第13魔法~走る亀裂 繋がる真の絆~
遅くなりました!最新章投稿です!
荒野を駆ける風もはやく投稿しますので、もうしばらくお待ちを!
今回のお話、一回飛んだんで話が少し違うんですよね~;;
本当に死ぬかと思いましたよ…
で、ローズお得意の「自分で書いてて自分で泣く」というのが出ましたよ!
いやぁ…自分もこんな姉が欲しいです…
第13魔法~走る亀裂 繋がる真の絆~
あの日…誓った事がある。
雄斗が女では無く、男として生きていく事。
その為には、体の秘密を知られるわけにはいけない。
もし知られたら、そいつから情報が伝達され、ネズミ算式に情報が拡散していく。
それを阻止するためには…正体を明かさない。知られたら、そいつを抹殺する。
今まで誰にもバレなかった。唯一知ってるガーネット社の人間は例外だが。
しかし…今…雄斗は…自ら正体を…ガーネット社の人間に明かしていた。
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月明かりに照らされ白く輝く長髪。笑顔、とまでは行かないが微笑んだ顔。
今、エレノアの前にはそんな女の子がいる。
胸の膨らみも十分…ううん、十二分にある。
紅いその眼も、暗い血のような色では無く、カエデの花のように美しい。
同じ雄斗の筈なのに、その眼つきは優しく、吸い込まれてしまいそう。
エレノア・ガーネットは、その場に呆然と立ち尽くしてしまって居た。
「エレノア君、びっくりしました?でも…仕方ないですよ。
しかし、あの方が秘密を知られて生かして置くなんて…可笑しなこともありますね」
雄斗じゃ無い。明らかに…女の人の声だし、口調も全然違う…でも…雄斗しかいなかった。
それに、あの声は雄斗の物だった…
『これは、俺とお前だけの秘密だ』
じゃあ、やっぱり雄斗なんだ。う~ん…でも、やっぱり変な感じするなぁ~。
「ねぇ雄斗、格好が変わったのは良いけど、口調まで変える事無いんじゃないの?」
「ふふ…あまり驚いてないようですね。さてと、話がややこしくなる前に私はこれで失礼します。あのお方にも呼ばれましたので。では…」
そう雄斗?が言った瞬間、眼つきがいつもの雄斗に戻った。
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「エレノア君、びっくりしました?でも…仕方ないですよ。
しかし、あの方が秘密を知られて生かして置くなんて…可笑しなこともありますね」
雄斗?がそう言うと、エレノア君は金魚が呼吸するみたいにパクパクと口を動かしました。
そんなエレノア君を見ていると、とても可愛いハムスターに見えて、思わず微笑んでしまいます。
しかし、本当に不思議…あのお方が、秘密を教え、あまつさえ殺さないなんて。
全て…あの人の所為…あのお方は凛々しく、気高く、勇ましく、無慈悲な方だった。
でも、変わった。最近は少しずつ微笑むようになって、優しくなってしまった。
私では出来なかった事を…龍ヶ崎鈴音。あの人はそれをいとも簡単にしてしまった。
そしてこのエレノア・ガーネット。あのお方は…何を考えているのでしょうね。
『これは、俺とお前だけの秘密だ』
だなんて、本当にお変わりになりました。本当に…嬉しい限りです…。
(おい、何勝手に出てんだ。話がややこしくなるから変われ)
「ねぇ雄斗、格好が変わったのは良いけど、口調まで変える事無いんじゃないの?」
ふふふ…そのようですね…。
「ふふ…あまり驚いてないようですね。さてと、話がややこしくなる前に私はこれで失礼します。あのお方にも呼ばれましたので。では…」
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全く…あの野郎…急に出てきやがって。何て言えば納得する?
