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運命ノ魔法  作者: Rorse
第2章~激闘の始まり~
19/21

第19魔法~決意~

久しぶりの投稿です!勝手ながら長い目で見てくれればうれしいです!

第19魔法~決意~


アリーナロビーにて対戦登録を行い、時間を待機室にて待つ。

第1試合は津梁聖太・護崎咲夜、対するは魔流千次・魔道神流。雄斗たちは第2試合だ。

自分達はもちろん、聖太たちの事も気にかけている雄斗は、うなだれていた。

そんな雄斗を心配そうに見つめながら自分の銃器の手入れをするエレノア。

待機室には、重苦しいムードが流れる。

たがいに言葉を交わさず、銃器のガシャガシャという機械音だけがこの室内を支配している。


「ねぇ、雄斗?」


エレノアは勇気を振り絞って声をかけるが、雄斗はピクリとも動かない。


「雄斗ってば!僕の話を1秒でもいいから聞いてよ」


「ん……?あ、あぁすまん……考え事があってな……」


考え事とは、今回の試合の事だけではない。アイカとのことだ。

越えてはいけない、異種族との間にある見えない大きな壁。その話の後のこの試合。

異種族……その中でも一番人から忌み嫌われている種族、人狼。

吸血鬼との間にある壁すら越えられなかったのに、この壁を超える事が出来るのだろうか?

誰1人として救えない俺が……また、もう1度(・・・・・)咲野を殺さなきゃいけないのか?

龍ヶ崎、咲野、名前に縛られた呪いだというのか?


「駄目だ……何にも考えられん」


「まだ試合開始時間までは10時間以上あるし、大丈夫だよ。

それよりも気分転換にさ、銃の練習場に行かない?」


クラスリーグマッチ準決勝、決勝は夜間に行われる。テレビの放映の問題……らしい。

ちなみに言うと政輝達中学校の準決勝は昨日の夜に放映された。

その頃大量の女子たちに追いかけられ、逃げ惑っていた俺は無論見逃したわけだ。

だが、ビデオにしっかりと録画していた俺は勝ち組だ!勝利者だ!

一つ気になる事と言えば、政輝のパートナーが男で那々美のパートナーも男と言う事。

どちらも、手を出した男は殺す。政輝は顔が女っぽいから……あぁ心配だ……。


いや、しかも一応男として認識されている政輝とパートナーは同部屋。寮だから逃げ場はない。

もし襲われたら……那々美は良いとしても政輝は!?

……さらに悩み事が増えてしまった……。


「……そうだな……行くか……」


「うん!いこ?」


「……?俺はビデオを見に家に行くんだが、お前もくるのか?」


「えぇ!?」


明らかに練習場に行きたかったのであろうエレノアの提案は丸投げして家に向かおうとする雄斗。

対して、全く予想もしていなかった反応に焦るエレノア。


「……僕も行く」


「つまらないぞ~?ただビデオ見るだけだし」


「……やっぱ行かない」


何だか……悪い事をした気がする。だが気にはしない。

悪いが正直言って今は試合のビデオ以外に気は一切向かない。

これを見逃してしまったら一生後悔する。きっと死にたくなるくらい。

珍しくその気難しい顔に少しだけ喜びを浮かび上がらせて自宅へと向かう雄斗だった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「な……なんだ……こりゃ!?」


自宅につくと、目の前には信じられない光景が広がっていた。

リビングは無造作に散らかっていて、まるで強盗にでも入られた後のようになっていた。

いつもみんなで食べてる食卓のテーブルも、台所も、ひっくり返っていた。

冷蔵庫もだ。ここまで来ると人間技とは思えない。

リビング、政輝の部屋、龍音(鈴音)の部屋、那々美の部屋。そのどれもが同じようになっている。

唯一無事だったのは雄斗の部屋のみ。そして……那々美の部屋に関しては……。


「……那々美?」


リビングなど比べるに値しないほどの散らかりようだった。まるで誰かが暴れたような。

雄斗の眼に入る……いや、入ってしまった。部屋の隅で毛布で体を包んだ部屋の主。

顔を真っ赤に腫らした……那々美だった。


「……お……兄?なんで……お家にいる……の?」


「お前こそ!それに何だこの有様は!お前がやったのか?冗談にしては全く笑えないぞ!!」


雄斗は半分は心配。半分は怒りの感情を抱き、那々美に問いかける。だが、那々美は何も答えない。

様子がおかしい。そう思いながらも真相はつかめない。

那々美は滅多なことでは泣かない。それが、こんなにも涙を流して……


「なんでも……ない……よ?心配……しな……いで?だい……じょうぶ……だから……」


何かに脅えるように、恐れているように、被っている毛布をさらに深くかぶる。

声も震えており、天真爛漫が似合う那々美とは正反対だ。

おかしい。おかしすぎる。何かがあったに違いない。


「何があったんだ?悩みがあるなら聞くぞ?今日は夜まで時間もある。な?

