第3魔法~姉~
第3魔法~姉~
雄斗の伊冴无斬が聖太の頭目がけて振り下ろされた。
絶体絶命…聖太は動くことができず、雄斗に剣を止める気配は全くない。
もはや間に合わない。ヒュレスも生徒たちも動くことができず、誰もが目をつぶった。
その瞬間…ガキン!と、金属と金属のぶつかる音が聞こえた。
雄斗は驚く、雄斗の前で剣を受け止めていたのは…鈴音だった…。
「雄斗?お友達を傷つけるなんて…感心できないよ?仲良くしなきゃ…ね?」
雄斗は驚き、そして…低い声で言った。
「…邪魔をするんじゃねぇ…すっ込んでろ、髪長野郎が…」
雄斗は力を更に込めた。雄斗はかなりイライラしているようだ。
一対一の対決の間に割って入ってくるなど、雄斗が一番嫌っているもの。
しかも入ってきたのは朝…突然、雄斗の姉だと名乗ってきた変な女。
「そんな言い方ないでしょ?空間移動しなきゃ危なかったんだよ?」
怒りが頂点に達する…雄斗は一度つばぜり合いをとき、詠唱を始めた。
全員の視線が雄斗に注目する。
聖太は驚愕する。雄斗は魔法が使えない、それを知っているからだ。
長い時間詠唱を続け、詠唱が終わる。
「剣魔法・火ヲ纏ウ剣!!」
雄斗の叫びと共に、伊冴无斬が火を纏う。
剣魔法…。普通の魔法とは少し異なり、使う本人の精神力で使う事の出来る特殊な魔法。
これは一応魔法ではあるが、魔法では無い、存在でもある。
「あ~…いかにも雄斗らしい魔法だねぇ~。じゃぁ…お姉ちゃんも、つかおっかな」
鈴音は自分の剣を前に突き出し、詠唱を始めた。
雄斗はその間、待っていた。伊冴无斬を構え、鈴音を睨みつける。
そして、詠唱が終了した。
「虎牙聖野・慰漸撫魅。剣魔法・水ヲ纏ウ剣」
雄斗も、聖太も、生徒も、ヒュレス先生ですら驚く。
水系の魔法は…超高等魔法。使えるものは少なく、3年生ですら使えない者の方が多い。
その理由は…まず一つ、固有属性の問題。因子者には、それぞれ得意属性・苦手属性がある。その得意属性によって、苦手属性が生まれるのだ。
例えば…火属性が得意な人間は水属性が苦手になる。風属性なら雷属性。といった感じに。
水属性と闇・光属性は特別で、得意ならばその他の属性全てが苦手となってしまう。
もう一つの理由は…制御のしにくさ。
言ってしまえば、苦手でも魔法は使える。しかし、それはあくまで初級魔法程度の話だ。
もし上級魔法を使えば、暴走を引き起こしたり制御がきかなくなる。
辺り一帯を水浸しにする。最悪の場合一つの街が水の中に消えてしまう事もある。
しかし…雄斗はニヤリと笑った。だが、その笑顔はとても輝いているとは言えず、暗く、曇っている。
「おもしれぇ…だがな…俺は止まらないぜ?」
雄斗は剣を構え直し、鈴音に向かって突進する。
しかし、鈴音は身動き一つせず、雄斗を待つ。
雄斗の運動神経は普通では無い。それは…ノルーウェルの生徒でも勝てないほどだ。
因子者の運動能力は基本的に低い。魔法を使える代わりに。
だが…雄斗は違う。魔法は使えないが運動能力が高い、それは常人を超えるほど。
因子があるが…魔法は使えず、戦闘能力が高い。
そして、雄斗の伊冴无斬が鈴音に振り下ろされた時、鈴音の姿が消えた。
雄斗は驚き、捜すが…見つからない。
その時後ろから、鈴音が雄斗に抱きつく。
「ここだよ?雄斗…もう、離さないから、寂しくなんか無いよ…」
雄斗は顔色一つ変えず、伊冴无斬で自分の腹部を貫いた。
その剣は、雄斗の後ろに居る鈴音の腹部をも貫く。
鈴音の顔が苦渋に満ちてゆく…正確には口元しか見えていないが…雄斗は顔色をまったく変えない。
「今更…現われて…都合のいい事ばかり…言うんじゃねぇよ…クソ野郎…が」
