさえ自分の命を救ったのはアレンではなく都合の良いように別の貴族の青年ということになっているのだ。
別に自分は彼女に自分の存在を知っていてもらいたいわけではない。
だって僕は彼女の命を救うことが出来た。
しかし、彼女の命と引き換えに僕の魔力炉は欠損し今後一生外部からの魔力供給以外で魔力を行使できなくなったのだ。
勿論、それに対して後悔や見返りを求めることは今後この先も断じて一切ないと誓える。
そう、彼女を救えた。ただそれだけでよかったのだ。
聖堂騎士だった時代に使っていた女神アスタリサから渡されたされている剣の埃を払う。
これを見るたびに手を取っては私室で過去の記憶を思い返している。
すっかりと遅くなったが聖堂騎士というのは僕が属す組織の名称でもある。表向きでは国家だが大元を辿るとこの国の主教である教会の最高爵位である。職務中は常に匿名性を守り鎧を纏っており国王や教主といった上層部の一部の者のみが顔を知っている。
そしてその教主が引退して隠居しようとしていた私に頼んだのがエリス=アーデルダンテの護衛騎士である。
正直断ろうと思ったが命を救った彼女の幸せをこの目で見るまでは騎士の悪あがきとしてしっかりと見届けてやろうと思ったわけだ。
それでこうして彼女の屋敷で騎士をやることになった。もちろん教会だけの推薦で三大貴族の屋敷へ仕えるのは難しかったが渋々と教主が自分の正体を聖堂騎士で彼女の命を救った張本人だと説明するとそれを聞いたエリス様の屋敷の執事長セバスが過去にお嬢様に命を張った事実を受け止めその場で採用を認めたらしい。
自分が知らないところでそのようなやり取りがあったと聞いたのは屋敷で働き始めてしばらくたってからのことである。
そして今日僕はまたしてもエリス様の護衛のために側で警護にあたっている。
「エリス様は今日もご機嫌が悪いようですが、いかがなされましたか?」
目の前で退屈そうに馬車から外を眺めている彼女にそう問いかけた。
「アレン、あなたはね!私の気持ちはわからないの!?ったく何で私があの人のお見合いを嫌でも受けないといけないのよ・・・」
彼女は自分にあたるように怒ったあと座っている上質な座りものを素手で叩き、此方から目を離して窓から外を見ている。
窓から見える景色はどんどん流れていき次第に目的の屋敷にたどり着いた。
「エリス様、さあ着きましたよ」
馬車が大きな屋敷の前で止まると僕は目の前で座っている彼女より先に降りて安全を確かめると小声で降りるように促した。
「はぁ・・・着いたのね。本当にいやだわ!わたしがすきなのはイレヴァン様というのに・・・」
そう言うと忌まわしげに表情を歪めるが馬車の扉が開く頃には猫を被ったかのように貴族らしい振る舞いができる美しき少女へと早変わりする。
それと先程のイレヴァン・・・イレヴァン=ヴァレンタインというのは彼女の許嫁の男であり、彼女が慕う男の名前である。
彼女にとって彼を慕う理由は自分の命を救った者としての感謝という部分が大きく
窮地を救ってくれた者として乙女の心を射抜いたのもあるのだろう。
何度か彼とも顔を合わす機会があるのだがエリスが昔話のあの話をするたびにイレヴァンという男は
彼女を救ったことを否定しているのだがエリスは謙遜しているのと思いその事を信じて疑わない。
さらにこのイレヴァンという男は三大貴族の一人でもあり性格も大変良く評判も良い。そして彼の父親であるロイゾ=ヴァレンタインは現聖堂騎士であり自分の部下で信頼の値する男だ。
そのためイレヴァンも自分が元聖堂騎士である事やエリスの命を救ったのが誰なのかも知っている。
そのせいでエリスがあの話を始めるたび申し訳ない顔をして此方を見るのも実に彼らしいのだ。
そんな彼女がイレヴァンと結ばれて幸せになるのなら自分は見えないところから彼女を応援しようと心で思っている。
今日はイレヴァンではないが三大貴族の一人のカルノッズ家の長男のビッシュである。
外見は小太りで度々エリスのお尻を触ったりしてお痛をしているのだが懲りる様子もなく
自分が気づかれずに殺気を出して彼を押しとどめたりすることもある。
「ぼくのエリス!!よくぞ来たぞ!」
