第15魔法~ガール・ミーツ・ガール~
どうも!こんにちは!ローズです!
「荒野を駆ける風」共々、これからも頑張っていくので、どうか見てみてください!
そろそろ本気で修正をしようと思います!!
後、今回は少し長めです
第15魔法~ガール・ミーツ・ガール~
待機室に急いで戻ると、静かにエレノアをベンチにおろす。
息はあるが、傷は浅くない。呼吸は荒く、油断した瞬間…死んでしまう可能性もある。
しかし、あるのは包帯やら止血剤やら、応急処置程度の道具しか無い。
苦しそうな顔をしているエレノアをただじっと見つめると、居てもたっても居られなくなった。
とにかく、まずは応急処置。止血剤を飲ませ、包帯で出血を止める。
護りたい。ただその思いだけが雄斗を突き動かす。
自分の両手を顔の前に出す。その眼はどこか悲しそうで、迷いが見える。
そして、徐々にその手は震えだす。その震えは次第に大きくなり、額からは大粒の汗が流れ出す。
やがて手の震えは体全体に行きわたり、体全体がガタガタ震える。
不安に押しつぶされそうに、額から汗が噴き出し、息も荒くなる。
「はぁ…!はぁ…!はぁ…!はぁ…はぁ…!!」
肩を上下に激しく動かして呼吸する雄斗。
やがて立つ事も出来なくなり、壁にもたれながら地面に弱々しく座り込む。
「この手が…この手が…殺した…龍音を、聖奈を…!数多くの人を!!」
この手が、この手が!殺した。大切なものを壊した。龍音を…殺した!!
殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した殺した
コロシタ殺したコロシタコロシタコロシタ!!
リュウナヲ…コロシタ―――――――――――――――――――――――――――――!!!!
「うわあああああああぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」
頭を抱えながら絶叫する雄斗。
雄斗はその場に倒れこんでしまった。止まらぬ苦しみ。忘れられぬ過去。
雄斗に重くのしかかる〝家族〟〝大切な人〟そう、護れなかったモノだ。
もう失いたくない。だが…雄斗のこの願いは…叶う事のない…儚い夢になるかもしれない。
「ゆーと…どうしたの?」
突然聞こえてきた声に、雄斗はガバッと頭をあげた。そこに立っていたのは…レイラ。
眼は僅かに紅みを帯びており、扉の向こうで心配そうに雄斗を覗き込んでいる。
雄斗がレイラを見つめると、ビクッと身を震わせて扉の向こうに隠れてしまった。
それほど今の雄斗は必死で、物凄い形相をしているのだ。
「レイラ?レイラなのか!?すまない、怖かったよな?もう大丈夫だから…こっちに来てくれ」
少し落ち着きを取り戻した雄斗。いつも通り、優しくレイラに呼びかける。
そんな雄斗の声を聞き、レイラもホッとしたようで雄斗の所にフラフラと歩み寄っていく。
「ゆーと…この人は…どうしたの?」
ベンチの上に寝ているエレノアを指さして、レイラが訪ねてくる。
色々と雄斗も聞きたいことがありそうな顔をしていたが、急に思い詰めたような顔になる。
「レイラ…こいつは俺の大切なパートナー、仲間なんだ。さっきの試合でケガをした。
だが…俺にはどうしようも出来ない…助けてくれないか!?頼む…こいつを助けてくれ…。
こいつは悪くねぇんだ。悪いのはみんな俺なんだ。呪われるのも俺だけでいいんだ。
だから…助けてくれ…」
みっともねぇな。だけど…俺はもう何も失いたくないんだ。
こいつは俺を護る為に…死さえも覚悟していたんだ…なのに何もしないなんて…耐えられない。
「うん、良いよ。でも…血、飲ませて…」
「あぁ…問題ない。頼む…」
そう雄斗が言った途端、レイラの両手からぼうっと青い光が現れる。
回復魔法の基礎のまた基礎。〝接触治癒〟だ。
両手から花の妖精の力を借りて細胞などを回復、再生させる魔法だ。
そのときに現れる青い光は、花の妖精の好きな花の色…らしい。
そんな事を考えていると、急に視界がぼやけはじめた。
(う…何だ?急に視界が…ぼやけ…始めた?あぁ…力を…使いすぎたの…か)
次第に大きくなる歪み。それはやがて、雄斗を闇の世界に引きずり込んでいく。
エレノアの安否も確認できないまま、雄斗はその場に力なく倒れこむ。
その顔は消して安らいでいるとは言えず、苦しそうに…顔を歪めていた。
「ゆーと、終わったよ。あれ?ゆーと?ゆーとってば」
レイラは雄斗の体を揺さぶり起こそうとするが、雄斗は起きない。
何とか血を飲もうとして、いつも飲ませてくれた左手首を必死に舐めるが、血は出ていない。
色々な場所を舐めまわすが、何処からも血は出ていないので何も起こらない。
「ゆーとぉ…血…欲しい…はやくぅ…はやく飲ませてよぉ…」
次第に顔が紅く染まっていくレイラの頬。苦しそうに胸をおさえて懇願する。
その吐息は段々と荒くなっていき、眼も虚ろになっていった。
「…嘘つき…ゆーとの…嘘つき!くれるって、言ったのに。言ったのに!