雄斗は剣を握る手に力をこめ、更に伊冴无斬を差し込んでいく。
雄斗は思った。もし本当に鈴音が姉だろうと、これだけすればもう近付いては来ないだろうと。
だが…雄斗の剣から抜け、離れた鈴音は…嬉しそうにこう言った。
「雄斗は…相変わらず…やんちゃなんだね…お姉ちゃん嬉しいな」
そんな鈴音の言葉に雄斗は…更に剣を振ろうとしたが…その場に力なく倒れ、意識を失った…。
それを見た聖太とヒュレス達が雄斗のもとに駆け寄り、保健室に運ばれていった…
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雄斗には…家族が居た。
親も、妹も、弟も、兄も…居た。
しかし母親は死に、父親は借金を抱えて蒸発、兄はその借金返済のために軍に入り、死んだ。
その時…帰ってきたのは兄の死体では無く、黒い消し炭のようなものが棺に入っていただけだった…。
妹…那々美と…もう一人、龍ヶ崎聖奈。今は入院している…
雄斗がまだ小学生の時、そう…あの日…雄斗が…雄斗が…。
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「く…うぅ…聖奈…俺は…俺は…お前を…ん?夢…か」
雄斗は立ち上がろうとするが腹部に激痛が走り、中々立ち上がることが出来ない。
「あ、雄斗!起きた?まったくもう…お寝坊さんなんだから…毎日ちゃんと寝てる?」
雄斗の横から聞こえてくる声。そこには雄斗と同じくベットの上で寝ている鈴音が居た。
鈴音を見つけると、雄斗はそっぽを向き布団に包まる。
しかし今寝たばかり。まだ眠くはないようで眼は開いたままだった。
「あれ?また寝ちゃうの?ん~…寂しいなぁ、もうちょっと話とかしない?」
「黙ってろ。俺は腹が痛いんだ。」
遂に雄斗が口を開く。だがその口から出てきた言葉は非常に棘がある言葉だった。
しかしそんな言葉にも、鈴音はきずいた様子を見せない。
「あ、奇遇だね!私もお腹がちょっと痛いんだぁ~。うっ…いたたた…」
雄斗は腹を庇うように立ち上がり、保健室を後にした。
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雄斗が向かった先は…病院だった…
病院に入ると、受付に向かう。
「龍ヶ崎雄斗です。龍ヶ崎聖奈との面会をお願いします」
「あら龍ヶ崎君、今日も妹さんのお見舞い?本当に優しいんだね~雄斗君は」
雄斗は少し照れてしまう。
この受付のお姉さんはいつも雄斗が来るときにはここに居る。
雄斗とはすっかり知り合いなのだ。
「そんなんじゃありませんよ…俺の…所為であぁなったんですし…」
雄斗は少し頬を赤らめながら、聖奈の待つ病室へと向かう。
8210号室…龍ヶ崎聖奈と書かれている。
雄斗はドアを静かに開け、病室に入る。
「あ、お兄様。今日も来てくれたんですか?またお話しできるんですか?」
「あぁ、お話でも何でも出来るぞ~。さてと…元気みたいだな…良かった」
雄斗はベッドの近くの椅子に座る。
龍ヶ崎聖奈…髪は白く、眼は深い蒼色をしている。清楚な女の子だ。
今は…ベッドの上で静かに寝ている。
「お兄様…嬉しいのですが…大変じゃ無いですか?毎日毎日…疲れないですか?」
「あぁ!おまえの為なら何でも出来るぜ?」
「じゃぁ…空を飛んでみてください」
「ゴメン無理」
雄斗は即答する。唯でさえ魔法が使えないのに空を飛ぶなんて絶対に無理だ。
火・水・土・風・雷の大地の五大元素と、光・闇の天空の二大元素から普通の魔法は出来ている。
空を飛ぶ…普通の魔法以外の身体強化魔法・その他に分類される。
魔法の力があれば不可能では無いが、誰も今まで試したことなどない。
