表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命ノ魔法  作者: Rorse
第1章~運命の出会い~
7/21

第7魔法~新たな出会い~

第7魔法~クラスリーグマッチ 新たな出会い~


力が欲しい……何かを護る力が……そう願っていた。

少年はその為に剣を習った。自分の姉に。

護りたい!全てを護る力が…欲しい!


少年はそう思っていた。だが、姉が初めて教えてくれたのは……人を殺すための剣術。


「人を殺す、それは命の重さを知ること。それが分からないなら……剣は使えない。

使う資格がないの。分かる?」


少年には分からなかった。人を護りたいだけなのに殺すなんて。

最初は木刀を使って練習していたが、やがては真刀を使うようになった。

少年は、真剣を持てなかった。重い、少し持ち上げ、少し振るがやっとの事だった。


「重いでしょ?それが命の重さ、命を奪う事も、護る事もできる重さなんだよ」


剣を使うときは眼つきや雰囲気さえも変わる姉だが、この時は笑顔だった。

少年の姉はいつでも腰に刀を帯刀している、少年はそんな姉を尊敬した。

命の重さを知り、自由に剣を振るう事の出来る姉の事を。

強くなりたい、姉のように。そして……いつの日か姉を超えたい。

そしてこの手で護りたいと……少年は思った……。




―――――――――――――――――――――――――――――




「ん……うぅ……夢……か、また懐かしい夢だったな」


またも雄斗が目覚めたのは保健室。これで2回目だ。

しかし、さっきと違うのは傷が深い事。手首に深い傷を負っているのだ。

雄斗は辺りを見回す、隣には咲夜が寝ている。視線を自分の左腕にうつすと、ハンカチが見えた。

その上からきつく包帯が巻かれていて、包帯には血がべっとりと付着していた。


そして、狭霧が雄斗の隣に座っていたのだ。しかし、その眼は……どこかおかしかった。

虚ろで、そしてどこか赤みを帯びている。しかし、確実に雄斗の手を見ていた。


(何故、俺の手を……?)


様子もおかしい、狭霧はさっきから何も話さないでジッとしている。

ただ、片時も雄斗の手からは眼を放そうとしない。

そして、やがて狭霧の手が雄斗の左手に乗せられる、手首を切った方の手だ。


次の瞬間、雄斗の顔が苦悶の表情に変わった。

狭霧の手に物凄い力が入っているのだ。そして、抵抗出来ない雄斗の腕を上げる。

こんな力は人間のものとは思えない。今にも腕が折れてしまいそうだった。


「血…美味しそうな…血…飲みたい…貴方の…血」


狭霧が今にも消えてしまいそうな声で言う。その声には感情が無かった。

雄斗は声が出なかった。痛いというのもあるが、恐怖に近い感情があった。


(何故狭霧が?変な奴だがこんな事はしないはずだ……)


しかし、そんな事を思っても状況は変わらず、ただ雄斗は苦しむだけだった。


「~~~!?ぁ……ぁぁぁっぁ!?~~~~~~!!」


あまりの痛みに声すら出なくなる雄斗、声にならない声を叫び続ける。

すると、包帯に血が(にじ)んでいく。


「血……血……血……」


狭霧は雄斗の左腕の包帯を取り、血をぺろぺろと舐めはじめた。

雄斗は依然として痛みに苦しみ(もだ)えている。

しかし雄斗は、タイミングを見計らって残っていた右腕で狭霧の顔を掴んだ。

こうすれば引き離せる。そう確信した。だが、違った。


狭霧は物凄い力で雄斗の右腕を掴み、雄斗の血を舐め続ける。

あまりの力に、雄斗の額からは滝のように汗が流れていた。

恐怖…ただ『怖い』という感情だけが雄斗の中に渦巻いていく。

そうしている内に段々と雄斗の顔色が悪くなっていった。


(たった一秒で良い、時間さえあれば…!)


