13
部屋に入った僕は黒のボールペンとノートの準備をした。僕はそこに両親にたいする謝罪と短いメッセージを書き、ペンをしまった。そして文が書かれたノートを勉強机の真ん中に静かに置いた。これで用意は整った。僕は一つ短い深呼吸をし、心を落ち着かせる。ふとペンをしまった筆箱に目を落とすと、ミドリと二人でとったプリクラがある。そこに写る屈託なく笑う少女を見て僕は彼女の優しさは偽りや演じられたものであなく、正真正銘の本物だったんだなと思った。そんなことはとっくにわかっていたのに僕は彼女と正面から向き合わなかった。僕は僕と心からぶつかりあい、理解しあおうとしていた人から目をそむけ、逃げていた。そう思うと途端に彼女の柔らかい毛糸のような声を最後に聞きたくなり、思わず電話をかけた。3回目のコールで彼女は電話に出たが、別れた恋人からの突然の着信に戸惑いを隠しきれないでいる様子であった。
「もしもし、今ちょっと時間ある?」
「うん・・・ 私は大丈夫だけど。いいの?同じクラスの山岡くん、亡くなったんでしょ?」
彼女の声は相手を心の底からいたわるような優しい声だった。その声を聞くと僕は突然、彼女のことが愛しくなり、どうしようもない気持ちで胸がいっぱいになった。
「そのことやねんけど・・・俺さ実は昔、あいつと親友やってん。けどな、同じクラスの不良グループに言われてあいつのこといじめててん。そやから、たぶんあいつ自殺してもうて。俺、最低やんな。自分の身守るためだけにあいついじめて・・・」
明るくなんでもないことのように言うつもりだったが、最後のほうは涙が自然に溢れて止まらなかった。
「なっこれで分かったやろ?俺が最低の奴やってこと。俺のことなんかもう嫌いになったやんな?」
そう言い終わると僕はミドリの返事を待たずに電話を切った。彼女はこれで僕に幻滅し、僕のことを嫌いになってくれるであろう。最後の最後まで彼女を悲しませることだけは僕はしたくないのだ。
僕は部屋を出て、台所に向かった。両親は二人ともタケの葬式に出ており、家には僕一人だった。僕は炊事場の下の戸棚から包丁を取り出す。その冷たく光った刃物は今から僕がしようとすることをすでに察知し、待ち構えているようであった。タケはいったいなぜあんな辛い死に方を選んだのであろう。僕に対する憎しみの深さを知らせるためなのであろうか。もしくは、最後に僕が彼と同じ苦しみを選び取るかどうかを試したのであろうか。本当のことはもう、誰にもわからない。けれども、僕は彼と同じ道をたどろうと思う。そう、僕とタケは親友なのだから。
無事完結しました。最後まで読んでくれた方々、本当にありがとうございました。
次はもう少し明るい作品を書いてみたいと思います。