第三伝説《燃えた町・音闇(ネアン)》
「………風鱗……さん、起きて……下さい……」
「ん゛ー……」
……それなりに陽が昇った頃、加命の微かな声掛けで風鱗は目が覚めた。
……覚めたのだが。
「うぉうっ!?」
「ひゃっ……」
何故か加命は風鱗の上に乗って起こしていた。
勿論驚いた風鱗は飛び起き、加命は軽く尻餅をついた。
「ごっ、ごめん……! おおおオイラ、女子とこんなに近付いたことねぇもんだから、つい……。尻は大丈夫か? 怪我ねぇか!?」
「………だ、大丈夫……だから。落ち着いて……ね?」
「お、おぅ……(オイラ、恥ずかしくて死んでしまうべ……)」
かなり混乱している風鱗を落ち着かせ、2人は近くの町「音闇」へ向かったのだった。
「………嘘でしょ……!?」
「これは……ひでぇな……」
音闇に着いた2人の目の前には、とても町とは言えない光景が広がっていた。
家屋や街灯に広場……、町の全てが黒く焼き尽くされて煙を上げていたのだ。
焦げ臭い匂いも漂っている。
「まるで大火事があったみてぇだべ……」
「………でも、火事だとしても範囲……広過ぎない……?」
2人は恐る恐る音闇の町を通っていくが、やはり誰1人として見当たらない。
しかし直前まで人が生活していたようで、割れたガラス瓶や散乱した食べ物が見て取れる。
───町の出口に近付いたとき、ふと風鱗が立ち止まった。
「………風鱗さ……」
「しっ。この先から、オイラたちとは違う奴の匂いがするべ」
「匂い……?」
加命もクンクンと嗅いでみたが、煙たいばかりだ。
「姿を現すべ! 隠れてもオイラは分かっとる!」
そう風鱗が叫ぶと、焼けた家屋の後ろから人影が出てきた。
その左手に、炎を宿して。
次回 緑龍伝
第四伝説《気まぐれの炎術師》