雄斗はある一つの賭けに出た。


「なぁ狭霧、右手を放してくれ。薬を飲みたいんだ、血は舐めてていいからよ」


普通に考えれば成功するとは思えない。そんな事してくれるわけがない。

しかし、狭霧は雄斗の右手を離した。

雄斗はすかさずポケットに入っていた薬を口に入れる。

すると、顔色はみるみると良くなっていった。雄斗はほっと溜息をつき、落ち着いた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「なぁ……美味しいのか?俺の血って」


雄斗はすっかり痛みに慣れ、なされるがまま血を舐められていた。

狭霧は雄斗の問いには答えず、ただ黙って血を舐め続ける。

あまりに奇妙な光景だ、一人の男が一人の女に血を舐めさせているのだから。


「美味しい……貴方の……血は……」


時々そう言ったりしながらも、特に何の話もしない。

ただ必死に血を舐めている。たったそれだけだった。


「何で……何もしないの……?血を舐められているのに……」


急に狭霧の方から雄斗に喋りかけてきた。

突然の事に少し驚いたようだが、雄斗は『うるせぇ』と言ってすぐに黙ってしまった。

何もすることが無いので雄斗は空を見る。その間、狭霧は必死に血を舐める。

暫くの間そうしていると、狭霧は血を舐めるのをやめた。


「ん?もう良いのか?ってお前口の周りが血だらけだぞ」


雄斗はそう言うと、血だらけになっている狭霧の口を、腕に巻いてあったハンカチで(ぬぐ)った。

すると、狭霧は不思議そうに雄斗を見た。


「……怒らないの?私……いつも……血を舐めたら……怒られたのに……」


雄斗は、悲しそうな顔をする狭霧?の頭に手を乗せ、撫でた。


「別に……最初は驚いたが、お前が飲みたいのならやるよ。俺のなら……な」


優しく、諭すように雄斗は言った。

こんな事は珍しいものだ。雄斗は家族の前以外ではこんな事は言わない。


「でも、ちょっと加減はしてくれよ?痛くしない、急にはしない、いいか?」


「……痛くしなかったら……いいの?」


雄斗は少し嬉しそうにこう言った。


「まぁ……良いだろう」


狭霧は少し微笑み、雄斗の手にハンカチと包帯を巻きなおした。


「もう良いのか?」


「これ以上は……貴方に……悪い……から……」


雄斗は嬉しそうにしていたが、体の方はもう限界をとっくに越しているのだ。

きっと狭霧は雄斗の体の事をいたわったのだろう。


「そっか、そう言えば…君の名前は?」


「レイラ」


「そうか、レイラか。いい名前だ。また近いうち会えるといいな」


レイラは雄斗の頬にキスをした後『ありがとう』と言った。

そして、意識を失ってしまった。


「天之狭霧……レイラ……か」


雄斗はそれ以上考えるのはやめて、狭霧をベッドの上に寝かせた後、教室に向かった。

教室に着くと、誰もいなかった。6時間目も魔法授業のようだ。

雄斗は窓を開けて、飛び降りた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――




「はーい、みんなー!チーム戦はどうですかぁー?」


ヒュレスはグラウンドでそれぞれのチームの様子を見ていた。

今は一応聖太とペアを作っているようだ。

練習試合の結果は最悪。聖太・ヒュレス組は一回も勝ててなかった。


「ネズミせーんせーい。まずいっしょ、やっぱ魔術師2人は」


聖太がちょっとげんなりしながらヒュレスに言った。

元々ペアのほとんどが魔術師2人なのだが、コンビネーションが悪く勝てない。

仕方のない事なのだが、聖太は納得がいかない様子だ。

その時、上から何かが落ちてくる音がした。

勢いよく上から地面に落ちてきたのは、雄斗だった。


「ゆ……雄斗ぉ!?お前!どっから来た!?」


「うえ」


「いやまぁそうだけどさ……」


聖太は納得がいかない顔をする。

そりゃ上から人が落ちてくればそうなるだろう。


「負けてるんだろ?なら俺と組もうぜ」


「良いのか?お前が良いなら……喜んで!」


雄斗と聖太は固く握手をした。

その後の試合では、雄斗・聖太ペアが全戦全勝の快進撃。

そして学校が終わり、雄斗達は下校した。


しかし雄斗は家には帰らず、ある所へと向かった。

カシューレル因子者教育中等学校前。政輝達の学校だ。

雄斗はしばらく校門の前の壁に寄りかかる。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――




しばらくして、政輝と那々美が学校から出てきた。

雄斗はそれを横目に見ると、身を翻し、歩きだした。

絶対に雄斗がしない事、それは一緒に歩いたり喋ったりなどだ。

自分は落ちこぼれの不良。いつもそう言っている。

でも、絶対に迎えには来る。


「兄ちゃーん、待ってくれよー!」 「お兄~待ってー」


しかし、政輝達は雄斗に話しかけてくる。

でも雄斗は振り向かない。それが龍ヶ崎家のいつもの下校風景なのだ。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




