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運命ノ魔法  作者: Rorse
第2章~激闘の始まり~
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第21魔法~恐怖との対峙~

第21魔法~恐怖との対峙~


準決勝第1回戦が終了し、辺りは騒然となっていた。

破壊されつくした闘技場の修復にはしばらくかかるそうで、第2試合は先延ばしになった。

それだけではない。多くの死傷者が出た。そして……魔流千次という期待の星までも……。

その死体はあまりに酷く、残忍な死に様だった。誰もが死を嘆いた。

だが、嘆く事すら許されず……死ぬ事さえ許されなかった少女が居る。


「……千次……千次……」


龍ヶ崎雄斗は自分を恨んでいた。助けるべきではなかったのかもしれない。

人として正しくとも、間違っていたかもしれない。

今では落ち着いて眠りについているが、先ほどまでは眼を放した瞬間に自殺しようとしていたのだ。

何度も、何度も、何度も。そしてそれを何度も、何度も止めたのだ。


『私を死なせてよ!!あなたは殺人鬼なんでしょう!!?』


狂い、苦しむ少女に……誰も何も言えなかった。だが、雄斗は何も言わずに止めた。

罵倒されても、ただ少女を生かそうと努力した。


『この偽善者!!悪魔!!呪い子!!』


……突き刺さる言葉に反論できなかった。全てが事実なのだから……俺の業なのだから……。

数多くの人間を殺めたこの汚れた手で。人の命を助けるなんて間違っている。

俺はのこの手は……エレノアも、神流も、聖奈さえも、結局誰も助けられない。

誰も……救えないのか?


改めて突き刺さる現実。忘れていたのだ。自分の重すぎる過去、重すぎる罪を。

誰も助けることなど出来ない。咲夜も、桜花も、雄斗に出来る事はただ一つ。

                

