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千葉研究伝記  作者: 山田二郎
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 コエという名の青年

弐が私達の前から姿を消して20日あまりがたった頃、斎藤の髪は真っ白に染まった。急激なストレスで髪が真っ白になるという話をよく聞くがあれは実際にはありえない事であるそうなのだが、そのありえないことが目の前で起こってしまったことに私は驚きを隠せないでいた。

 どこを見ているのかま分からない斎藤の視線は宙を舞っており、口許は呪いのように自分のもとから姿を消した者の名を呟き続けていた。

 私がそんな斎藤に色んな意味で魅入られていると、扉を叩く音が部屋に響いた。


「どうぞ」


部屋の主は扉を叩く音に答えられる状態に無い。私が変わりに返事をして外に居る人物に部屋に入る許可をだした。

 ゆっくりと扉が開く音とともにそれは入ってきた。


「お、おま……」


一瞬にして距離を詰められ口を塞がれる私。


「これは……内緒です……口外はしないでください」


驚きは更に加速する。私の口を塞ぐ者の正体、それは成長しているが弐であった。暗部の姿をしている弐が滑らかに言葉を発しているのだ。


「今日からあなた達二人の護衛になりました『コエ』です」


暗部の姿をした弐は『コエ』と名乗った。


「ちょ……ちょと待てこっちに来い」


どうやら斎藤にばれてはならない弐を部屋の外に連れ出した私は扉を背にして弐を見つめた。


「どういうこどだ……お前……組織に……」


「はい……組織に接収されました」


とても機械的な弐の言葉。


「それから暗部に送り込まれました」


なるほどだから暗部の姿をしているのか。だがならばなおさら弐が暗部に送り込まれた理由が分からない。

 何も無い、そうそれこそ人間としての一般的な能力すら劣っている弐が暗部に送り込まれること自体がおかしいのだ。


「いやいや、なぜお前が暗部に居るのだ?」


「それは私の能力が開花したからでしょう」


なんというか、目の前にいる弐にまったく可愛げを感じるこことが出来ない。そもそも本当に目の前にいる青年は弐なのか疑わしくさえ思えてくる。


「能力? ……なんだ?」


私も研究者の端くれとして弐の能力がどんなものなのか気になった。


「それはすぐにわかります……それでは部屋の中に入りましょう」


そういうと弐は部屋の扉に手をかける。


「お、おいだから待てって、斎藤にばれたなら駄目なのだろう?」


「それは大丈夫です……」


部屋に入る。そこには家具の一つのように同じ場所からもう数日は動いていない斎藤の姿があった。

 斎藤を見る私に弐が顔で会話をしろと合図を送ってくる。本当に可愛げがなくなったなと思いながら私は一歩二歩と歩き斎藤に近づいた。


「さ、斎藤……理由はよくわからないが今日から俺と斎藤を護衛してくれる暗部の弐……あ、いや『コエ』だ。


言葉の流れで思わず弐の名前を口にしてしまった。だが斎藤は指先一つ動かさず私の言葉を素通りさせた。


「『コエ』ですよろしくお願いします」


弐が頭を下げる。だがやはり斎藤は一切反応しなかった。目の前に自分が待ち続けている者がいるというのに。私は弐の顔に視線を向ける。


「なっ!」


とことん今日は驚く日なのだろう。自分でも分かる変な声を上げながら私は弐の手を掴み再び部屋の外へと出た。


「ど、どういうことだ?」


それは奇妙なことであった。姿はそのままり声もそのままであったが、弐の顔がまったく知らない他人にすげ変わっていたからだ。


「だから大丈夫といったでしょう……これが私の能力です」


手で自分の顔を覆った弐はその手を離すと元の弐の顔に戻っていた。


「おっ……おおお!」


あまりの奇怪な出来事に私は気分が上がり大声が出ていた。

 確かにこの能力ならば、情報収集や現地潜入なども仕事となっている暗部でもやっていける、いや喉から手が出るほど欲しい能力だと私は納得した。


「そうだ、あまりに驚いて忘れていたが、なぜ私達に護衛などをつける必要があるんだ?」


護衛となると私や斎藤の身に危険なことが起こるからということなのだろうが、人に言えないことはやってきてはいるが私も斎藤にも心あたりはなかった。


「私も詳しくは知りません……この護衛の任務は直接あのお方からいいわたされたものなので」


あのお方……間違い無くこの組織の頂点に立つあの男のことだうと私は思った。


「そうか……ならばこれからまたよろしく頼む」


「はい」


弐は感情なく頷いた。当時といっても一カ月そこらかのことではあったがその面影は残しつつもまったく違う人物になってしまったようで少々私の心は痛んだ。

 


 とまあそんなこんなことがあり、弐は『コエ』と名を改め私達のもとへ帰ってきた。一番会いたがっていたであろう斎藤を偽りながら。

 そして四年たった現在も私と斎藤の横で護衛という形で私達の側にいる。

 結局の所、この四年間私や斎藤の命が狙われることはなかった。もしかすると狙われていたのかもしれないが、秘密裡に弐が始末していたというとも考えられる。

 とりあえず護衛とは名ばかりで、この四年間、弐は私の研究を手伝っていたことのほうが多かった。

 兄である壱が居る部屋には斎藤と同じで頑なに入ることを拒否した時は驚いたが私は無理強いすることはなかった。

 そして時間は飛ぶ。あの悲劇の日に。

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