笛の音
屋敷の中から美しい笛の音が聞こえる。
笛を吹いているのは、一人の少年。
一見見ると美しい少女にも見える整った顔立ち。
「また笛を吹いているのか?」
「ええ、聞きます?……お耳汚しになるかもしれませんが?」
「……」
声をかけてきたのはこの屋敷の主だ。
彼は気まぐれにこの少年を拾って育てている。いや、気まぐれなどではないかもしれない。あの時、敵国に焼かれた村のただ一人の生き残りの彼は血に汚れながらも、どこか凛としていた。元は神社に住んでいたらしい……
「何で笛の吹くんだ?」
何とは無しにきいてみた。
特に意味はない・・・・・・と思う。
「何ででしょうね~? 私にも分かりません。」
だが、少年はそう言って苦笑した。
本当に分からないのだという。
あえて言うなら呼吸をするのと同じくらい、気がついたら自然に―――そう、自然に笛を吹いているのだという。
そこまで言うと何かを思い出したようにああ、と少年はつぶやいた。
「理由、そう理由ですね。」
そこまで言って少年はふわりと微笑んだ。
「奇麗だから、じゃないですか?」
「何だ、それは」
流石に主人もその言葉には苦笑を隠せなかった。
屋敷には今日も笛の音が響いている。
―――ふむ、確かに美しいのかも知れぬな。
主人がそう思ったのは彼のみぞ知る。