だからよ、ゆっくりと話をしよう。そんな布団なんて外して……」


ゆっくりと那々美に近づき手を差し伸べる雄斗。その顔はとても優しく微笑んでいた。

那々美も最初は安心したようで、雄斗の手を取ろうとしたのだが、手を引っ込めてしまう。

その顔は、安心した顔ではなく……恐怖で歪んでいた。

雄斗はそんな反応を見て、姿勢を低くして那々美の頭に手を置こうとしたときだった。


「いや……いやぁぁっぁぁぁ!!」


大きな音を立てて思い切り払われたのは……今まさに頭を撫でようとしていた雄斗の手だった。

その瞬間、那々美の被っていた布団が取り払われ、その全貌が雄斗の目の前に映し出される。

いつも通りの髪の毛に色。そして小さな手に体。何の変りもない。那々美そのものだった。

なのに……振り払われる兄の手。こんな事が、今まであっただろうか?


「あぁあ……いやいやいやいや!!来ないでよぉ!見ないでよぉ!!」


「那々美!?」


激しい拒絶。


「怖いよぉ……嫌だよぉ……助けてよぉ!!」


求める救い。


泣きじゃくり、脅え、ただひたすらに叫び続ける小さな小さな少女。

そんな少女を静かにゆっくりと抱き締める黒衣の青年。その青年。雄斗は泣いていた。

次第に強まっていく腕の力。少女は驚き、苦しそうにしている。

青年は体全体を震わせて、声をあげて泣いていた。


「お兄……?何で、泣くの?」


「当たり前だろうが!!」


戸惑いながら問いかける那々美の顔に自分の顔を近づけて言い放った。


「自分のせいで泣いてるかもしれない大切な妹を前にして!泣かない兄貴がいるか!!」


雄斗の眼は真剣そのものだった。目の前でなく少女。その少女は自分の妹。

知らぬ人間ではない。それどころか、自分の最も大切な……護りたい人間。

悔しかった。こんなになるまで、何もしてやれなかった自分が、憎かった。


「お兄……お兄ぃ……お兄ぃぃぃぃぃぃ!」


「大丈夫。俺はお前のそばに居るから。今は何も言わなくていい。ただ、泣かないでくれないか?」


ただ、泣かないでほしい。


笑顔を失くした俺の代わりに、笑っていてほしいんだ。


それがたとえ、残り1ヶ月程度だとしても。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……すぅ……すぅ」


