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千葉研究伝記  作者: 山田二郎
9/13

壱の異質、弐の異質

壱と弐に対して行う実験は実験と言っていいものか私は正直首をかしげてしまうものであった。何もない実験室に笑いながら入っていく壱と弐を見ながら、私と斎藤は実験の準備をしていた。

 ガラス越しに私と斎藤が持ってくるものをわくわくした目で待つ壱と弐。私の手には壱に渡すものが、斎藤には弐に渡すものが銀色のトレーに入って運ばれてきた。


 「今日は何チバー」


壱の前に私が置いた物は、生きたウサギであった。


 「ぼ、ぼく……ぼくは?」


弐の前に斎藤が置いた物は今日の朝、私と斎藤が食べた朝食である米と味噌汁、焼き魚である。


 「お、おいし……そう」


 「うまそうだな!」


弐の発言は私や斎藤にとってまったく違和感なく聞こえてくるが、壱が生きたウサギに対して使った言葉にはやはり違和感を覚えてしまう。たしかにウサギは食用として食べたりすることはあるが、生きたウサギをみてうまそうという言葉を口にできる壱はやはりどこか異質であった。

 だが壱の異質はそれでとどまらない。何よりもその食べ方であった。いただきますと両手を合わせ壱と弐は目の前に出された食事に目線を向ける。弐は箸を不器用な手つきで持ちながら茶碗の中にある米に持っていく。だが壱はじっと見つめているウサギを見つめたままであった。

 弐が箸ですくった米を口に運び咀嚼して笑顔で私たちに米がおいしいということを伝えているさなか、壱は目の前にいるウサギを見つめ続ける。変化が起こったのは、弐が焼き魚に箸をつけた時であった。


 「……」


何度みてもその光景は信じられないものであった。壱の目の前にいたウサギは急に体を痙攣させ、銀色のトレーの中で横たわるとどんどんとやせ細り、弐が朝食を食べ終わるころにはウサギはミイラのように干からびていたのだ。


 「ごちそうさまでした」


 「ごち……ごちそうさまでした」


二人は同時にそういうと、その場から立ち去り、実験室から外へ出る扉の前へと歩いていく。斎藤が私の顔をみたので、私は実験室の扉をあけるため扉に歩いていく。斎藤は壱と弐の前に置かれていたトレーを回収する作業に入ったる

 今目の前で起こった現象は壱にとっての食事であった。生き物の命を使い食事をとる行為は生きている者であれば大なり小なり必ず行う行為であり別段おかしいことではない。だが壱の食事のとり方は人のそれではなく、全く異なったとり方なのである。

 この光景を目撃した時私と斎藤は壱の異質な部分に恐怖した。最初壱と弐には同じ食事を用意していた。それに対して弐は食事に手を付けたものの、壱は一切手を付けなかったのだ。当時はあまりしゃべれなかったこともあり、なぜ食べないのか理由が分からなかったが、私はもしかしたらと研究で使っていたネズミを壱の前に差し出した。斎藤はその行為に激怒し私はボロクソに言われただが、その行為はまちがっていなかった。壱はネズミをじっと見つめ、ネズミの命を吸ったのだ。その時私は斎藤が提案していた言葉を教えるという行為が急務であることを実感した。もし壱と弐に何せも教えていなかったらねいつの日か私も斎藤も目の前で干からびたネズミやウサギのようになってしまっていたかもしれないからだ。

 それから私と斎藤は壱と弐に言葉を教え、教えられることは教えた。壱も弐も差はあれど素直に私たちが教えることを吸収していき、その異質を除けばどこにでもいる少年へと成長していった。

 私は思う、村で閉じ込められていた壱は自分の命を保つために分からず親の命を吸い取り糧にしていたのだろうと。なんともやるせない気持ちになった。

 だがその答えにたどり着いたときに一つの疑問が浮かんだ。

壱は他者の命を吸うことで命を保ってきた、だがその能力が無い弐は何も食べる物がないあの場所でどうやって生き延びてきたのか。

 もしかすると壱の異質な力以上に弐には何か隠された力があるのではないかと私は思うのであった。

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