第8魔法~転校生、来ちゃいます~
第8魔法~クラスリーグマッチ 転校生、来ちゃいます~
朝、いつも通りの朝がやってくる。
朝日が窓から差し込み、ポカポカと温かい朝。まさに春の朝だ。
雄斗はまだ眠そうにしながらも、眼を開ける。
まず、自分の左手を見る。血は…止まってなく、流れ続けていた。
(やべ…また意識が…)
と雄斗が頭を押さえた瞬間、また少し左を見た、すると、雄斗の眼が一気に開いた。
「な!?狭霧ぃ!?」
そう、確かに雄斗の左には狭霧が確かに寝ていた。
口の周りは…血で塗れている。という事は…。
「俺が意識を失った後、レイラが俺の隣でそのまま寝た…というわけか」
ご名答、その通りでございます雄斗さん。
しかも、状況は最悪。狭霧が雄斗にがっちりと抱きついているのだ。
雄斗の手からは出血。女の子が抱きついている。傍から見れば昨日の夜中…。
出血は全く関係が無いのだけれど。
「みゅう~もう朝~?おかーさん~後10分寝かせて~」
狭霧の寝言。
雄斗はしばらく黙る。起こすべきか起こさないべきか。
起こしたら起こしたで叫ばれて、下手をしたら警察沙汰。
起こさなかったら起こさなかったで…けいさ(以下略
「おい、起きろ。朝だ――――」
雄斗は思いっきり布団を取り払う。そこで言葉を失う。
雄斗の目の前に広がっていたのは…朝日に照らされた…少女の裸体。
イコール…狭霧の裸だ…。
(なにぃ!?こんなバカな…何で裸なんだ…意味わかんねぇよ!)
――――――――――――――――――――――――――――――――
こうなった経緯はきのうの夜に遡る。
雄斗に抱きついたまま寝た狭霧…いやレイラ。
しかし、突然起きだして、こう言い放った。
「…熱い…」
そりゃそうなりますよ。もう春ですから。抱きついてたら。
離れればいいものの、レイラは…服を脱ぎだした。
そして、またも雄斗にぴったりとくっついて、眠りはじめた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
と…言う訳だ。
レイラが服を脱いだ。そして意識を失い、こうなった…というわけ。
(せめて下着くらいはつけろよ!)
「うーん…おはよう~おかあさ――――」
雄斗と狭霧の目が合う。
しばらくの間の沈黙。雄斗は顔を赤らめたまま止まっている。
「ふぇ!?雄斗くん!?ななな…なんでぇ!?って私…何で裸なんですかぁぁ!!」
「待てコラァ!俺が知るわけないだろうが!!」
雄斗は咄嗟に言ってしまったが、状況が状況なだけに説得力がまるで無い。
しかしそれでも雄斗は言い訳をし続ける。
「雄斗くん、まさか…私の事を…」
そんな事を言う狭霧に対して『な訳あるか!』と一喝。
しかし状況は悪化するばかり、言い争いをしていると、階段を駆け昇る音が…
「お兄!おっきろー!!」 「雄斗ー速く起きないと学校に遅れるよ?」
そんな状況の中入ってくる那々美と鈴音。
固まる雄斗。顔を赤らめたまま毛布で体をくるまっている狭霧。
ベッドの上でこの状況。しかも2人向かい合っている。
完全に誤解を招く体勢だ。
「雄斗~?女の子裸にして、なにしてるのぉ~?」
「待てコラァ!ちょっと待ちやがれ!それは誤解だ!」
しかし、そんな雄斗の言葉など聞く耳持たず。
「雄斗~~~~~~~~~~~~!!」 「お兄~~~~~~~~!!」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カシューレル。雄斗は机に突っ伏したまま死んでいた。
狭霧はちょくちょく雄斗の方を見るが、すぐに顔を赤らめてそっぽ向く。
時折聖太が雄斗に『お~い大丈夫かぁ?』とか話しかけるが応答はない。
「返事のない、ただの屍のようだ」
聖太のお約束ギャグ。でも誰一人として笑わない。てか聞いてない。
そんなこんなでヒュレスが教室に入り、朝のHRが始まる。
「みんな~HR始めますよ~。雄斗くんも早く起きてね」
しかし雄斗に起きる気配は全くない。というより寝てない。
「ん~起きないねぇ~。ま、いっか。今日は、転校生を紹介しますね~」
転校生。狭霧も転校生だ。まだ春なのに珍しい。それよりも異常かも知れない。
雄斗はなんとか顔を上げ、入ってくる転校生を見る。
転校生が入ると、クラスから歓声があがる。
後ろで束ねられた銀色の長髪、蒼く輝く瞳、カシューレルの制服に身を包み、その転校生が入ってくる。