嘘つき!大嫌い!ゆーとなんか…大っ嫌い!!」
「…………わりぃ…………気ぃ失っちまってた…………これで…許してくれ…………」
もはや限界の状態だが、何とか口を開けた。
泣きじゃくるレイラの頬にそっと手を添えて、左腕の手首を少しだけ切る。
そこからは紅い鮮血が溢れ出し、腕を伝ってその血が地面にたれていくのが分かる。
今にも途切れそうな意識の中で、レイラが俺に浴びせた罵声で、眼が覚めた。
約束を破るのと、女の子を泣かすのは…大の苦手だから…………な。
「…ごめんね、ゆーと。やっぱり…大好き!ゆーと大好き!大大大好き!!」
満面の笑みを浮かべて抱きついてくるレイラを見て、思わず微笑んでしまう。
顔が少しにやけた程度だが、これが俺にとっての今できる最高の〝笑顔〟だ。
何故なら…俺は…………。
と、そこまで考えた所で…気を失ってしまった。
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「ぐ…ぐぐぐ…あれ?ここは…桜の木の下…か?何で…こんなところに…。
って、レイラ。こんな所で寝るんじゃ無い!はぁ…起きる気配すら見せてくれねぇ…」
何とも見事な事に、桜の木にもたれ掛かってる俺の体に、上から乗りかかっているような状態。
両の手を俺の胸に置き、その間に頭をうずめていて、何とも可愛い。
吸血鬼、こいつの正体を聞いてからずっと考えていた。
吸血鬼。人狼などと違って、人を殺すようなことはあまり無いらしいが、一つの問題がある。
吸血衝動。吸血鬼は、定期的に人の血や動物の血を飲んで補給しなければならない。
しかし、捕食衝動と違って暴走はしない。だが、やはり共生は難しい。
だからと言ってこいつを今更手放す気はない。こいつがなんだろうと、関係ないからだ。
こいつは雨之狭霧であり、レイラでもある。血が欲しいならいくらでもくれてやる。
ただ、そんな事を思いながら、レイラの頭をそっと撫でてやる。
「まぁ、あのワガママ貧乳ロリの吸血女よりは数十倍可愛いから良いけどな」
「何か言った?シスコン剣術バカの不良男」
木の後ろ側から聞こえてきた声に一瞬驚いてしまったが、この声の主は、アイカだ。
取り敢えず二度と血は吸われたくないので、レイラを抱えたまま木陰を出る。
「ちょっと、なに木陰からでてんのよ。誰が出て良いなんて言ったの?早く戻りなさいよ。
アタシの命令は絶対なのよ。さっさとしなさい」
こういう所が苦手なんだよ…何だこの絵にかいたようなワガママお嬢様は。
こんな奴の執事にだけはなりたくない。鈴姉なら大歓迎。
取り敢えず…少しからかうか。
「ははぁ~ん?お前、日向に出れないんだろ?吸血鬼だもんなぁ~分かった分かった。
悔しかったら来てみやがれってんだ。貧乳」
「何ですってぇ~!?誰が貧乳よ!!それに、怖くなんか無いんだからね!日向に位出れるわよ!」
お、挑発に乗ったな。こいつおもしれぇ。
まぁ少しの間、相手してやるか。なんか面白いし。
しかし、アイカは一向に日陰から出てこようとしない。
足を出そうとしても、一歩が出せない。たった一歩。踏み出すことが出来ない。
「…………ええい!面倒くせぇ!!さっさと出てきやがれ!」
「えぇ!?ちょ、ちょっと!腕を引っ張ると…!」
雄斗はアイカの腕を力いっぱい引きよせ、日向に引きずり出した。
アイカはまるでこの世の終わりのような顔をして、雄斗に抱きついた。
「う…あぁ…早く…日陰に…死んじゃう……死んじゃうよ…」
「はぁ?何で日向に出たくらいで死ぬんだよ?騙されねぇからな。前は血を飲まれたからな。
お返しだお返し。しばらく反省す――――――――――――」
一瞬で雄斗の顔が強張った。
アイカの体が…徐々に溶けはじめていた。
灰になるわけでもなく、死ぬわけでもなく、消える訳でもなく、〝溶けていた〟
ドロドロと体全体が、まるで氷のようにポタポタと水滴になって地面に落ちる。
それと一緒に地面に落ちる水滴。涙だった。
「ゆる…して…もう…しないから…だから…お願い…イタズラ…しないから…」
涙を流しながら、雄斗の顔を見上げるアイカ。
雄斗はギリッと歯に力を入れて、アイカとレイラを木陰に飛ぶように走って入れた。
何て事だ…くそっ!バカ野郎が!何でこんな事をしてしまったんだ!大バカ野郎!