唯ひとり…『大魔導士』と呼ばれたモノが…試し、そして…成功したとされている…。
「ん…そうだよね…じゃあ…お話…聞かせて?」
「何が良い?あ、お前はやっぱり『魔王と勇者』の話が好きか?」
そう雄斗が言うと、聖奈は嬉しそうに、しかし少し恥ずかしそうに『はい、お願いします』と言って笑った。
むかしむかし…このジパンの国よりも、もっと西の方にあるガジェットとエルリオという地方がありました。
そこには魔法が無く、その代りに不思議な力を持った人達が居たのです。
その中に、魔王と呼ばれていた青年がいました。
その少年は蒼い炎を身に纏い、蒼い炎に包まれた剣を手に持っていました。
そこに、勇者と名乗る一人の女の子が現れたのです。
紅い炎を身に纏い、紅い炎に包まれた剣を持ったそれはそれは美しい少女でありました。
勇者と名乗った少女は魔王と呼ばれた少年を倒そうと剣を振りますが…。
魔王と呼ばれていた少年は、
「お友達になりたいな」
と言ったのです。
勇者はビックリしました。自分の聞いていた魔王とは全然違うじゃ無いか…と。
勇者が聞いていた魔王は、恐ろしく禍々しく、残虐非道で人の心など持たない悪魔…。
そう言い聞かされていたからです。
「お友達…?あなた魔王なんでしょ?なのに…どうしてよ?」
少女はそう問いかけます。
「ん~…だってさぁ…寂しいんだもん…みんな俺を避けるし、だから友達が欲しかった…ダメ?」
魔王と呼ばれた少年はそう答えます。
少女は思わず笑ってしまいました。それもお腹を押さえて大きな声で。涙が出るほどに。
少女は…笑った事などありませんでした。小さい頃から魔王を倒すために生きてきたから…。
でも、その魔王はこんな、少女と同い年くらいの無垢な少年。倒す気など到底起きませんでした。
そんな少女を不思議そうに見つめる少年。
「あれ?泣いてんの?え…ちょま…え?なんで?俺…何か言った?で、なんで笑ってんの?え?何がどう
なってんの?」
少年は取り乱しました。でも、それでも…少女は泣きやみませんでした…
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「…こんなもんか…」
「あれ?続き…聞かせてくれないのですか?」
雄斗は途中で話すのをやめてしまった。
すると、笑顔で言った。
「全部話しちまったら…会えなくなっちまうだろ?」
「でも…お兄様…別に毎日見舞いに来ることなどないのですよ?あの事なら…気にして―――――」
「言うんじゃねぇ」
雄斗は聖奈が言おうとしたことを止めた、その顔は…先ほどまでとは打って変わり…悲しみと、憂いに満ちていた。
雄斗はバツが悪そうに口を閉じ、そのまま病院を後にした…。
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家に帰ると、雄斗は見てはいけないものを見てしまった。
「あ、雄斗!遅いよぉ…一緒に帰ろうって言ったのに!ヒドイよ…」
そこには…白い髪が腰まで、そして眼が髪で隠れている女…イコール鈴音だ…。
さも居るのが当然だ。と言うように家族の中に溶け込んでいる。
「おい…このバカを家の中に入れたバカは何処に居る?」
雄斗がそう言うと、那々美が笑顔で手を挙げた。
「いやぁ…僕もビックリしたけどさ、良いじゃんか、家族が増えるんだし」
雄斗は政輝と那々美を睨みつけた。その剣幕に二人とも黙ってしまう。特に那々美は泣きそうになっている。
そんな雄斗を見て鈴音が涙を流す。
「雄斗!何で…信じてくれないの…?こんなに頑張ってるのに…」
「信じれるわけねぇだろが……だって……本当の姉さんなら……俺が……」
「殺しちまったんだからよ……」
第3魔法~姉~END