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千葉研究伝記  作者: 山田二郎
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光と闇の双子神

 数日、数十日、数ヶ月、時は残酷に流れ、斎藤の心を弱らせヒビを入れていく。

弐が私と斎藤の目の前から姿を消して数年、正確に言えば四年という歳月が経っていた。

  四年という歳月は、斎藤にとって地獄そのもののようであった。漆黒であった綺麗な髪は、雪のような真っ白な白髪に変化していた。やつれてはいたがそれでもなお、斎藤の美しさは失われることなく、逆に白髪も相まってかその儚げな姿が周囲の男達の目を奪っていた。

 弐を失ったことによってその美しさを増した斎藤に取り入ろうとする男達は多数いたが、本人は意に介さず毎日弐が帰ってくるのを待ち続けていた。

 まったく喋らなくなり何をすることなくただ弐の帰りを待ち続けるだけの日々、研究も止まってしまった斎藤の立場はそれでも揺らぐことなく、組織の一研究員に保たれていた。


 それはそうと私達の前から姿を消した弐の行方であったが、なんとも以外なことになっていた。

 私達のもとから姿を消して数日後、私は上層部から勅命を受け組織の開かずの間と呼ばれている場所に足を向けていた。


「ここから先は我々も命令がないと入れない」


扉の警護を任されているであろう暗部の一人がそう言うと、厳重に施錠されていた扉の鍵をあける。暗部の言葉からしてどうやらここからは一人で進めということなのだろう、そう思った私は暗部の男の言葉に頷き、暗い扉の先へと足を踏み入れた。

 噂ではこの先に待っているのは組織の頂点に立つ者、即ち己が欲望を体現させるため不老不死を目指すこの組織を立ち上げた者が居ると言われている。

 私は少々、いや大きく緊張しながら薄暗い部屋を歩いていく。


「まっていたぞ……」


低く響く重低音が薄暗い部屋に響き渡る。その声は老人のものであった。

 薄暗いながらもランプの淡い光がその人物を薄く浮かび上がらせる。


「あ、申し訳ありません……それで私に用とは……」


これが組織を束ねる者の凄みなのかと、うわずった自分の声を聞きながら確認する私は、相手から見えているのか分からないが頭を下げた。


「お主は……光と闇の双子の神を知っているか?」


どんな事を言われるのかと身構えていれば、予想の斜め上を行く全く想像もつかない質問に私は首を傾げることしかできなかった。

 光と闇の双子の神など私が知っている知識の中では聞いたこともないし、そもそも私は科学者だ、神などという者を信じているわけがない。


「いえ……申し訳ありません……全く……」


信じる信じないは別としてとりあえず体を整えるため私は再び頭を下げながら知らない事実を伝える。


「そうであろう……知る術など無い……」


知る術など無い? ならばなぜ私に聞くのだ。そもそも知る術がない神とは神といっていいものなのか? 神とは信仰する者が信じることで初めて存在できるものだと私は認識している。知る術がないのなら信仰することも信じることも出来ないではないか。


「今では失われた神……この事を知っているのは私ぐらいだ」


それは単なる妄想というものではないのかと目の前の男に対して口にしようとする自分を必至で止める。


「……妄想……そうだな……そう思われても仕方が無い」


心を読まれた。私は動揺した。口に出そうになったが音としてその言葉を発することはなかったはずだ。目の前の男に得体の知れない不気味さを感じる私の鼓動は早くなる。


「そ、それが……私とどんな関係が……」


思わず口にしていた。得体の知れない男の言葉が私とどんな関係があるのか目の前の男に聞く。


「お前の研究対象の双子のことだ……」


まさか……壱と弐がその光と闇の神だというのか。私は目の前の男の言葉に複雑な気分になった。半分では馬鹿馬鹿しいと思い、半分ではあの特殊な力はそういうことなまかと納得しかけているからだ。


「可能性……でしかないが……闇と光の双子は輪廻を繰り返す……私はその力を解き明かし私の物としたい……」


いままで無機質な重低音であったその男の言葉はここで初めて感情らしきものが見えた。


「闇と思われ鬼子は近いうちにお前の下に帰ってくる……その間引き続き光の鬼子の監視を頼みたい」


闇とは弐のことで、光は壱のことであろうか。


「は、はい……それは引き続き……」


「うむ」


満足そうにうなずく目の前の男は言葉を続ける。


「そののち雪化粧をした産みの神とあいまみえることになるだろう……」


男の口から予言のような言葉を聞いた私は困惑するしかなかった。だがこの言葉はこののちすぐに分かることとなった。


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