第八話
前話からそれなりに時間が経過しました。
早朝、蒼夜は人里に赴いていた。
既に幻想郷に来てから一年近くが経過し、人里にも馴染んできた頃であった。
「お、蒼夜じゃねえか、今日はいい肉入ってるぞ?」
「おっす、じゃあ後で寄らせてもらうわ」
「それなら取っといてやるから早めに来いよな?」
「さんきゅー、おっちゃん」
「いいってことよ。その代わり、これからも御贔屓に、だな」
蒼夜が人里に入ると、顔見知りである人々が声をかけてくれる。
人里の人間も、里の外で生活する数少ない人間である蒼夜に最初は腫れ物を触るように扱ったが、彼の人となりに触れてからは友好的な関係を築いていた。
「(……思えば、外の世界ではこんなやりとりすら失われていたんだよな…)」
外界にいた頃の生活を思い出すと、学校での関わらない人間はもちろん、近所の人とですら会話をしない。
そんな生活を、今の蒼夜には味気なくつまらない生活に思えた。
「お、蒼夜か、おはよう」
「慧音さん、おはようございます」
彼が人里に来る理由は、食料や消耗品の購入と、慧音が開いている寺子屋での教師をするためであった。
一人前に戦えるようになってからは、彼も働くことを決意し、その際霊夢に紹介されたのがこの寺子屋だった。
未だに人里には教師をできるほどの人間はおらず、一人で教材の用意などもしていた慧音からすれば、現代での中学教育を終えている蒼夜の紹介は渡りに船だった。
「今日も早いな。感心なことだ」
「ありがとうございます。それで、今日は何をすれば?」
「今日は算術と歴史だから、算術を頼む」
寺子屋では算術(内容は四則演算)、読み書き、そして幻想郷の歴史を教えており、蒼夜が算術を、慧音が歴史を担当し、読み書きは交代で教えていた。
「わかりました、教材はいつもの場所ですか?」
「ああ、頼むよ」
そうして蒼夜が寺子屋に入ろうとしたその時、
「蒼夜~」
突然霧が集まり、萃香が現れた。
「どうした?」
「今日の帰り、いつもの酒も買っといて~」
そう言うと萃香はすぐに霧となってきえていった。
現在も萃香と共に生活をしている蒼夜達は、家事は蒼夜、力仕事(燃料用の木材確保と言う名の大木伐採)は萃香というふうに分担がされており、家計の管理も蒼夜が行っていた。
故に萃香は必要なモノがあるとこうして蒼夜に連絡をするのであった。
「買い物リストに追加しとくか…」
懐からメモ帳(香霖堂で購入)を取り出し、メモをする蒼夜。
「お前………立派な嫁になれるな」
「嫁ってなんですか、嫁って」
「冗談だ」
メモをする蒼夜を見て人里の主婦の姿を思い出す慧音が呟いた言葉に、蒼夜は反撃を試みる。
「そういう慧音さんはどうなんですか?誰か意中の相手とか…痛っ!」
「う、うるさい!」
意趣返しとばかりに話を降ると、慧音は赤面しながら頭突きをかましてきた。
「だいたいなぁ!お前らはなんなんだ!?付き合っているわけでもないのに同棲などして!なんださっきのは!?目の前で楽しそうにイチャつきなどして!見せつけてるのか?それとも私への嫌がらせか!?」
慧音は容姿は端麗なのだが、その硬すぎる性格から、男性から告白されることはなく、そういう噂が立ったことも一度も無かった。
「くそ!妬ましい!……いっそのこと、里の中での恋愛行為を全面禁止にしてやろうか…(ブツブツ)」
慧音が小声で恐ろしい計画を練っているのを聞いた蒼夜が苦笑していると、
「慧音さん!助けてください!」
人里の人間の一人が息を切らせながら走ってきた。
パルシィ「なんだかセリフが取られた気がするわね。人のセリフを取る人が妬ましい」