「こんにちはビッシュ、今日も元気そうね」
その言葉に皮肉も混ざっているのだと気づいているのは自分と彼女の侍女くらいだろう。
そして豪華な衣装に包まれた豚・・ではなくビッシュはエリスの姿を見ると同時に彼女の手を取って
客室へと通した。
そこには自分も護衛の名目で静かに同伴をしている。エリスとビッシュが楽しそうに会話をしている間(主にビッシュが)に自分は屋敷の周りに怪しい者がいないか辺りを周回をしている。
そして時間は流れ屋敷からエリスがビッシュに付き添われて馬車に乗った。
彼女の後に自分も挨拶を済ませてから馬車に乗るとそこには仏頂面をしたエリスの姿があった。
「ちょーつかれた。もう豚ほんとうに下心まるみえなんだから!帰ったら消毒しなきゃ!」
「お疲れ様です。エリス様」
「ほんとうよ、暑いし疲れて死にそうよ!魔法で涼しくしてって貴方たしか魔法を使えないのよね、ならそうだアレン何か面白い話をしてちょうだい」
馬車が動き始めるや同時に無理難題を押し付けたが突然面白い話をしろと言われても出来ないためその場でごまかしていると呆れた様子で彼女は口を開いた。
「ほーんとっ貴方もつまらない男ね!見るからにひょろそうだもの!それに比べてイレヴァン様は大変高貴な方よ!」
「確かにイレヴァン様は素晴らしいお方です」
「私結婚するなら彼しかいないわ!そういえばアレンは好きな人とかいないのかしら?」
そこでその話を出すのかと内心焦りつつも表情には出さずに返事を返す。
「私の好きな方はいますが、きっと彼女は私の気持ちには気づかないのでしょう」
不思議と自然にそう言葉にしていたが彼女がその話の本質に気づくことはない。
「何?片思いなの!?誰?あんたみたいな堅物好きになる人もいたらいいわね!」
「ははは、今はエリス様が幸せになれば仕える私としては最も幸せなことです」
「ふーん!いいこと言うじゃないの。そういえばそうよ!お父様からようやく日程が決まったのよ!今日であの豚ともおさらばだわ!」
日程が決まったいうのはおそらくあれしかないのだろう。その前日が自分の最後の仕事であり騎士としての最後の仕事の日にもなる。
そう彼女の結婚である。
「結婚式には呼んであげるわ!わたしの晴れ姿くらいずっと仕えてきたんだから見せてあげる!」
自分は彼女の結婚式には出ることはないだろう。なぜか自分が出るというのはイレヴァンにも申し訳なく早々に身を引くのが彼女や彼のためになるだろうと思ったからだ。
「エリス様に申し訳ないですが、それは出来ません」
その場で謝罪をする彼にエリスは驚きで目を丸くする。その表情には怒りも混ざっているように見えた。
「そう、ほんとあなたって空気を読めないわね!あなたのこと少しは見直してたけどやっぱり嫌いだわ」
そう言う彼女に自分は何も言うことは出来なかった。本当なら自分があの時の君を救ったのだと言い出したい気持ちを抑えて彼女のことばを胸に受け止めた。
「はい、すみませんエリス様」
馬車の中に沈黙が訪れる。先ほどまで陽気に話していた彼女も今では無関心な顔をして自分に目を合わせようともしなかった。それからというもの自分が彼女を護衛する時を含めて一切の会話をすることがなく
いよいよ結婚式の前夜となった。
「ついにこの日が来たか・・・」
私室から見えるこの景色も今日で見るのが最後である。そしてエリスの護衛も今日が最後だ。
意を決して部屋を出ようとすると自分の部屋の前に一人の老人が立っていた。
「セバスさんですか・・・夜遅くにどうかしましたか?」
彼はこの屋敷に古くから仕える執事のセバスである。彼はエリスが生まれる前からこの屋敷におり自分の正体を知っている数少ない人の一人だ。
「アレン様・・・本当に良いのですか・・?」
年相応の声だがその声には鋭い何かがあった。最初セバスが何の意味でいったのかわからず理解するまで少し掛かり重々しく口を開く。
「私・・・いえ僕の役目は彼女の幸せを見送るためでしたから」
「そうですか・・・・なら私からあなたに言うことはありません。短い間でしたら貴方のような方がお嬢様を守っていただいた事をこのセバス・・・忘れる事はありませぬ」
