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「ねえ、最近私、なんか悪いことしちゃった?」
「えっ、どうしたん? 藪から棒に」
「だって最近、私とおるときずーっとぼうっとしてるやん」
「そんなことないよ、ちゃんと話聞いてるで」
「嘘ばっかり! 私が気づかないとでも思った? なあ、教えて。私なんでも言うとおりにするから」
彼女の言葉はおそらく真実であろう。彼女は僕が頼みさえすれば、どんな要求にでも答えてくれるであろう。だが、彼女に僕の苦しみは到底分かりはしないであろう。自分を偽らず、いつでも素直に純粋無垢に生きてきた彼女には。
「なあ、ミドリ。別れてくれへんか」
「えっ・・・ 嫌やわもう、変な冗談やめてーやあ」
「冗談やない、なあお前も分かるやろ? 俺らがもうあかんことくらい」
「そんなことない、この前だって、二人で一緒にUSJ行ったやないの。私はめっちゃたのしかったよ」
「俺もめっちゃ楽しかった。けどな、そういうことやないんや」
「私は嫌やから、別れるとか嫌やから!!」
小雪が降り注ぐ中、僕はベンチから立ち上がり、ミドリのもとから離れる。背中には冬の冷たさよりはるかに鋭く僕の心をえぐる女の泣き声が突き刺さった。