第4魔法~信じる事~
第4魔法~信じる事~
雄斗は昔、カシューレル因子者教育小等学校に通っていた。
何処にでも居る、普通の少年だった。
髪の色は黒く、眼の色は黄色い、普通のジパン人だった。
暴力を好まず、しかし弱気を助け強気を挫く為なら何でもする…正義の味方…。
そして妹、聖奈ととても仲の良い兄妹だったのだ…が。
悲劇が起こってしまう。
ある魔法授業の時…雄斗が魔法を使った時だった…。
暴走したのだ。
暴走とは…多すぎる魔力を制御する事ができずに、力をまき散らす危険な状態の事…。
しかもそんな状態が長時間続くと…最悪死にいたる…良くて魔法が使えなくなる。
雄斗は危険だった。大人よりも遥かに多い魔力を保持していたのだ。
そんな暴走した雄斗を止めようとして、死んでしまったのが…雄斗の姉、龍ヶ崎龍音
龍音は雄斗の力を一身に受け、雄斗を鎮めた。
そして……その時同じくして、傷つけてしまったものが居たのだ。
その人物は雄斗が最も知っている人物…龍ヶ崎……聖奈……。
その日……聖奈は入院、龍音は死んでしまい、雄斗は……心を失ってしまった。
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「俺の姉の名は…龍ヶ崎龍音。お前とは違う」
「何回言えば信じてくれるの?私は…本当に貴方の―――――」
鈴音の言葉を制すように、雄斗は壁を思い切り叩いた。
「貴様が…姉さん…だと?龍音を侮辱するな!!龍音姉は気高く!優しく!凛とした!
俺のお手本であり尊敬に値する人だ!貴様なんかとは違う!二度と言うんじゃねぇ!!」
雄斗は怒鳴った。雄斗はよく怒るが…これは異常だ。
いくら怒ると言ってもここまでは怒らない。普通だったら…だが。
雄斗は龍音を尊敬していた。そして…この世で一番愛していた人だった…。
「二度と…言うんじゃねぇ…姉さんは…龍音姉は俺が殺しちまったんだよ!!」
雄斗は泣きながら自分の部屋へと向かって階段を駆けあがった。
雄斗は自室のベッドの上で泣いていた。
その姿は先ほどまでとは違い、まるで子供のよう。
苦しそうに、悲しそうに、罪悪感に苛まれて、取り乱していた。
「殺したくなんか…無かった…聖奈だって…俺が…俺が!」
あの日から、雄斗は笑わなくなった。笑ってはいけなかった。
そして…雄斗は友を失くした。魔法も…失くした。その代りに…恐れられた。
無限魔力の殺人鬼……という不名誉な異名で……。
そんな雄斗に声を掛け、今に至るのが…聖太だ。
雄斗はさっきの試合で聖太を殺そうとした。
でも、雄斗が本心でやった訳では無い。本当は聖太を大切に思ってるのだ。
「聖太…俺はお前さえも亡き者にしようと…すまねぇ…助けてくれたのに…!」
ただ…どうしても雄斗自身も自分を止められない時がある、あの時のように。
「龍音姉…俺は…どうしたら良い?姉さんの伊冴无斬を…上手く使えないよ…」
龍牙聖天・伊冴无斬。元の持ち主は龍音。だが今の雄斗は伊冴无斬の力を半分も出せていない。
夢幻闇夜・夢幻月下・風雷石火・紅蓮炎斬・零氷白夜・大地烈斬・豪雷爆火という7つの技がある。
それぞれある属性を宿した7つの伝説の剣技のことで、龍音は全てを使えたと言っていた。
雄斗は…この7つのうち1つたりとも使う事が出来ない。
まず1つ目の条件。決められた属性を得意属性として所持していること。
紅蓮炎斬は火属性。と言う事は、普通なら水属性である零氷白夜は使えない。
なので、全てを使えた龍音は…俗に言う特異体なのだ。
全ての属性を得意属性として所持している者の事を、特異体と言う。
2つ目の条件。使う本人の精神力。
秘龍技と言われる7つの剣技。使用するには使用者本人の精神状態・精神力・想いの力が必要。
何かに迷っている時、精神が砕けてしまった時、精神の軸がブレてるときは発動できない。
『なにかを護りたい』そんな思いや、最悪の状況だが『敵を殺したい』などでも発動はする。
3つ目の条件。一番簡単にして最大の条件。龍牙聖天・伊冴无斬であること。
伊冴无斬は伝説の鍛冶師が5年に渡り丹精込めて打ち続けた名刀。
剣自体に属性が宿っている。その属性と自分の属性を同調させ、力を引き出すのだ。
しかし、雄斗はその内条件3しか満たしていない。
想いも、精神も、不安定過ぎるのだ。だからこそ、使えない。
「…龍音姉…鈴音…悔しいが…似てる…」
龍音の髪の色は白。眼は深い蒼。そして鈴音もまた髪は白。眼は…見えない。
そしてどこか言動が似てる。剣を使えるし、雄斗命な所など特にそうだ。
「だが…認めるものか…あいつは龍音姉じゃない。もっと龍音姉は可愛かった!