「はい、こちらこそありがとうございました」
そう言って部屋の前からエリス様がいる別館へと足を進める。
そして彼女の部屋の前につくと大した運動をしたわけでもないので込み上げる息を整えて扉を叩いた。
「誰かしら」
扉の向こう側から返事が聞こえた。よかったまだ寝てはいないようだ。
喜びの感情が彼女に届かぬように抑えると小さく返事をする。
「アレンです。エリス様・・最後の挨拶にと」
そう言って彼女の返事をその場でを待つと中から扉に叩かれた音が廊下へと響き渡った。
「あんたの顔なんて見たくないわ、せっかくイレヴァン様と明日結婚をするという幸せな気持ちに水を差すなんて最低よ」
彼女からの返事は思っていたほどより冷たく感情もないものだった。
そうか・・・最後に彼女の姿くらいは見たかったんだけどな・・・
「わかりました。申し訳ないですがここで話させていただきます」
もちろん返事はなく聞いているのかもわからない。自分はその場で膝をつき扉の前で頭を垂れる。
「短い間でしたがエリス様に仕える事が出来て私は幸せでした。それと早いですが結婚おめでとうございます。そして・・・・」
「・・・・・」
相変わらず部屋から返事はなく沈黙を守っている。
自分は言葉に詰まり思わず泣き出しそうになったのだ。彼女にバレないように涙を拭うと言葉を続ける。
「今までありがとうございました。私の分まで幸せになってください」
「お願いだからあっちへ行って!」
彼女から返事はそれだけだった。
しかし自分が伝えたい事は言ったのでこれ以上何もいう事はないと自分は立ち上がり扉の前で深く一礼をすると彼女の部屋に背を向けて歩き出した。
そして翌日の明け方。静まり返った屋敷から一人の男が闇夜に紛れて姿を見せた。
「セバスさんお世話になりました」
その場で深く彼にお辞儀をする。彼は自分に助言をしたりと影で支えてくれた人でもあり尊敬する人でもある。セバスは自分の言葉を聞くと髭を撫でながらこちらを見据えていた。
「残った荷物は後日あなたの元へと送りましょうか?」
「いいえ、全て処分してくださると助かります。押し付けるような形になってすみません」
「処分というとお嬢様をお救いした時に身につけていたあの剣もでしょうか・・・・」
セバスは自分が聖堂騎士として使っていたあの剣の事を言ったのだろう。あれは自分の思い出でもあり過去を思い出す呪縛でもあった。
「あの剣は好きにしてもらっても構いません」
「はあ。そういうのでしたら・・・・ええ、わかりました」
「ではセバスさんさようなら」
再度深く礼をすると屋敷に別れを告げて彼は故郷へと足を進めた。
時間はまだ早く、日も昇ってもいない。森は静寂に包まれており風も冷たい中
一人でその道を歩き始めた。
彼が屋敷を去ったその日の午後。
屋敷はヴァレンタイン家とアーデルダンテ家の者でごった返していた。
その中でイレヴァンとエリスは壇上の上で煌びやかな服装に包まれて座っている。
そしてついに式が始めると会場では大きな拍手で包まれた。
「本日はヴァレンタイン家とアーデルダンテ家の結婚式にお越しいただきありがとうございます!」
司会の者が場を盛り上げるために大きな声で話している中、エリスはイレヴァンのことをずっと見つめていた。
「イレヴァン様どうかしました?お顔が優れないようで・・・」
「いいえ、大丈夫ですエリス様。すこし場の空気にあたってしまいまして・・」
そして司会が着々と進行を進めて壇上には遂に神父の姿が現れた。
いよいよここからが式の本番である。先ほどまで熱気に包まれていた会場も二人の晴れ姿をみるために静まりかえっている。
エリスは幸せのあまり目の前の彼を見て微笑でいるとイレヴァンは急に我に帰ったかのように周りを見渡して誰かを探すかのようにしている。不思議に思い声をかけると彼はこちらを向いて見たこともないような真剣な顔で話し始めた。
「アレンさんが見当たらないのですが?どこにいるのですか?」
普段ならすぐそばで護衛をしているアレンの姿が見えないのに気付き彼はその場で戸惑っているようだ。
そしてなぜここでアレンの名前が出るのかと疑問に思っていると彼がそのまま言葉を続けた。
