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運命ノ魔法  作者: Rorse
第2章~激闘の始まり~
20/21

第20魔法~クラスリーグマッチ 敗北~

第20魔法~クラスリーグマッチ 敗北~


「ねぇねぇ芳樹兄ちゃん!!」


「ん、何だい?雄斗」


すらっと伸びた長身の青年の隣で、一人の少年が笑顔で立っている。

青年も少年も、両手に見慣れない銃を持っており、周りにある樹木のいたるところに銃痕が残っている。


「何で芳樹兄ちゃんは鉄砲なの?み~んな剣を使ってるよ?」


そんな無垢な少年の問いに対し、青年の浮かべた笑顔というのは……とても暖かいものだった。

少年の頭を撫でたその手は赤くなっており、強く銃を握っていた事を物語っていた。


「それはな、雄斗。兄ちゃんは剣が下手だからだよ。だからこれしか使えないんだ」


その後、表情を曇らせた青年は……続けて言った。


「―つ――――な……―――、ほ―――のか―――ゃ――んだ。ごめんな……雄斗」


これが、龍ヶ崎芳樹が最後に龍ヶ崎雄斗に伝えた……秘密と謝罪の言葉だった。

だが……全てを覚えてはいない。全ては……そう。闇の中だ……。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「さぁ!クラスリーグマッチ準決勝戦!第1試合、魔道神流・魔流千次VS津梁聖太・護崎咲夜の両ペアで行われます!!」


既に闘技場は満席、周りにもテレビから……総理大臣クラスの官僚まで居やがる。

これはまた……あの女狐が喜びそうだ。

と、愚痴をこぼしていると……聖太たちの姿が見えた。

全く……こんな時まで笑顔を浮かべやがって……相手はあの名門のお嬢様だというのに……。


「それに比べて……咲夜さんはどうしたんだろ?なんか元気がないね……」


いや、違う。元気がないんじゃない。生気がないんだ。素人目にはわからないだろうが……。

しかし何故だ?明らかにおかしい。纏っているオーラがあまりにも違いすぎる。

眼が虚ろ、重力に引かれるだけのだらりとした体、そして表情のない顔。

……いくら思考しても思い当たる節が無い。まぁ元々記憶が無いようなものだしな。

考えていたって何も起こらない。見ているしか出来ないんだし。


「気にするな。あいつの事だ、腹が減っているとかそんなくだらない理由だろう」


腕を組みながら素っ気なくエレノアに告げる雄斗。本当にどうでもよさそうだ。

しかし、そんな雄斗を見たエレノアは何かを言おうとしたようだが、結局何も言わなかった。


「雄斗って優しいよね」


「はぁ!?」


一呼吸程度の間をあけて突然、雄斗に語りかけるエレノア。

しかもその言葉は雄斗にとっては一番苦手であり、全くもって意味不明なものであった。

『お前は優しい人間だよ』という言葉。物好きな人間しか使わない言葉だ。

特に、龍ヶ崎雄斗という人間に対して使うのは……相当の変人だけ……なのだから。


「全く意味がわからんのだが?」


「だって今、咲夜さんの事を心配してたんでしょ?僕にはお見通しだよ~?えぇと……何だっけ?

ジパンのことわざ。」


「『以心伝心』か?心と心が通じ合う事を意味することわざだ。俺はお前の心と通じ合っている自覚はないから……意味としては合わないだろう。『犬猿の仲』なのだからな」


雄斗が話を終えると、さらに難解なジパン語が出てしまったためにエレノアは混乱していた。

そんなエレノアをしばらく見つめていた雄斗。

その表情に子供らしさはなく、高校1年にして全てを悟っているような、そんな表情。


「えぇと……犬と、も……もんきー?」


「お前英語下手だな。お前外国人だろ?ジパン語話せない、英語喋れないって重症だろ……」


心底呆れたようにため息をつきながら頭を掻く雄斗。

そんな他愛のない会話をしている内に、そろそろ試合が開始する時間になっていた。


「そろそろ始まる時間だな……ん?」


その時、龍ヶ崎雄斗の眼が変わった。見てはいけないものを見てしまったのだ。

咲夜が鞘からゆっくりと引きぬいた剣。刀身は紅く、まるでひびが入っているような模様。


『バカな……!?何故、あんなものを持っている!?』


雄斗は立ち上がり、席を後にした。走る雄斗の顔からは滝のように汗が噴き出している。


「ゆ、雄斗!?もう始まるよ!?」


そんな雄斗を見て、エレノアも急いで後を追う。

何が雄斗を動かしたのか。付き合いはまだ長くはなくとも……予感していた。

このクラスリーグマッチには……なにかある。それを雄斗は知っている。

そしてこれは、嵐の前触れなのだ……と。


「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』かな?」


どこか楽しそうにジパン語で呟くエレノア。

まるで、雄斗の周りでこれから起こるであろう嵐を楽しんでいるかのような、そんな表情。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「聖奈、聞こえるか?大変だ……霙焔(みぞれほむら)がトーナメント会場に持ち出されてる。

