出逢い
いつからだろうか、私は笑顔が作れなくなっていた。
楽しくない人生
生きていてもつまらない
誰も私に関わらないで
と自ら壁を作っていた。
そんな時、あの人に出逢って私の人生は変わったんだ。
”笑顔は人を救う”
あの人はそう言って微笑った。
その笑顔に私は本当に救われたんだ。
これは、あなたと私だけの小さな小さな物語ー
ーあの人と出逢ったのは6月のことだった
校庭では笛の音や金属バットでボールを打つ爽快な音、楽しそうな声が聞こえる。
聖月は誰もいない教室でひとり、夕日を眺めていた。
今日も1日が終わってしまう。
なにもない無駄な1日だった。
意味のない日々。
くだらない毎日。
生きてることに一体何の価値があるのだろうか。
聖月はため息をつき、鞄を持って教室を後にした。
家に着くとラップのされたおかずと
”早く寝なさいよ”と書かれたメモがテーブルに置いてあった。
毎日同じことの繰り返し。
4歳の頃、両親が離婚してから聖月にとってこの光景が当たり前だった。
どうして母は結婚をしたのだろう。
離婚するくらいなら最初から結婚しなければいいだけの話だ。
無責任に私まで生んで、なにがしたいのだろうか。
理解不能だ。
聖月はそう考えながらおかずをレンジに入れた。
父の記憶は全くない。
どこにいるのかも、生きているのかさえもわからなかった。
母はまだ若かった。
そんな母は毎日男を連れて夜遅くに帰ってくる。
早く寝なさいと言うのは自分が夜、男と仲良くしたいだけであって
本当は私を邪魔者扱いしたいだけなのであろう。
そんな母親にもウンザリしていた。
聖月はご飯を食べ、携帯と財布だけ持ち家を出た。
外はすっかり暗くなり、星が出ていた。
聖月は近所の公園のベンチに座った。
静かな空気が流れていた。
目を閉じた瞬間、フワッと風が吹いて聖月の長い髪をなびかせた。
初夏の匂いがするー
そう頭で思った時
「夏の匂いだ」
隣で低い声が聞こえた。
隣を見ると、いつからいたのかスーツ姿の20代前半くらいの男の人が座っていた。
聖月の視線に気づくと、こちらを見てニコッと笑いかけた。
”なんだこのおじさん”
これが最初の出逢いだった。
「星、きれいだね」
…は?
なにこいつ、なんで見ず知らずの私に声かけてきてんの?
怪しげなその男を軽く睨むと、男は慌てた様子で弁解してきた。
「あっ…俺別に怪しい人じゃないよ?…それよりさ、君まだ学生だよね?高校生?制服着てこんな時間にこんな人気のないところにいたら危ない…」
「別にあんたに関係ないし。」
聖月は男の言葉を遮った。
「そーだよなー…うん、それもそうだ!」
そう言って男はまた夜空を見た。
2人の間で、しばらく沈黙が続いた。
沈黙を壊したのは男だった。
「俺さー、子供いないから親心とか知んないけどキミの親、今頃心配してるんじゃないかなー」
なにこいつ!
何も知らないくせに口出してくんな!
「心配なんてしてない」
男に冷たく言い放った。
「キミ、名前は?」
誰がこんな怪しい奴に本名教えるか!
「…カナ」
「カナちゃんは親が嫌い?」
男がじっと目を見て静かに言った。
聖月は目をそらして答えた。
「嫌いだけどそれが?」
「そっか。うん、そうなんだ」
この男はなにを考えているのか理解できない。
それからしばらくまた沈黙が続き、それに耐えられなくてベンチから腰を上げたとき、男は言った。
「あ、帰るの?またね、カナちゃん♪」
手を振られたが無視して公園を後にした。