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千葉研究伝記  作者: 山田二郎
2/13

5月21日、鬼子という子供達

そこからの月日は早く5年という歳月は瞬く間に過ぎていった。


最初こそ私は自分がやっていることに多少の罪悪感という感情を抱きながらも自分の研究に没頭できるという状況は、5年という歳月で私の心から罪悪感を消すには十分な時間であった。

研究に没頭し苦しむ実験対象の顔に何も感じなくなり、そんな毎日に何の違和感もなく、罪悪感などこれっぽっちも沸かなくなったそれが当たり前の日常となったある日、それは私の部下が世話しなく扉を開けたところから始まった。五年も経てば自分の地位も少し上がり私を慕う者もあわられる。当然その者も外道の仲間であり、私の研究に賛同する者であった。


「千葉さんあの事件知ってますか?」


私は研究資料に目を通しながら、2日前に起きた事件のことを思い浮かべた。


「あれか村の30人惨殺したっていう殺人鬼の」


私がそう言うと部下は凄い速さで頷いた。


「その村の生き残りがいたそうなんですよ、しかも子供二人」


「へ~それは知らなかったな」


事件の内容は凄惨で残虐なものであった。簡単に事件の内容を説明すると5月21日の夜、村の男が村中の人間を殺し周り、最後には自分の命をも絶ったという、新聞には今世紀最大の大量殺人という見出しが載った事件であった。だがその村に生き残りがいたという話はどの新聞にも載っていない。


「まさか……」


私は手に持っていた資料を置き部下の顔を見る。部下は言葉を発さなくても私が何を言いたいのか理解したのか頷いて見せた。世間に流れていない情報が我々に回ってくるということは、機関が一枚噛んでいるのだろう。


「その殺人鬼が研究対象か?」


私がそう言うと部下は首を横にふり否定した。


「違います、その村の生き残りの二人の子供です、正確にはこれから研究対象になるようですが」


私は首をひねった。


「何でだ?」


部下は私の向かい側にある椅子に座った。


「それがですね、その二人の子供どうやら監禁されてたみたいなんですが、その監禁されてる部屋を暗部が見つけて入ったら、その二人の子供と数体の白骨死体があったそうなんです」


ここまで聞いてまだ私はその二人に何らおかしなことがあるようには別段思わなかった。


 「それでその二人の内の1人の子供が死体の骨をしゃぶっていたそうなんですよ」


それだって何らおかしなことはない、腹をすかせ死体となった肉に食らいついて餓えを凌いだなんて話は表に出ないだけでこの時代どこにでもあるであろう。


「それの何が研究対象なんだ?」


今までの話で機関が研究対象にするような事は何一つもない。


「白骨した死体どうやらその子供二人の両親や祖父祖母だったらしいんですよ」


まだわからない。


「もう前書きはいいから本題を話せ」


どうもこの部下は前書きが多くて話の本題に入るまでが長い。 前から注意はしてはいるのだが、私も毎回この部下の癖を忘れるため、途中まで話に付き合ってしまうのだ。


「あ、はいすいません、暗部が骨をしゃぶっていた方の子供に触れたとたんに何かを吸いとられたよに倒れて干からびて死んでしまったようです、そしたらその子が口を開いたんですよ「まだ足りない」って」


「干からびて死んだ?」


まだ足りないということは、その後の展開はを容易に想像できた。何処にでもある怪談話や小説の類いとそう変わらないが、部下の言うこの話は事実であろう。それよりも干からびて死んだという事が引っ掛かった。


「何人死んだ?」


「暗部が10人中5人が干からびて死にました」


機関の暗部とは、機関のために実験の後始末、情報操作、研究員の護衛、まあ簡単に言えば研究員のために何でもやる部隊だ。そのため暗部の者達は人を殺すための訓練を受けた手練れの者達であり、特殊な人間を扱うというのにはなれた者達のはずであった。そんな者達を5人も死に追いやるとは、その子供の特殊な能力には確かに引かれるものがあった。


「そんな状況てよくその子供達を捕らえられたな」


人を枯らす力、そんなものがあらば暗部の者達が全滅してもおかしくないはずだ。そんな子供達が今暗部に捕らえられ組織に向かっているというのはどうも納得できなかった。


「満足したみたいなんですよ、「もういっぱい」って言ってスヤスヤ寝息をたて始めたらしいです」


まるで食欲だなと私は思った。食事をとってすぐに眠気が襲ってくるそれに近い物だと。


「そういえば、もう1人の子供はどうだったんだ?」


部下の話に全く出てこないもう1人の子供も同じ力を持っているのだろうかと私は部下に聞いた。


「ああ、そっちのほうは全く普通の子供のようですね、暗部が次々と枯れて死んでいく中、それを平然と見てはいましたが、その後暗部が触れてもにも起きませんでしたし、まあ兄弟のようなんで殺さず捕らえたようですが」


兄弟ならば、同じ力があってもおかしくなあはずだ。だがにも起きなかった。ならばなぜその弟は枯れなかったのか、疑問には思ったがその時は考えを流した。


「無事に行けば明日にはここに到着するみたいです」


「そうか……明日は騒がしくなりそうだな」


 明日この子供達を誰が研究するかで研究員達は騒ぐことになるだろう。私が私がと自分の我を通そうとする研究員達の騒ぎは、五年とう歳月が経った今でも私は苦手でしょうがない。唯一私の心が変わっていないところと言えばその事ぐらいだろうと、なぜかこの組織に入所した時の事を思いだしながら苦笑いした。


 「さて……いくか」


重い腰をあげながらゆっくりと椅子から離れると、地下の研究室に足を進めた。



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