全体的にすっきりとした体型。中世的な顔立ち。その笑顔は優しく温かい。
あえて言うなら…天使。
今更だが、カシューレルの制服の説明をする。
基調を黒とし、背中と胸に赤いライン、胸には校章、ズボンにも同様に赤いライン、スカートにも赤いライン、その他にも所々に赤いライン。Yシャツの上からブレザーを着る形になる。
入ってきた転校生は、男子だった。
「エルリオ地方のフラノスから来た、エレノア・ガーネットです。よろしくお願いします」
女子から、男子からも上がる歓声、
「何あの子!可愛い!!」 「うおー!普通に可愛いじゃねぇか!」
しかし、雄斗の眼が、変わっていた。
どこか恨んでいるように、転校生を睨みつける。
「実家はアメンシア大陸のアーリアにある魔法研究で有名なガーネット社なんだよ~みんな、仲良くね」
ヒュレスの言葉を聞き、雄斗が机を思い切りたたいて立ち上がった。
一気に静かになり、クラスの全員が雄斗を見る。
「仲良く…だと?ふざけるんじゃねええええええぇぇぇぇぇ!!」
怒りをあらわにする雄斗。
誰かが雄斗を怒らせるようなことを言ったか?と考える…が、見当たる訳も無い。
「ガーネット社が俺達に何をした!知らないとは言わせねぇぞ!」
一同が悲鳴を上げる。雄斗が剣を抜いたのだ。
「お前らは!俺の…俺の体を…弄り回して…ゆるさねぇ、許すもんかよ!」
机をひっくり返し、エレノアに向かって走り出す。
しかし、急に倒れてしまった。
「聖太…て…めぇ…」
その場に力なく倒れ、雄斗はそのまま気絶した。
聖太が魔法を使ったのだ。気絶魔法を。
気絶魔法とは、名前の通り相手を気絶させる魔法だ。害は全くない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……ん?ここは……また保健室か……」
雄斗が目を覚ますと、またもそこは保健室だった。
すっかりお気に入りの場所、では無いが最近は保健室に居るのが多い。
雄斗は左を向いた。そこには狭霧が居た。
眼は赤みを帯びている。という事はレイラなのだろう。
何も言わずに手首を少しだけ切る雄斗。レイラ?はそこに顔を近づける。
「へぇ…本当に血を貰ってるのねぇ、レイラはあんたから…」
その声を聞いた瞬間雄斗は瞬時に手を引っこめようとしたが遅かった。
あの時と同じ、ものすごい力で雄斗の左手を掴む。雄斗の顔は苦悶の表情に変わる。
「甘いよねぇあんた、吸血鬼相手に血を出して舐めさせるなんてさぁ?」
掴む腕の力は段々と強くなっていく。
「何が…悪いんだ…?…待て、吸血…鬼?」
雄斗がそう言うと、レイラ?は高らかと笑いはじめた。
「アハハハハハ!!気付いてなかったの?そう、あの子は吸血鬼。アタシと同じ」
驚愕する雄斗。信じていた。だけど…それは…吸血鬼だという真実に。
信じたくないのか雄斗は『嘘だ…!』と力なく言う。
だが…次のにレイラ?が言った言葉で…全ての辻褄が合ってしまう。
「じゃぁさ、普通の人間が…急に人の血を飲みたいって…言うと思う?」
返す言葉が見当たらなそうに、雄斗は目を伏せる。
「でもねぇあの子…血を吸えないのよ…だからあんな風に人に取り入って――――」
「黙れ!!」
声を荒げる雄斗。しかし、顔色がだんだん悪くなっていく。
すぐさま右手でポケットの薬を飲んだが、治らない。
理由は簡単だ。血が体から無くなっている。それだけの問題。
力が強すぎて少しの傷跡からでも大量の血が溢れ出している。
「アハハ!成程ねぇ…確かに美味しそうな血。アタシにも…頂戴」
そう雄斗の耳元で言う少女。背は狭霧より少し小さく、髪は狭霧と同じ茶。
眼はレイラよりも圧倒的に紅い。その顔はとても楽しそうで、しかし邪気を感じる。
「やる…もんかよ…」
「アハハハハ!まだそんな事がいえるんだぁ…でも…アタシはレイラとは違うわよ?」
そう言うと、雄斗の首筋に噛みつく少女。雄斗は声が出なくなる。
その時開く保健室の扉。入ってきたのは、鈴音だった。
「雄斗!?」
鈴音の叫び声を聞いた瞬間に首から口を離した。
「アハッこれは美味しい血ねぇ…そうそうアタシの名前はアイカ。
今度会ったときは…アタシの物にしてあ・げ・る。楽しみにしててね」
そう言うと、アイカと名乗った少女は霧のように消えてしまった。
アイカ・レイラ。二人の…吸血鬼…。
「雄斗!大丈夫!?あぁ…こんなに血が!すぐに手当てするから!」
鈴音が走って雄斗の所に向かい、雄斗は大量に出血していたが一命を取り留めた。