って…何言ってんだ…俺は…病気かな…」
雄斗は自分で言った事に対して突っ込む。
そんな雄斗のもとに、鈴音がやってくる。
それを見た雄斗は「何の用だ?」と言いそっぽを向く。
「雄斗…ごめんね、もう…貴方のお姉ちゃんだなんて言わない事にする…本当にごめんね…」
「あぁそうしてくれ。邪魔でしょうが無い」
さっきとは打って変わって元気のない鈴音。しかし雄斗はいつものようにあしらう。
すると…鈴音は、
「…さようなら…雄斗…」
と、とても悲しそうに、泣きそうな声で小さく言った。
しかし、雄斗は鈴音を見ない。
鈴音は…静かに雄斗の部屋を出て言った…。
「…やっと居なくなったか…今日一日疲れたぜ…邪魔者が居なくなって楽に―――――――」
そう言いかけて、雄斗は突然立ち上がった。
「チッ!何で…俺は…こんなにも…」
雄斗は急いで部屋を出た。
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一階リビング…
「政輝!那々美!あの髪長のバカ野郎は何処行きやがった!」
「どうしたんだよ急に?鈴音さんなら、さっきどこかに行ったよ…」
「お兄…どうすんの?」
雄斗は伊冴无斬を手に持ち、急いで家を出て言った。
残された政輝と那々美。
「兄ちゃん…やっぱ追いかけたね…」
「政輝兄は…分かってたの?」
政輝は微笑み、那々美の頭に手を乗せた。
「だって僕は…雄斗兄ちゃんと龍音姉ちゃんの弟だよ?分かるよ…」
政輝は……そう言うとにっこりと笑った。
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その頃、雄斗は走っていた。どこに行ったかも分からない鈴音を捜して…。
何故だか分からなかった…なぜ走っているんだと…。
あんな奴どうでも良い。それ以前に邪魔だと思ってた。
なのに…今雄斗は走っている。暗く寒い夜に…。
やがて…着いたのは、空き地だった…。
そこに、立っている一人の人物…それは…。
「見つけたぜ…鈴音!」
「雄…斗?」
鈴音だ。一人空き地に佇んでいたのだ。
「何で…ここが分かったの?その前に…なんでここに来たの?」
「簡単だろ?テメェを連れ戻すためだ」
雄斗の言葉を聞き、驚く鈴音。
二人、寒空の中空き地に佇む。一方の髪は白く輝き、一方の髪は黒く同化している。
「…政輝達に言われたんでしょ?もう…良いよ?私なんて…どうせ―――――――――」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええ!!」
雄斗は鈴音の言葉を制して叫んだ。
雄斗は怒っていた。何故自分はあんなに冷たい態度を取ってしまったのかと。
自分が情けなかった。過去を引きずり、いわれもない非難をしてしまった。
鈴音はあんなにも一生懸命尽くしてくれたのに、心配してくれたのに、雄斗は…泣いていた。
「俺は誰のためでも命令でもねぇ!自分の為に来たんだ!お前が心配だったから!一緒にいたかったか
ら!お前が…何か…自分でもわかんねぇよ!とにかく戻ってこい!いいな!」
雄斗は叫んだ。自分でも…分からないと言って。
それは説得というには余りにも不格好で、告白というには余りにもお粗末なものだった。
でも…鈴音は…笑っていた。
「雄斗?あははは…嬉しいな…でも、次はもうちょっとしっかりとした内容にしてね」
「う…うっせぇ!仕方ねえだろうが…」
雄斗の顔は真っ赤に染まっていた。あの日からずっと…忘れてしまっていた…感情。
そんな雄斗を見てさらに笑う鈴音。
雄斗もそれにつられて笑う。
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帰り道…雄斗と鈴音は一緒に帰っていた。
「なぁ…鈴音」
「ん?なぁに?」
雄斗は何か言いたそうに鈴音に話しかけた。鈴音は少し微笑みながら雄斗を見た。
「…すまなかった…いや…ごめんなさい…」
珍しく、雄斗が謝る。
「別に良いよ。好きで雄斗の傍に居るんだしね。ありがと、雄斗」
しかし何も無かったように接する鈴音。
口元しか見えないが、雄斗には分かっていた。
最初から。笑っているとか、嬉しいとか、悲しいとか、鈴音の表情が…。
雄斗はさっきからずっと顔を赤くしている。
「雄斗?顔赤いよ?あ、まさか!熱でも出たんじゃ!?」
そう言って鈴音が顔を寄せてくる。雄斗は一瞬動けなくなる。
「違ぇよ…」
「そう?辛かったらいつでも言って良いんだからね?ケホッケホッ…あれ?風邪かな?」
すると、雄斗が自分の持っていたコートを鈴音の肩にかける。
「風邪…引くぞ…まずは自分の心配をしろ。あと…ほら手、繋いでやるよ。昔から手は暖かいんでな」
そう言って手を差し出す雄斗。
嬉しそうに微笑む鈴音。
「ありがとう…雄斗」
寒い寒い夜の空の下で…手を繋ぎながら歩く二人の人影。
これがあの龍ヶ崎雄斗などと…誰が信じるものか…
しかし、確実に…龍ヶ崎鈴音と龍ヶ崎雄斗は…そこに居たのだった…
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そしてその翌日…雄斗は風邪をひいた…
「ゴホッゴホッ…やっぱお前なんか大っ嫌いだ!!」
「あはは…ごめん…」
第4魔法~信じる事~END