                  殺す


「……口ばかりが達者になったものだ……俺も」


腰に挿してあるもう一本の小刀、護刀・龍牙を取り出し、神流の首元に突き付けた。

その雄斗の眼は、今までに見たどんな眼よりも重く、ドス黒い眼だった。

一切の慈愛を感じさせない冷たい視線は、真っすぐ神流の首を見つめている。


「死にたいのなら……こうしてやるしか無いのか……」


しかし、その腕は動く事はなく……やがて、龍牙はその鞘へと収められた。

雄斗の瞳も輝きを少し取り戻し、ため息をつきながら保健室を後にしようとした……が。

何かを思い立ったのか、神流のすぐそばに座りこむ。

すると、神流が眼を覚ました。虚ろな表情だったが……雄斗を見つけると、鋭い眼光で睨みつける。


「どうして……どうして助けたのよ!千次が……あんなことになったのに……どうして!?」


先ほどと同じ問いが雄斗にかけられる。先ほどは答えなかった雄斗だが、今度は違った。


「俺の勝手なワガママ。目の前に居る人間に死んでほしくなかっただけだ」


真っすぐな、そして無垢故に人を傷つける純粋な思い。

そこには曲がった物も、黒く歪んだ物もない。少年のような、青年の決意なのだ。

雄斗自身も、あの時助けずに死なせてやった方が幸せだったという事程度は理解していた。

自分自身が、そう……自らの手によって姉の命を奪った時と、似た気持ち。

人は悲しみの海に溺れ、苦しみの崖に突き落とされた時……絶望の空へと懇願する。

心の底から『死にたい』と。


「……お前は知っているんだろう?俺の過去を。分かるんだよ、今のお前の気持ちが」


「うるさい!!貴方に何が分かるっていうの!?消えなさい!私の目の前から、今すぐに!」


どうやら、雄斗の気づかいは空回りしたようだ。火に油を注いでしまったようだ。

頭を掻いて考え込む雄斗、珍しく真剣に考えているようだ。


「あなたは昔っからそうよ……私の気持ちも……知らないで……!!」


過去。今一番聞きたくない言葉だ。特に、小学生の時の事はもうほとんど覚えていない。

だから、本音を言ってしまえば……自分の過去を知ってる人間に死なれたくないのだ。


「俺が、何かしたか?」


俺には過去が無い。だから過去の事を話されても返答できない。

こんな風に、聞き返すことしかできない。それでも、これが俺の精一杯なんだ。

落ち着きを取り戻した神流の口から出てきたのは、真剣だった雄斗も驚く言葉だった。


「私ね……小学生の時、貴方の事好きだったの」


「はぁ!?」


思わず素っ頓狂な声をあげてしまう雄斗。

流石に予想していなかったのか、すこし取り乱した様子で神流を見つめる。


「冗談よ。冗談」


「……冗談が言えるんなら、もう大丈夫そうだな」


今度こそ、保健室を後にしようと歩き始めた雄斗に、神流は一言だけ声をかけた。


「私、取り敢えずは生きてみる。だから心配はいらないよ」


雄斗は何も言わず、そのまま立ち去ってしまった。

だがきっと、雄斗には届いたはずだ。

一人の少女の声が。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




雄斗が食堂に向かうと、そこには誰もいなかった。

それもそのはず。現在は全生徒に自室謹慎が言い渡されているからだ。

しばらく辺りを見回した後、自室へと戻ろうと足を進める雄斗。


「ゆーと」


ふと聞こえた声に驚き振り向くと、そこには……


「狭霧……?いや、レイラか!?」


雨乃狭霧。そしてレイラがそこには立っていた。

その存在を確認すると共に、雄斗は少し後ずさってしまった。無意識だった。

前回味わった恐怖が忘れられなかった。あの時の恐怖、それはまだ鮮明だった。

関わってはいけない。関わったら今度こそ殺されてしまうかもしれない。

嫌だ。死にたくない。死ぬものか。死んでたまるか!


「来るな……!」


「飲ませてよ……ゆーとの血」


ゆっくり、ゆっくりと、にじり寄ってくるレイラに合わせて後ずさる雄斗。

そんな雄斗を、レイラは不思議そうに眺める。


「……?ねぇ、どうして?何で逃げるの?ねぇ。ねぇ?ねぇ!!」


その言葉には段々と怒りが込められてゆき、激しい口調になっていく。

雄斗は申し訳なさそうに顔を伏せ、気づかぬ内に後ろの壁にぶつかってしまっていた。

すると、レイラは足元をふらつかせながら、雄斗の胸の中に飛び込んできた。


「ゆーと……嫌だよぉ……もうあんな場所に閉じ込められるのは嫌だぁ……助けてよぉ」


怒号ではなく涙声。弱弱しく、救いを求める言葉。そんな言葉を聞いた雄斗は、更に顔を深く伏せてしまった。


俺は、なんて事をしてしまっていたのだろう。俺は、怖がっていたんだ。

死にたくなかった。そんな言い訳をして、アイカの言葉を鵜呑みにして、見ようとしなかった。

レイラを、狭霧を、この眼で確かめようともしなかった。理解しようとしなかった。

家族を言い訳に、自らの命を言い訳に、全部言い訳にして、見たくない物から眼をそむけた。

いつだって理由を作って、逃げて、耳をふさいで、怖がって。

こんな俺を、必要としてくれる(・・)が居るのならば……もう迷いたくない。


「今飲ませてやる。レイラ……すまなかった」


「はぁ?で、何を誰に飲ませるって……?」


ぞくっ。背筋が凍った。恐怖で世界がねじ曲がるような感覚に囚われてしまったようだった。

目の前に居る少女はケラケラと笑っていた。その時、腹部に違和感を感じた。


「あ……がはっ!!」


アイカ。目の前に居た少女は……アイカだった。

雄斗の腹部には深々と、赤黒い槍のような形状をしたものが5本も突き刺さっていた。


「こ……これは……血液か……」


「そうよぉ?誰の血かしらねぇ~?ま、どうでもいいかしらね。

だってどうせ……あなたもこの血の中の一滴になるのだから……ねぇ!!あはははは!!」


血液を操る術。かつて中原四朗の使った闇の術式。

使う者は大抵の場合精神に異常をきたしているものが多い。それは、術式の内容が問題なのだ。

自分・他者。その体に流れる血液を使い、相手を殺す。その方法は残忍な物ばかり。

串刺し・八つ裂き・絞殺・溺殺・体内からの浸食など……知れば知るほど恐ろしい。


「ぜぇんぶ飲み尽くしてあげるぅ!レイラなんかには渡さないわ!あんたの血はアタシの物!

全部!全部!」


どうやら何かが壊れたようだ。いつものクールな少女の面影はもはや無い。

そして、時折見せる……見た目通りの幼ささえも、全てが無くなっていた。

(・・)としての彼女を……気に入ったいたのだが。


「どうして……分かりあえないんだ!努力すれば……まだ分からない……じゃないか……!!」


「うっさい下等動物ねぇ!!あんたは黙って従ってればいいのに!余計な事ばかりして!