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教室。最近雄斗は保健室と教室の間を行き来するようになってしまった。
雄斗が教室に入ると、雄斗の隣の席にはエレノアが座っていた。
今は2時間目、国語の授業だ。
エレノアが『大丈夫?』と雄斗に聞くが『黙れ』と一喝し、席に座った。
授業が始まった。基本的に雄斗は授業を真面目に受けない。
魔法授業や英語などは比較的熱心に受ける。共通点は担当の先生だ。
魔法授業も英語も担当はヒュレス。雄斗自身に聞くと『たまたまだ』と茶を濁すが、
けっして、否定はしていない。きっと雄斗はヒュレスの事を気に入っているのだろう。
「ねぇ雄斗くん、ちょっと良いかな」
空を見ていた雄斗に話しかけるエレノア。雄斗はそっぽを向く。
「あのね、僕まだ転入したばかりで教科書が無いんだ…ジパン語も分からないし…」
しかしそんな話を聞いても『あっそ』といって雄斗は聞こうとしない。
エルリオ地方から来た転校生。エルリオ地方と言えば…今戦争をやってる所だ。
ガジェット帝国とエルリオ連邦。そしてマリス公国。
雄斗の兄が出兵したのもマリス公国だ。部隊長の名前は…フォリア・ロックランド。
「教えて…くれない?」
「人の体を弄ぶような野郎になんで教えなきゃいけねぇんだ?あぁ!?」
唯でさえいらついていたのに火に油を注ぐエレノア。
本当だったら殺されている所だ。さっきもそうなっていたし。
すると、『分かった。じゃあ一人で頑張るね』とそれ以上は食いついてこなかった。
「じゃあこの文章を…エレノア、読みなさい」
先生の指名。それはエレノアだった。『は…はい』と言って立ち上がるエレノア。
しかし教科書も無いのに読める訳もなく、ただ呆然と立ち尽くす。
「あれ?教科書持ってないじゃん。俺のかしてあげるよ」
と言って教科書を手渡す聖太。
そしてエレノアに分からない所を丁寧に教え始める聖太。
そんな聖太とエレノアを…雄斗はずっと睨んでいた。
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昼休み。今日は珍しく雄斗は学食のようだ。
雄斗がかった食券は…無い。
何も持たないまま受付に行った。
「おばちゃん、いつものを頼みたい。大盛りで、早急に」
「あいよ、雄斗ちゃん。火山マーボーマグマ風味大盛りで一丁」
ここの食堂のおばちゃんはすぐさま準備に取り掛かる。
この学校の学食は世間ではマズイと言うが、雄斗はここに進んでくる。
那々美や政輝がいつも弁当を作るのだが…雄斗は基本ここに来る。
しかもここのおばちゃんも雄斗を気に入っていて、頼めば何でも基本的に作ってくれる。
だから雄斗は金は払うが食券は絶対に買わない。
「はい、お待ちどうさま。ありがとねぇ雄斗ちゃん。お陰で寂しくないよ」
「別に…俺はここの飯が好きだから来てるだけだ。ありがとよ」
雄斗は少し照れくさそうにしながら席に座る。
と言っても…席はガラガラ。人口密度の低さは尋常では無い。
「いただきます」
そう言い一口、口に入れる。
すると…雄斗の眼が一気に開眼する!!
「美味い!これは美味い!口の中に広がるこの辛さ!常人では食えないような辛さだがその中にもどこか優しさを感じる!そしてこのとろみ!マーボー豆腐には欠かせぬ物だがそれが確かに感じられる!この豆腐もうまい!これは良いにがりと大豆を使ってる!ひき肉も何とも言えない!!美味い!何もかもを合わせて美味い!これぞ最高傑作だぜ!おばちゃん!」
いつもの雄斗とは全く違うテンション。
その後も、一人でこんな事が続いた…。
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「ただいま~」
疲れた体を引きずって家に入る雄斗。
「お帰りなさい、雄斗」 「お兄お帰り~」 「お帰り兄ちゃん」 「お帰り~」
いつも通りの声。
しかし…雄斗は…確かに聞いていた。
「おい、一人多かったぞ」
「あ、僕かな」
聞こえてきたのはリビングのテーブルから。
「こんばんわ、今日からこの家にお世話になる、エレノア・ガーネットです」
「な…!?」
「なにいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??」
第8魔法~クラスリーグマッチ 転校生、来ちゃいます~END