『知らなかった』なんて言い訳が通る問題じゃ無い!ちくしょう!ちくしょう!!
何で、目の前で人が溶けていく?何でそんな状況で…こいつは笑っていられる!?
「ごめんなさい…もうしません…だから…許してください…溶けたく…無い…」
「意識を確かに持て!今助けてやる!でも…どうしたら…良いんだ!?分からねぇよ!
…そうだ!血だ!血を飲め!それでいいだろ!?」
もう一刻の猶予も無い。腕・脚・顔。いたる所が溶けはじめている。
「でも、血…良いの?アンタの…物でしょ?私なんかの為に…」
「黙りやがれ!テメェはワガママで自分勝手で強気なんだよ!そうしてればいい!
だから、死ぬまで飲んだって構いやしねぇよ!だから、笑っていやがれ!!」
「……必死になって…バカみたい。でも…嬉しい…」
首筋に一閃の痛みが来た後、そのまま意識を失くした。
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少しずつ、視界が開けていく。眼に入るのは…白い天井…あぁ…保健室だ。
あの後…きっと血の吸われ過ぎで倒れたんだな。その証拠に…頭が痛い。貧血かな。
全く…人気のない場所だな。だからこそ皆ここで不埒な行為に出るのか。納得。
心なしか…俺の下半身にも何かが乗っかってるような感覚がする。何だ?
「あ、起きた。ずいぶんとお寝坊さんなんだねぇ~。寝顔、可愛かったよぉ~」
その声と顔で直ぐに分かってしまったようで、ため息をつく雄斗。
その顔は異常に近く、あともう一歩でくっついてしまうほどだった。
馬乗り状態で雄斗に乗っかっていた桜花は、いつも通りの笑顔を雄斗に見せる。
「顔が近い」
「うん、知ってるよぉ」
尻尾を振りながら満面の笑みで答える桜花。……そんなに嬉しいのだろうか?
「えと…そんなに嬉しいか?」
つい口に出てしまう言葉。どうしても気になってしまったようだ。
「うん。前もこうやってしてたしねぇ。あの時の茶色い狼。私だって気付いてるぅ?」
あぁ…そう言えばそんな事があった。完全に忘れてた。
取り敢えず…体が思うように動かない…手が動かなければ足も動かない。
まだ意識もしっかりとはしてないし…少しぼやける…。
「とりあえず、起きてくれて良かった。じゃあ、これで今日は帰るねぇ~。
ねむねむ~。また明日来るからねぇ~」
少し眠そうに、しかしどこか元気そうに言ってきた。
眠いって自分で言う位ならはやく寝ればいいのに…と、思ったが口には出さない。
「おい、桜花」
「ん?なぁにぃ~?」
「一応礼を言っておく。ありがとな」
雄斗は顔を真っ赤にし、顔を少し背けながらも、確かにそう言った。
桜花は屈託のない笑顔を浮かべて、笑いながら保健室を走って出て行った。
そんな反応に、更に顔を赤らめる雄斗。
しばらく呆然と空を見上げる。が、ふらふらと立ち上がると、隣のベッドへと向かう。
寝ていたのは、エレノア。安らかな顔をして、眠っている。
と言っても、死んでるわけでは無い。しっかりと、生きている。
「全く…心配掛けやがって…さてと、取り敢えず起きるまでここに居るとするか…」
エレノアの頭を少しだけ撫でると、近くの椅子に座りこみ、そのまま眠りについた。
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やがて時間は過ぎて行き、夕暮れ時。雄斗は眼を覚ました。
まだ少しぼやける視界。それを直そうと眼を擦る。が、やはり中々治らない。
エレノアは…居ない?
