第二伝説《語り継がれている緑龍伝説》
────翌朝────
「それでは、娘を宜しくお願いします」
少女の父親は深々と頭を下げた。
改まって言われると、ちょっぴり恥ずかしい気持ちになる。
「オイラ、ぜってー安全に送り届けるから!」
風鱗は力強く言うと、少女の手をひいて歩き出した。
「ちょっと待つのじゃ、風鱗」
…のに、剣炎に止められた。
「師匠…呼び止めるタイミングが悪いべよ…」
「いやぁ…1つ忠告しておくのを忘れとった」
「忠告?」
剣炎は風鱗の耳元で小さく……でも、確かにこう言った。
「決して『あの姿』を見せてはならぬ。人間など、信用出来ぬ生き物じゃからな…」
「そーいえば、まだ名前を聞いてなかったな。オイラは風鱗! 君は?」
「……加命…です」
「そっか。可愛い名前だべ!」
「…………」
意気揚々と出発したのは良いけれど、それはそれは静かなスタートになった。
加命は大人しい娘なのか、話し掛けても会話が途切れるばかり。
ほとんど会話もないまま日が暮れてしまい、次の町にも着かないので近くの開けた所で野宿することになった。
「寝袋も準備出来たし、後は寝るだけだべ。…ん?」
風鱗が2人分の寝袋を準備し終わって加命を見ると、一冊の本を読んでいた。
「何読んでるべ?」
「……」
「加命っ」
「きゃあっ!?」
相当読みふけっていたのか、少し声を大きくすると加命は飛び上がった。
どうやら、かなり驚かせてしまったらしい。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだべ?」
「……私こそ、ごめんなさい。本に……夢中になってて……」
恥ずかしくなったのか、加命は本で顔を隠した。
本の表紙には『緑龍伝』と書かれている。
「りょくりゅうでん?」
「……あ、えっと…。緑色をした龍の話…なの……」
「緑の龍…。どんな話なのかオイラに教えてよ」
「……………う、うん…」
─────むかしむかし。
まだ、人間と龍が共存していた村があった頃の話。
とても賢くて強い数多の緑色の龍が、人間に知恵と自然の恵みを与えていたそうな。
その代わり、人間は常に龍に対して尊敬の念を持ち、崇拝していたのだ。
しかし、龍がいると聞きつけた軍が村を襲撃してきた。
緑の龍たちは共存している村人を守るべく、惜しみなく村人たちに力を貸した。
圧倒的な強さで軍を追い払ってくれた龍だったが、改めて人間の汚さを知り、この事件を機に姿を現さなくなったそうな────。
「………これが、大まかな緑龍伝のあらすじ……なんだけど…」
話を聞いていた風鱗だったが、急に静かになった。
まるで、何か心当たりがあるかのように。
「……………風鱗…さん…?」
「…ん、あぁ、ごめん。ちょっとボーっとしちまったみてぇだ。もう遅いし、寝てしまうべ!」
「あ…はい………」
2人ともゴソゴソと寝袋に入ったときだ。
「さっきの本、読んでくれてありがとな! オイラ、何があっても加命のこと守ってみせるべ!」
風鱗はとても眩しい笑顔でそう言うと、3分程で寝てしまった。
そんな風鱗を見つめながら、加命は自分の心拍数が上がっていくのを感じた。
「風鱗さんって、ちょっと変わってるけど…好きかも…………」
まるで独り言のように呟くと、加命も夢の中へ入っていた。
次回 緑龍伝
第三伝説《燃えた町・音闇》