護崎咲夜という女が持ってる。試合に使うみたいだ……」


雄斗はトーナメント会場の内部に設置されている電話で、病院に居る聖奈と話しているようだった。

いつも落ち着いていて大抵の事には驚かない雄斗だが、今は違う。

落ち着いているように見えるが、額には脂汗をびっしょり掻いている。


「そんな……妖刀を使うなんて。その人は、使いこなせるような人ですか?」


脅えたように、すこし震えた声で問いかける聖奈だった。

しかし、雄斗の返答は少女の声をさらに震えさせるものだったのだ……。


「……いいや。きっともう……完全に飲み込まれてると見て間違い無い。ヤツ(・・・)にな。

試合の開始時間はもうすぐだ。このままじゃ、制御を離れた妖刀が解き放たれてしまう」


「仕方ありません……では、こちらもアレを出すしかありませんね。

今、場所をお伝えしま―――――――」


突如として雄斗の耳に入ったのは、聖奈の声ではなく……けたたましい爆発音。

それと同時に、人の悲鳴が聞こえてくる。そう……悲鳴だ。


「あぁあ……ああぁ……始まってしまった……のです……ね?」


「間に合わなかったか……!!聖奈!すぐに雪の居場所を教えてくれ!!」


だがしかし、もう雄斗の声は聖奈には届いていない。

多くの人間の悲鳴を聞いて、すっかり怯えきっている。トラウマが蘇ってしまったのだ。

後悔をしている暇はない。早く止めなければ……人が……死ぬ……!!


雄斗は電話を切ると、急いでコロシアムに向かって走り出した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「まさか……こんな化け物が相手とはなぁ……神流?」


虚ろな瞳で、体にも力は入って無いようで、腕もだらんと垂れてる。

なのに、一撃一撃……あの剣が振るわれる度にすさまじい衝撃波が襲ってくる。

俺の右目はもう見えないみたいだが……コロシアムの大半の人間が避難するか、もしくは……

とにかく、これはもう勝負じゃねぇ。俺たちは、こいつを止ねぇと……!


「千次……これはきついわよ?」


あの魔力、いや……これは妖力ね。あの刀は間違いなく妖刀。

しかも、さっきから衝撃波に微量の炎が含まれているようね……おそらくは炎の妖刀。

千次は眼が片方やられてるみたいだし、私も片足が……動かないみたい。


護崎さんのパートナー、津梁聖太もダメージを受けて動けない。

これは……マズイわね。


そんな考え事をしている神流に対して、千次は咲夜に向かって突進する。

大きく震脚をした後、姿勢を低くして飛びかかる。

千次の持ち味は拳と魔法による『近接魔法戦闘』咲夜は剣。距離が少しだけ違う。


『間合いまで持っていければ……!!』


右手に炎、左手に雷を纏った拳を振り上げ、咲夜の懐に入った瞬間……。


「もらったぁぁぁぁぁぁ!!」


千次の鋭い右フックを咲夜の腹部めがけて繰り出した。その速さは普通ではない。

気づいたと同時に懐に入り、一撃で相手を倒す。『一撃必殺』の戦法だ。


「お前の考えなど手に取るように分かる。愚かな人間」


咲夜はその体を、右から向かってきた拳に対して右回りに回転させ、千次の拳を受け流した。

その咲夜の顔は……笑っていた。不気味に、そして不敵に。

だが、千次はまだ諦めていなかった。そう、まだ左手が残っている。

踏み込んだときの右足を月を描くように、右方向に回し、知れと同時に左足をつきだす。

その激しい踏み込みと同時に繰り出された左ストレート。

その神速の拳は、今度こそ確かに咲夜の腹部を正面から捉えた!!


「……ほぅ?人間の分際でここまで出来るとはな……」


どこか人を馬鹿にしたような独特の喋り方で、千次を見下ろす咲夜。

確かに腹部をとらえた筈の拳。しかし、咲夜には見たところダメージは通っていない。

千次の顔からは汗が噴き出していた。初めて感じる、純粋な恐怖。

ガシッと千次の頭は何かに掴まれ、宙に浮き上がる。咲夜の手だった。


「少々だが、驚いたぞ?人間」


その刹那、咲夜の不敵な笑みは鮮血に染まった。何かが砕け散ったように散乱する血液。

恐怖で歪んだ神流の顔、咲夜の手から離れ崩れ落ちる千次の体。それが全てを物語る。

崩れ落ち、重力に引かれるまま地面に落下した千次の体には……顔が無かった。


「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


絶叫する神流。先ほどまで、一緒に戦っていた男の顔が無くなり……死んでいるのだ。

もう誰だか分からない。そこにあるのは、ただの死体でしかないのだ……。


神流は負傷した足を引きずりながら千次の元へと歩いていく。

涙を流し、彼の名前を叫びながら……何度も倒れながら歩いていく。


「……愚かな……」


咲夜は呆れたのか、神流を無視してコロシアムを立ち去ろうとする。

しかし、その途中で見かけた聖太を見ると……肩に担いで外に出て行った。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



雄斗が到着したときには……全てが終わっていた。そう、全てが。

観客は誰もいない。残っていたのは……首の無い死体に寄り添いながら泣く少女。

遠目からでもわかる。神流と……きっと、千次なのであろう。咲夜の姿は見当たらない。

ゆっくりと神流の元へと近づいていく雄斗。だが、近づいたとして、何が出来るのだろう?

雄斗に出来る事はない。今は、そう……今は……何も。


「神流……お前も怪我が酷い。おぶってやるから保険室に行くぞ」


返答はない。無理もない話ではあるが……こんな事をしている場合ではない。

こいつは助けてやらねばならない。何としても。


「こいつが命懸けで護った命を、お前自身で無くす気か?」


「……う、うぅぅ……」


神流を抱き上げ、コロシアムを立ち去る雄斗。

その顔には……真剣な決意が見えた。


『怖いなら逃げればいいさ。でも、本当に雄斗はそれでいいの?』


『お前の力は、壊すものじゃ無い。苦しんでる人を……助けてやってくれ』


「桜花……咲夜……助けてやる」


「この手で……!」


第20魔法~クラスリーグマッチ 敗北~ END

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