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昼休み、僕と遠藤たちはいつも購買のパンを食べる。もちろん自分たちで買いに行ったりすることはない。山岡が全員分、むろん山岡本人の分はないが、買いに行くのだ。5分、それが山岡に与えられるタイムリミットだ。購買はA棟にあり、どれだけ走っても往復で5分以上かかり、リミット以内に帰ってくるのは土台無理なのだ。だが、山岡は毎日毎日走る。走る側も走らせる側もそれが当たり前になってしまい、そのことについてたいした感情を抱きはしない。間に合わなければ金は払わない、要するに遠藤たちの目的はそれなのだ。だから、山岡が間に合おうが間に合わなかろうが関係ないのだ。どうせ難癖を付けては代金が支払われることはない。「はーい、時間切れ。残念やったな山岡、2分オーバーや」
「あかんなー時間守らん男は最低やで」
北谷と山本がにやにやしながら山岡を責める。
「そんな。5分じゃ絶対間に合わんって」
それは山岡が今日初めて発した言葉であった。その声は生まれたての小鹿の泣き声のようにように弱々しいものであり、毎日のように続く地獄のような日々に彼の心は疲れ果て、脳は思考を止め、生気を失ってしまったであろうことを物語っていた。
「何言ってんねん、どうせお前どっかでますかいとったんちゃうんか」
僕のその一言に遠藤たちからどっと笑いが起きる。
「おい、山岡ーあんま軍曹殿怒らせんなよ、ノルマきつくなっても知らんからな」
そう、遠藤が言った通りこの儀式を考え、提案したのは僕なのだ。親友を傷つけ、いじめることに一種のサディスティックな快感を覚えているかどうかは分からない。だが、この儀式は確かに僕の口から出たものを具現化したものに違いない。
自分の語彙のつたなさに泣けてくる