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千葉研究伝記  作者: 山田二郎
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壱と弐

 彼らとの初めての接触から数日がたったが結局わかったことは無かった。いや無かったというには正確ではない。彼らと接触して分かったことが少しあった。彼らはほとんど喋れないということだ。兄らしきほうは少しならしゃべれるようだが、それも片言で3、4歳程度の会話しかできない。弟のほうは一切喋れないようだ。これでは力のことを聞くことも調べることも困難になってしまう。だがこんな状態で斎藤の顔は何故か輝いていた。


 「勉強を教えましょう」


想像通りというか、右斜め上というか、斎藤はあの二人に言葉を教えようと考えはじめたようだ。たしかに言葉が通じないとこれからの研究に支障がるのは間違いない。私も言葉を教えるという考えは反対ではない。私の中で問題になっているのはそこではなく、斎藤のことだった。

 斎藤の彼らをの入れこみようは、研究者のものではなく、確実に母性からくるものだ。斎藤は彼らを弟か子供と勘違いしているようにみえる。彼らとそれは研究者として研究対象に対してやってはならないことだと私は思っている。彼らはこの組織に来た時点で、研究対象以上でも以下でもないのだ。下手に彼らに情でも持てばいずれ絶対に後悔することになる。それを斎藤は分かっていない。危ういのだ斎藤は、研究者としても人としても。

 だが私の悩みなど露知らず斎藤はもくもくと彼らに言葉を教えている。兄のほうは驚異的な速度で言葉を覚えていった。それとは逆に弟のほうはどれだけ教えても言葉を発することはなかった。というよりもまったく興味をしめさなかったのだ。これには斎藤もお手上げだった。


 「そういえば名前を決めていませんでしたね」


斉藤は二人を見ながら、私にそう告げてくる。また馬鹿なことをと私は思った。研究対象に名前などつけたらもうそれこそ終わりだ。


 「ねぇ斉藤さんはどんな名前がいいと思いますか?」


笑みを浮かべ私に聞いてくる斉藤の顔は私の心臓を握りつぶすのではないかと言うもので、私は一瞬息ができなくなった。斉藤は研究対象の二人が現れ、斉藤が担当するようになってから、斉藤の笑顔はさらに美しくなった。斉藤自身も生き生きとしており、私ですらその顔をみているとこの場が陰気な研究施設だということを忘れるほどであった。

 

 「ゴホン、壱と弐でいいだろう」


すっかり斉藤の笑顔に見惚れていた私は、咳払いをして自分を取り戻し適当に答える。


 「なんですか、その適当な答え、人につける名前じゃないでしょ、ねぇ二人とも」


 斉藤はそう言うと研究対象二人に顔を向けた。だが斉藤の想いとはうらはらに二人の目は輝くようにキラキラとしていた。


 「あれ? もしかして壱と弐が気に入ったの?」


斉藤の問に二人は同時に頷いた。


 「私は不満だけどな……二人がそれでいいのなら私もそれでいいわ、よろしくね壱と弐」


斉藤は二人の頭を摩りながらそう言った。二人も斉藤に触れられるのが好きなのか、嬉しそうな顔をしていた。


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