第2魔法~出会い、そして戦い~
第2魔法~出会い、そして戦い~
「あれ?ちょっと違ったのかな?むむむ~?ねぇ、今の可愛くなかったかなぁ?」
雄斗は怒るとか呆れるとか、そんな前に面食らっていた。
突然現れた女の子、名前は龍ヶ崎鈴音。そして…雄斗の姉だと言う。
しかし…そんな事はあり得ないと…雄斗は思っていた。
雄斗に姉が居るなんて絶対にないからだ。雄斗は小さい頃から次男として家を支えてきたから。
それ以前の問題として、いきなり人の前に現われて「お姉ちゃんだよ☆」なんて言わないだろう。
雄斗は鈴音を無視し、学校の中へと向かおうとした。
「あれれ~、行っちゃうの?少し位話ししようよ~」
そう言いながら雄斗に付いてくる鈴音。しかし雄斗は口を開かなかった。
正直めんどくさかった。別に嬉しい訳でもなかった。ただ腹立たしかった。
今更現われて、媚を売ってくるなんて…あり得ない。
雄斗は結局口を開くことなく、教室に着いた。
「帰り迎えに来るから、先に帰っちゃダメだぞ?じゃね!雄斗!」
そう言って、鈴音は自分の教室へと向かった。どうやら2年生らしい。
このカシューレルは3年制で、1年生は3階・2年生は2階・3年生は1階という配置になっている。
東側の校舎には体育館や食堂、売店や練習場がある。
雄斗は不機嫌そうな顔をしたまま席に着く。
「雄斗、朝っぱらから不景気な顔しやがってぇ!何があったんだよ?」
雄斗に話しかける青年。この少年の名は、津梁聖太。一応俺の幼馴染である。
雄斗と同じく黒く光る髪に、眼の色は黒というバリバリのジパン人である。
顔は普通。成績普通。運動普通。成績はすべて普通の青年。顔立ちははっきりとしていて、印象の良い好青年である。
しかし雄斗は聖太を無視する。虫の居所が悪いのだ。
「おいおい、無視はやめてくれよー。寂しいだろ?」
しかしそれでも雄斗は聖太を無視し続ける。
聖太も諦めて、雄斗から離れていく。
そして自分の席に座ってつまらなそうにしている。
「…おい聖太」
「なになに!?」
雄斗が声をかけるのと同時に席を立ち、雄斗の目の前に笑顔で立つ。
「…すまんが…今は虫の居所が良くないんだ。しばらく放っておいてくれないか?」
雄斗は済まなそうに聖太に言う。聖太は笑う。
聖太はいつもこうだ。誰よりも雄斗の近くに居て、支えている。
「良いぜ!でもよ、虫がいい所に行ったら声掛けてくれよ?」
「あぁ…そうするよ…」
聖太は笑いながら自分の席に戻ると、魔法の教科書を取り出し、熱心に読み始めた。
聖太はアホだが勉強は出来る。雄斗とは真反対の存在だ。
雄斗は勉強も出来ないししようともしない。そして…決定的な欠陥があった。
「は~いみんな~、席についてくださいね~HR始めるよ~」
ドアを開け、入ってきたのはこのクラスの担任。
しかし、教卓の前に立つと、すぐに姿が消えてしまった。
何故なら…小さいからだ。那々美と同じくらい…いや、それ以上はあるが150行ってる位だ。
「せんせー見えないよー」 「相変わらずちっせーな」
等と、教室の中が笑いに包まれる。
先生の名前はヒュレス・ニコッド。外国人の先生だ。髪は茶、眼は緑色。通称ネズミ先生。
あだ名の由来はその背の小ささとチョコマカとした動き。背の小ささは那々美に匹敵するレベル。
胸の膨らみは…触れない方がいい。常人がミニスカートと言う物であろうとロングスカートになってしまう人物。ちなみにいつもスカートをはいている。
先生は必死に背伸びをし、なんとか教卓から顔を出す。
「もー!みんなでいじめるぅ…はい、出席取るから静かにしてね~。まず、聖太くん」
「はいは~い!居ますよ~、でも先生ちっさいから見えてないんじゃい?だいじょーぶ?」
聖太は笑いながら冗談を言い、また教室は笑いに包まれる。
先生はまたも怒るが、怖くないので誰も静かにはならない。
「も~……はい次に……雄斗くん」
雄斗の名が出た瞬間。教室は一気に静まり返った。
しかし当の雄斗は先生などそっちのけで、ただ窓から空を見ていた…。
「雄斗くん~居ないの~?居るでしょ、返事してくれると嬉しいんだけど、雄斗―――――」
「黙れ、うざったいんだよ。子ネズミ野郎が……騒ぐな。俺は居る。それだけで済むだろうが」
雄斗が喋った瞬間。教室全体が凍りつく。
あれほど笑っていた聖太でさえ、この空気に押しつぶされそうになっている。
雄斗はまた…空を見ていた。