「エリス様はどこまで知っているのですか?」
「どこまでとは?」
どこまで知っているとは一体なんのことなのかと呆然としていると彼は今にも倒れそうな顔で両手で顔を隠してこう言った。
「アレンさんのことです。彼の何を知っていますか?」
「え、いきなりそう言われましても彼は私の護衛としていた男としか・・・」
そう言うとイレヴァンは頭を抱え込むかのようにその場で俯く。
新郎の様子に気づいたのか心配になった神父が彼のそばに駆け寄った。
「次は誓いの言葉ですぞ・・・具合が悪そうですが準備はいいですかな?」
それを聞いたイレヴァンはその場で立ち上がりエリスの前に立った。
突然のことにエリスは驚愕のあまりその場で固まっている。立ち上がったイレヴァンは彼女にしかきこえない声で囁いた
「前にも言ったけどあの時君を救ったのは僕じゃない」
またその話かと緊張が解けたエリスはその場で微笑んだ。またイレヴァンは謙虚にも程があると口を開こうとした時それを言わせないかのようにイレヴァンは真剣な眼差しのまま彼女を怒鳴りつけるかのように言い放った。
「あの時、君を必死で救ったのはアレンさんなんだ!僕なんかじゃない!アレンさんなんだよっ!!」
彼が立ち上がったこともあり静まり返っていた会場に沈黙が訪れる。
しかしイレヴァンはそれを気にもせず固まったエリスに言う。
「アレンさんは・・・アレンさんは自分の魔力炉を犠牲にして命をかけて君の命を救ったんだ・・・それなのに君は自分の恩人は僕だといった!」
「嘘よ・・だって彼はそんなこと言わなかったもの・・・だってそんな話しあるわけ・・・そうよあるわけないわ・・・」
エリスはイレヴァンの言葉に息を詰まらせながらをその事実に耳を傾ける。
彼女の目からは自然と涙が溢れている。もちろんイレヴァンの目からもだ。
会場は静かに固唾を飲んで見守っている。
「君があの話しを僕にする時に彼の顔を見たことがあるかい!?はは、無いよね!彼は悲しそうな顔を隠すかのように部屋をいつも出ていたからさ!」
「嘘・・・嘘・・・そんなはずじゃ」
「ここで言おう君が好きになるのは僕なんかじゃない!君の命を救ったのは彼なんだからね!」
イレヴァンはそういうと壇上から降りて舞台から姿を消した。その様子を見た来客はあまりの事態に困惑していると壇上に残っていたエリスが立ち上がって屋敷へと駆け出そうとする。
それを行かせまいと前に立ちふさがったのは執事長のセバスだった。
「お嬢様・・・どこに行かれるのですか?」
相変わらず落ち着いた様子のセバスにエリスは涙で目を腫らしながら横を通ろうとする。
「お嬢様いけませぬぞ、アレン様・・・いいえアレン殿の気持ちを踏みにじるのですか?」
その言葉を聞いたエリスは、両手で涙を拭いつつセバスを睨みつけた。
セバスは昔から彼女の教育係りでもあった。何回もセバスに対して一人喧嘩を繰り返している
「セバス・・・貴方は知っていたのね・・・アレンが・・アレンが私の命を助けた人だと!!なんで!なんでなのよ・・・・」
そう言うとセバスは頭を縦に小さく振った。
「なんで教えてくれなかったのよっ!わたしは・・わたしは!だから私は・・・彼にあんな酷いことを・・・」
「お願いだから・・・退いて!セバス・・・退いてよ・・・・」
彼女はその場で崩れ落ちるかのように座り込んで泣いていると正面に立っていたセバスが彼女の元へと近づいた。そして側で膝をついて耳元に口を近づける。
「そういうのでしたら私は止めませんぬ・・・お嬢様のお好きなようになさってください」
その言葉を聞く終わるとエリスはその場で一人で立ち上がった。会場からは困惑の声がここまで響いている。しかし今はそのようなことは関係ない
エリスはアレンの部屋へと泣き腫らしたその顔で走り出した
助けれてくれたと思っていた男が別の男で自分が卑下にしていたあの人だった
彼に言った言葉を思い出し後悔と悲しみで今にも壊れそうな彼女が
自分のを幸せを祈り立ち去った彼を追っていくのです。
再開した二人は一体どうなるのか・・・彼女の思いは彼に届くのか?
続きをお楽しみに!