あんた等はアタシらの食糧でしかないのよ!図に乗るのもいい加減にしたらぁ?」


腕・足。体全身を貫きながら、吸血鬼の叫びがこだまする。

壁に打ち付けられた雄斗は、まるで藁人形のように胸に槍を打ち続けられていく。

眼は虚ろになり、顔からはどんどんと生気が無くなっていった。


「やはり、人ならざる者と人の間にある限界はこんなものなのか……寂しいのう」


視界もぼやけ始めた雄斗の耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある声。

首の向きも変える事の出来ない程疲弊していた雄斗には、誰だかは分からなかった。

しかし、絶対に聞いた事のある声だった。どこか……遠い場所で。


「その人間は私にとって、とても大事な存在なのだ。放してほしい」


とても、穏やかで落ち着いた声だった。どうやら、雄斗を知っているらしかった。


「はぁ?誰よあなた。何様のつもり?」


「そんな事をしていたら死んでしまうだろう?だから一刻も早くやめて欲しいのじゃ」


「嫌よ」


「それは困ったのぉ……」


案外簡単に引き下がってしまった声の主に、アイカ自身も驚いているようだった。

しかし、それでも血の杭を打つ事だけはやめなかった。

何度も、何度も、何度も。杭の深さは増すばかり。これ以上は雄斗の身が持たない。


「仕方がない……」


「なに?やっと消える決心でもついた?」


「いいや、面倒だが貴様を……消すことに決めた」


空気が凍るほどの威圧。慈愛に充ち溢れていた声は、冷徹な声に変っていた。


「永遠なる命を持つ者よ、聖なる朝焼けに身を焦がしその存在を散らすがいい」


あっという間にアイカは人の形をした紙に覆われ、見動きを封じられた。

アイカの表情は、こちらから見ても恐怖していることが見て取れるほどだった。


「本当に消えたくないのなら……さっさと失せるのだな。化け物風情が図に乗りおって」


「くっ……化け狐め……化け物はそっちよ!!」


「ん?私は人間のつもりだよ。少なくとも貴様よりはな」


爆音とともに、俺の意識は完全に無くなってしまった。




-――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



……目の前が真っ暗だ。それに、辺りからは何の音も聞こえない。無音。

正直、何が起きていたのかよくわからなかった。もしかしたら、死んだのかもしれん。

意識が朦朧としているのもあってか、体が何処にあるのかという感覚すら薄い。

これは……本格的に怪しくなってきた。

そんな時、一筋の光が見えた。何だろう、あれは。行かなくては……。

しかし体が動かない……どうすればいい……頼む、動け、頼む。死ぬわけにはいかないんだ。

お願いだ……頼む!!


「おや、やっと起きたのか」


……眼が開いた。すると、目の前には大きな山が二つ。……どうやら和服のようだ。

そして、女性の顔。頭には耳が二つ。首元にはフワフワとした感触がある。


「……狐……ですか?」


「おや、忘れてしまったのか?昔は私の尻尾を気に入っていたじゃないか。

それはもう可愛かったのだぞ~?必死に抱きついてくる姿は未だに忘れられん程じゃ」


……狐・和服・古風なしゃべり方・人の形をした紙・過去を知る人物。

これを踏まえて、この人は……


「……楠帆(くすほ)……さん?」


「その通り。叶屋楠帆(かなやくすほ)。君の婚約者兼保護者その2の稲荷様じゃ」


「……婚約者は余計ですよ……あなた人妻でしょ……」


「おや、私は別に構わんのだがなぁ~?夫はもう死んでしまったし、娘も君を気に入っている。

あぁ、娘と婚約しても良いのじゃぞ?どちらにせよ、私は君が好きだ」


にやにやと笑いながら婚約を迫ってくる楠帆さん。とても楽しそうだ。


「そう言えば……何故……俺は生きて……いるんですか?正直……死んだかと」


少し落ち着いたところで、疑問を投げかけてみる。

あれだけの槍が体を貫いたのだ、死んだとしても何の疑問もない。


「あぁ、私が傷を塞いだんじゃよ。なに、簡単な事じゃ」


実に簡単な説明で終わらされてしまった。やったことも簡単らしいが説明はして欲しい。

昔からそうだった。どこか抜けていて、でも……とても優しい。

とても懐かしい気分だ。


「もう命に別状はないじゃろう。だが、動き回るのはやめた方がよいなぁ。

しばらくはしっかり養生するのじゃぞ?」


「……はい」


「では、また会える日を楽しみにしておるぞ。雄斗」


楠帆さんはそう言うと、視界から消えてしまっていた。

膝に頭を載せていたらしく、ゴンッと鈍い音と共に地面に頭を打ち付けてしまった。

しばらくして、体が動かせるようになったので立ち上がり、辺りを見回してみる。

森……俺のよく来ていた森だった。


「あの人には敵わないな……」


取り敢えず、今日の事は忘れよう。次は……桜花達の事だ。


「俺に……できるのか……?」


覚悟をしろ


もう戻れない


恐れるな


その身をもって


命を賭して


救ってみせろ


第21魔法~恐怖との対峙~END 

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