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HRが終わり、1時間目の授業は魔法訓練。グラウンドで行われる。
基本的に自由に練習する、分からない所は先生に聞いたりして高等魔法から初級魔法まで人それぞれ。
みんなが練習する中…雄斗は一人、気の木陰で座っていた。
そこに真剣な眼をした聖太が歩み寄ってくる。
「ま~たこんな所で座り込んで…少しは練習しろよ、みんなにばれたらどうすんだよ…魔法が使えないって…」
雄斗は何も言わずに立ち上がり、腰に掛けてある剣を抜刀する。
龍牙聖天・伊冴无斬。伝説の鍛冶師が作ったとされる伝説の武器。
真の力を解放させれば、その者の思いに呼応しその色に染まり、大地を砕き、天をも穿つとされる…
雄斗は…魔法が使えない…。
初級魔法。しかも超簡単な火属性の魔法さえも…使う事が出来ない…。
その代りに剣を使う。因子者なのに腕っ節が強く、剣の達人なのだ。
「雄斗…一緒に練習…しようぜ…?今ならまだ…」
「使えないものは使えないんだよ。いくらやってもな…。テメェは自分の心配だけしてやがれ」
雄斗はギロリと聖太を睨みつける。
これは非常に危険な状況だと分かったのか、聖太はため息をつき去っていった。
雄斗には…分からない事があった。何故…自分が特待生なのか…。
雄斗は魔法が使えない。
初級魔法も、身体強化魔法も、カシューレルは魔法使いを育成する学校だ、なのに…特待生。
どちらかといえば雄斗はノルーウェルに推薦されるタイプだ。
いくら因子者だとしても、魔法が使えなければ問題外だ。普通ならば…。
雄斗は…ポケットに入っていたメガネを掛け、グラウンド中央に向かった。
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「みんな居る~?じゃあね、ちょっとした試合をしようと思うんだけど…誰かやりたい人~」
グラウンドの中央に集められ、試合をするというヒュレス先生。
手を挙げる者はいなかった…が、聖太が手を挙げた。
「俺、やりたいっす。相手は…雄斗で」
雄斗は面倒くさそうに顔をしかめた。
『お前が俺に勝てると思ってるのか?』と聖太に向かって視線を送る雄斗。
しかし…そんな雄斗を見て、聖太は笑った。
試合開始直前、雄斗と聖太は見合っていた。
(あの野郎…何のつもりだ…俺を、晒しものにする気か?…おもしれぇ…やってやるよ…)
雄斗は心の中で思っていた。
聖太は自分専用の杖を持ち、構えている。
雄斗は、龍牙聖天・伊冴无斬を構え、殺気を帯びた眼差しで聖太を睨みつけた。
周りからは、 「何であの特待生杖使わねえんだ?」とか「剣なんて珍しい」という声が聞こえる。
「試合…開始です!」
聖太は魔法の詠唱を開始した。
普通の奴とは違い、聖太の詠唱はとてつもなく速い。もう終わった…
「ファイアーボール!」
聖太の腕から無数の火の玉が飛んでくる。
雄斗は聖太に向かって走りながらファイアーボールを避け続ける。
しかし聖太もすぐに次の魔法の詠唱を始める。
「サンダー!!」
空から落ちてくる雷すら、雄斗にはかすらない。
しかし、聖太も考えてないわけでは無かった。
突如として雄斗の真下の地面から土の槍が突き出された。
(チッ!ふざけやがって!!)
雄斗はすぐさまステップをして避けようとするが、反応が遅れ、腕をかする。
「二重魔法か…上手いな…だが…遅い」
二重魔法とは、一つの魔法を詠唱しながらもう一つの魔法の術式を完成させて時間差をつけながら攻撃や行動を行うことのできる高等魔法技術だ。
それを使える聖太は、やはり常人ではない。
雄斗はその場に止まり、剣を構え、目をつぶった。そこからは微動だにしない。
そこにすかさず聖太の魔法が繰り出される。
「メテオ・レイン!!」
聖太の一撃必殺の魔法、魔力を大量に消費する代わりに、強力な魔法である。
しかし、雄斗は…動かない。
隕石が雨のように降り注ぐ。そして…その場には煙が立ち込める…何も見えないほどに。
「ふう…こんだけやれば…雄斗も考えをかえ―――――」
聖太がそう言おうとした時。後ろから聖太の首に剣が掛けられる。
後ろに居たのは…
「俺の勝ちだな…聖太…」
雄斗だった。
雄斗は、メテオを避けず、砂煙を立ち込めさせ、その隙に後ろに回り込んだのだ…
「死んでもらうぞ…聖太…」
その時…雄斗の龍牙聖天・伊冴无斬が…聖太めがけて、思いきり振り降ろされた。
第2魔法~出会い、そして戦い~END