「なっ!?居ねぇだと!?まさか…誰かにさらわれたか?それとも…出て行った?くそっ!」
眠いとか視界がぼやけるとか言ってる場合じゃ無い。
いくら他人には無関心とはいえ、こんな状況を放っておくほど冷徹じゃねぇつもりだ。
力の使いどころはわきまえてる。しかし…どこに行ったんだ!
「雄斗ってさ、抜け目が無さそうで抜けてる部分ってあるよね、たまに」
後ろから聞こえる少し呆れたような声。間違いない。この声は!
「エレノア!何だよ…無事だったのかよ…下手に心配掛けさせんなよ。バカ野郎」
完全なる悪口。だがその言葉の中には憎悪や憎しみは無く、安堵感や優しさがあった。
正直…エレノアが居ないってだけで…物凄く焦ってしまった。恥ずかしい限りだ。
「もう大丈夫のようだな…なら…すまないが話がある。お前の…体の事についてだ」
「え…えぇ!?なな…何の事かな?急に」
眼に見えるほどのあからさまな動揺…やはり…か…
「お前…女だろ?」
「うえ!?…どうして…僕が?僕は男だよ?変だよ?雄斗」
「……試合の時…触ったが…何か柔らかい感じがした。それ以上に証拠はない」
全て本当の事だ。確かな証拠なんてない。あの時はただ単にテンパッてただけかもしれない。
しかし…確かに柔らかかった。というか男にしてはおかしい感触がしたんだ。
俺は真実が知りたい。どうしても…パートナーとして。
「ううん!違うよ!僕は…男…だよ?」
少し、弱々しかったが、確かにそう言った。
「そうか…ならばいい。勝手な勘違いをしてすまなかった。ただ、これだけは言っておきたい」
一呼吸置き、俺はこう言った。
「どんなお前でも、俺はお前を信じる」
心からの言葉。嘘も、偽りも混ぜたつもりはない。
冗談を言うのはあまり好きじゃ無い。それは、信用されるためにだ。
冗談でも嘘は嘘。だから、誰になんと言われようと変えるつもりはない。俺は俺だからだ。
他人と接触するのは好きじゃ無い。それどころか大嫌いだ。
「あ…うぅ…」
でも、もうそんな事を言ってる場合じゃ無い。そう思うんだ。
俺は…不良さ。褒められたようなことをした覚えなんか無いからな。
でも、だからこそ護りたいんだ。誰にも出来ない汚れ役を被ってでも俺は戦う。
誰のためでもない。それは結局俺の自己満足の為かも知れない。
「…………えーと…なんと言うか…あうぅ…」
それでも良い。笑ってくれるなら。大切な人たちが…笑ってくれるなら、それで良い。
俺がどうなろうと構いやしない。俺は剣で良い。何かを護るための剣。剣に感情なんかいらない。
ただ…少しだけでも…笑えたなら…それで良いんだ。
皆が必要とするまで戦う。もし、必要でないなら捨てられる。
だけど…今はこれで良い。幸せなんだ…一応……な。
「雄斗、どんな僕でも…信じてくれるって…言ったよね?嘘じゃ…ないよね?」
「あぁ。約束する。お前だって、こんな俺を信じてくれたじゃないか。
もし信じてくれていなかったら、あの時俺を助けてはくれなかっただろ?違うか?」
ちなみに俺が言っているのは、俺が血の落とし穴にはまっていたときの話だ。
あの時、エレノアが動いていたなら、俺は死んでいた。
それを体を張って護ってくれたのだ、勝手な勘違いなら恥ずかしいんだけどな。
「うん…じゃあ…言うよ…えと、僕ね…その、実は……女の子……なんだ…」
「…そうか!やっと言ってくれたな!まぁ良いじゃないか、俺もそんなもんなんだし」
顔を少しだけ緩めるエレノア。それにつられて雄斗も少し微笑む。
エレノアは自分の胸に巻いていたサラシみたいなものを取った。すると…
「ほう…」
「あ…あんまり見ないで…恥ずかしいから…」
何とも…まぁ立派な胸が現れる。ちょうどいい大きさ…だな。
このままでは不公平だな…さて、じゃあ俺も…。
呪文を唱え、元の姿に戻る雄斗。
長くたなびく白い髪、大きめな胸のふくらみ。町を歩けばだれもが振り向くだろう。
「男の子と男の子だったはずが…女の子と女の子。何だか…変だね、僕たちって」
「良いじゃないか。少なくとも、俺は一応元は男だからな。勘違いをするなよ?」
「あははは…そうだね、じゃあ!改めてよろしく、雄斗」
「あぁ、よろしくな。エレノア」
この日初めて、少女は…少女に出会った…
第15魔法~ガール・ミーツ・ガール~END
しばらくしたら、ここには次回予告が載ります