「あぁ~あ。泣くだけ泣いたら寝るとか……ガキかよ……まったく」


あの後、数十分大泣きした後疲れてしまったのか今はすやすやと眠ってしまった。

寝息までたてて、まったく……先ほどまでの騒ぎなど忘れてしまいそうだ。

……一番子供なのは、俺か。


「家の中も何とかしなきゃいけないが、こいつも何とかしなければいけないみたいだな」


雄斗は那々美を自室のベッドに寝かせ、身を翻して自宅を後にする。

向かう先は、新都中央病院。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



いつも通りの待合室。いつも通りの廊下。そして、病室。


「あ、兄様じゃないですか!来てくれたんですね!!嬉しいです!」


「あぁ……まぁな。最近来れなくてごめんな」


龍ヶ崎聖奈の病室。ここ最近は全くこれていなかった。だが、聖奈は本当にうれしそうだった。

少しだけ、自分が情けなく感じる。どれだけ弱い人間なんだ。俺は……。


「兄さん!え~と、え~とですね一杯お話したい事があって、聞きたいお話があって、それから……」


眼を輝かせながらマシンガンのように話を始める聖奈。病人とは思えない元気さだ。

雄斗自身もその勢いに負けて、たじろいでいる。その顔の距離は髪の毛一本程度しかない。


「えと、後はですね……」


「ま、待て待て落ち着くんだ!出来れば要点をまとめてから話してくれ!!」


聖奈の肩を両の手で強く掴み、顔を自分の顔から少しでも遠ざけようとする雄斗。

その顔には珍しく焦り。それも赤面しての焦りが見える。

その顔が完全に、『笑っている』という表情ではなかったが、とても嬉しそうだった。


「うぅ……良いじゃないですかぁ、最近会えても無かったんですから~。兄様ぁ~」


雄斗は迫る聖奈の顔を片手で止めるが、聖奈はその手を雄斗に伸ばしたままジタバタさせている。


まるで甘えん坊だ。いつも落ち着いていて、冷静な聖奈とは思えない行動だ。

それだけ甘えたくて、それだけ寂しかったという事なのだろう。

こんな駄目な兄でも、出来のいい妹からは慕われていて頼られている。

少しばかり、嬉しいものだ。


「分かった分かった。何でもしてやるから落ち着けって」


「え!?本当ですか?やったぁ!!」


「はぁ……全く……」


可愛い妹を2人も持つと、大変だが……その存在が空っぽの俺に生きる意味を与えてくれる。


「何だか、吹っ切れちまったよ。ありがとうな。聖奈」


迷っている俺を、まっすぐ進ませてくれる。


「え?何のことですか?」


だから……絶対に聖奈は助ける。この俺の、呪われた力のせいで侵してしまった体。

過度の魔力を吸収、または傷をつけられると、その部分から体全体に魔法力が染み渡っていき……。

体が次第に動かなくなり、無理に動かそうとすると激痛を伴う。魔法も使えなくなる。

それが、聖奈のかかっている病。『魔瘴風(ましょうふう)

俺の、大量の魔法の力を……破片だけとはいえ体に受けてしまった。

それなのに何故……俺のことを何も責めずに笑って『兄』と呼んでくれるのだろうか?


「ごめん……聖奈。お前が動けなくなったのは全部俺が悪いのに」


「兄様……それは言わない約束じゃないですか。悲しいです。だって兄様は、私の光なんですから」


「光……か。なら、今日の試合も頑張らなきゃいけないな。お前の為に」


聖奈は少し顔を赤らめながら言った、今にも病という闇にかき消されてしまいそうなほど小さい声で。

でも、聞き逃してなどいない。『大好き』という……あまりにありふれている言葉であったとしても。

今の俺にとっては。何よりも強い言葉だ。

……だが光が強くなりすぎてはならない。闇がなければならない。

闇を担うのは……兄であり、罪である俺の役目だ。それで心配はない。


光は闇を生む。故に闇は光を支える。光があるためにはそれを誰かが担う。


だから俺がいる。家族の笑顔も、輝きも、命の灯も、全て光だ。それだけでいい。

それ以外はいらない。必要無い。


「兄様こそ、何故私をかばってくれるんですか?私はただのお荷物なのですよ?

動く事も出来ないこんな私を……雄斗様は護ってくれる。何故??」


不意に解き放たれた質問。兄ではなく『俺』に投げかけた問い。

だが、なんて事はない。決まっている事だ。


「それは」


「お前が……俺にとって一番大切な人だから……家族だから……だ」


「……はい!!」


楽しいひと時は、あっという間に過ぎた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「それじゃあ行くな。すぐ帰ってくるから。そん時はまた、笑顔で迎えてくれ」


「はい!兄様、頑張ってくださいね!」


雄斗は少し微笑み、聖奈の額にキスをして病院を後にした。

決意を胸に秘め……



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「さぁ!!いよいよ注目のクラスリーグマッチ準決勝戦が開始いたします!!」


準決勝戦、第1試合が始まる。聖太・咲夜VS神流・千次の戦いが。

もちろん聖太たちが勝つと信じているが、あの言葉が頭から離れない。神流のあの言葉。


『決勝戦で待ってます』


それだけの自信があるのだろう。想像も出来ないほどの魔力が。

……今は考えるだけ無駄な事だ。目の前の敵を倒すのが俺の今の役目なのだから。


「いよいよだね……雄斗。僕の銃達も準備は万端!負けないよ!!」


「そうか……そいつは頼もしいな」


そうだな……この試合が終わったら、たまには頭くらい撫でてやるか。

何だかんだで世話になってるし、色々と……してやるってのも、悪くない……。


「あ、雄斗が笑った!」


「え?そうか?……そうかもな」


俺は今……笑っているのか……?いいや、そんな事はない。あり得ないのだから。

何故ならば、あの日、俺は自分自身に呪いをかけたからだ。もう二度と笑えなくなるように……と。

でも、俺は戦う。仲間のため、自分のため、そして何より……家族の為に……。


「俺を見ててくれ。兄さん」


第19魔法~決意~END

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