家。一足先に鈴音が帰っており、リビングでそわそわとしていた。

雄斗は鈴音が居るのを確認すると、『行ってくる』と政輝に伝え、家を後にした。


「……兄ちゃん、あんまり……無理しないでくれよ……」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




雄斗が来たのは、ビルの工事現場。

来るなりそそくさと仕事服(つなぎの様な物)に着替え、ヘルメットをかぶった。

着替えを終わらすと、早速仕事に取り掛かる。鉄骨を上に運ぶのだ。


「おいドラゴン!今日もまったく精が出るな~」


「親方……俺は当たり前の事をしてるだけですよ。それに、俺は雄斗です」


今雄斗に話しかけたのはこの現場の監督。雄斗は『親方』と呼んでいる。

親方は雄斗の事を『ドラゴン』と呼ぶ。どれだけ雄斗が頼んでも直してくれないのだ。


「がっはっは!まぁ良いじゃないか!そう言えば、新人が入ったぞ」


雄斗は少し口元を緩める。親方は雄斗の事をひどく気に入っているのだ。

雄斗自身も親方の事は好きなのだ。

雄斗の特徴として、気に入った人とは全力で付き合う。


でも、あの日から、本当の意味で笑った事は…一度とて無い。

そうやって話していると、雄斗が足を滑らせ、3階から鉄骨を持ったまま落ちた。

普通なら魔法などを使って難を逃れるが、雄斗は使えない。


勢いよく地面に背中から叩きつけられる雄斗。

無論、新人は驚くが、ほかはあまり驚いていない様子だ。


「く……うぅ……いててて……すんません、やっちまいました……」


「おいおいまたかぁ~?たまには魔法を使えよ?」


雄斗は隠しているのだ。魔法が使えない事を。

しかし、雄斗がもし魔法を使えたとしても、きっと使わないだろうが…。

この現場は変わっていて、魔法を使った分だけ給料が下がるのだ。

その変わりとして、元々の給料は高めだ。危険な仕事でもあるから。

その後は、新人に指導をしたりしてお仕事は終わった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……ただいまぁ……」


雄斗はやっとの事で家に帰宅する。あの後も2回ほど落ちてしまったのだ。

仕事は昼頃から夜まで、しかしそれは任意で変える事は出来る。


「あ、お兄。お帰りなさい!もう、どこに行ってたの!?」


帰ってきたそうそう那々美に怒られる雄斗。その姿はあまりに情けない。

いつもの雄斗とは全然違うちょっと可愛い一面。


「別にいいだろうが。そんなに怒ってばかりいると、嫁の貰い手が―――」


「何でそんな事言うの!!」


急に怒鳴る那々美。あまりに突然の事に言葉を失う雄斗。


「いつもいつも!心配してもそんな態度で!なんなの!?もう良い!お兄なんか知らない!」


そう言って、那々美は自分の部屋へと駆けこんで行ってしまった。

雄斗はしばらくそこに佇む。


「兄ちゃん、ご飯出来てるよ」


リビングから出てくる政輝。


「……あぁ……」


雄斗はちょっと悲しそうに、言った。

飯をさっさと食べてしまい、リビングに座り込んでしまう雄斗。


「……寝るか……」


雄斗は自分の部屋に向かった。

ベッドの上に寝そべり、天井を見つめる。


「……まぁ、仕方ない……か」


そう呟いた後、すぐさま寝てしまった。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――




雄斗が寝ていると、窓がゆっくりと開いた。

そこには、一つの人影。ゆっくりと、ふらふらと雄斗に向かって歩き出す。

そして、寝ている雄斗の上に馬乗りの状態になる。


「……うぅん……なんだぁ?なんか重い物が……」


すると、雄斗が目を覚ます。

瞬時に目の前の人影を確認し、攻撃しようとするが、動けない様子だ。


「……落ち着いて、私……レイラ……」


「ん?あ、そうか……お前か……びっくりさせんなよ……」


雄斗は少し落ち着いたようだが、戸惑いを隠せない。


(何で……こんな体勢なんだ?恥ずかしくはないのか?)


「血……飲みたい……」


雄斗は自分の左手の傷口を短剣で斬り、差し出した。

それを見ると、レイラは早速血を舐めはじめた。


「……美味しい……」


「…………………………」


しばらくの間レイラが血を舐めてると、雄斗は意識を失ってしまった。


「……ゆーと?……どうしたの……?ゆー……と?」


レイラは必死に雄斗の体を揺するが、雄斗が起きる気配はない。

レイラは、雄斗を抱きしめ、そのまま眠りについた。


「ゆーと……おやすみなさい……」


第7魔法~クラスリーグマッチ 新たな出会い~END

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