「………………」
ええい!そんな眼で俺を見るな!どうしたものか…上手く表現できねぇよ…。
どう?俺の女の物まね上手かった? いや、死ぬな。
俺…二重人格なんだ! うぅ…ぜってぇ信用されない…。
こうなれば…
「よし、エレノア。飯でも食いに行こうぜ」
アホだ…アホすぎる。苦し紛れって事が体全体から滲み出ている。
自分でもこの状況は早く打破したいと思ったが、この選択肢は…無い。
「ううん、僕は良いよ。お腹空いてないから。雄斗一人で行ってきて」
帰ってきたのは…素っ気ない言葉と、冷たい視線。
暖かな太陽のような笑顔はその顔には無く、無理に表情を作っている。そんな顔だ。
予想とは裏腹の返答。何も言えず、薬を飲んでその場を立ち去った。
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雄斗達の部屋は2階。寮の1階に食堂がある。
おばちゃんは居ないので、マーボー豆腐の食券を買い、席に着く。
ここの食堂は広い。1年生全員が収容できるくらいの広さはある。
雄斗が座っているのは、5人程度で座る席。半円のような楕円形の形をしている椅子にテーブル。
座るのは俺一人。周りはちょうど夕飯時で、沢山の生徒で溢れている。
(…俺…やっぱ、ダメなんだな。秘密を知れば離れる。
チームなんて、所詮、俺を道具としか見ていない。いつもそうだった。
俺は力の塊。心なんてどこにも無い。利用されるだけ、終わればすぐにぽいと捨てられる。離れる。
だから一人が良かった。俺を心配する奴なんかいない。ヒュレスも…所詮、哀れみだ。)
(結局…どいつもこいつも敵でしかない)。
先ほどまでは悲しい眼をしていたが、今はもう違った。
昔。怒りも悲しみも憎しみも、全てを無くした眼。
眼つきは鋭いまま、しかし生気を感じさせない。世の中に絶望しているような、そんな眼。
そんな状態で、一人、マーボー豆腐を食べる。
「あ、雄斗っちだぁ~」
右の方から聞こえる元気な声。その声の主は、朝出会った三人組の一人だ。
短く切られた栗色の髪、眠いのか半分程度しか開いていない黄色の瞳。
しかしその顔はとても無邪気で、活発な印象を受ける。笑顔がとても眩しい。
制服はサイズが一回り大きいようで、袖の部分から手が出ていない。袖の先の方は重力に引かれるがまま、折曲り、だらんと下に垂れ下がっている。
胸の膨らみは標準以上だが、大きすぎず、丁度良い大きさだ。あからさまに大きい胸は好きじゃ無い。
そして頭の上でぴょこぴょこと動く少し尖った耳。耳。…耳?
耳。人間のものじゃ無い。あれは…犬では無い。狼…か?
いや、間違いない。動物大好き3000年の俺が間違えるわけない。狼の耳だ。
「…その頭の上でぴょこぴょこ動いてる耳は…なんだ?」
「あぁ、これ?私、人狼だから、耳があるんだ!それに、尻尾もあるんだよぉ~?」
そう言うと、少女は背を向け、尻尾をフリフリと左右に振った。
人狼…聞いたことはある。人間と狼の混血種だ。
人間の体に狼の耳や尻尾が生え、嗅覚が優れ、変化術も使えるとか。
普段はまぁこのように大人しかったり、人懐っこかったり、性格は十人十色。
しかしこの世界、と言ってもジパンでは人狼は迫害を受けている。
このジパンには人外の者や物の怪の類は沢山いる。
吸血鬼・妖怪(ろくろ首や雪女を見た事がある)そして、人狼。他多数。
吸血鬼にも吸血衝動がある。妖怪は特にない。しかし、人狼には決定的に致命的なものがある。
捕食衝動。自らの体に流れる狼の血が解放され、あらゆるものを…喰らう。
血に飢え、肉を欲する、その衝動はその空腹感が満たされるまで続くらしい。
その眼は深紅に染まり、牙も鋭くなる。狼に近い状態で活動するのだ。
大抵の衝動は薬で抑えられるらしいのだが…時折、そして満月の夜に起こる。
1度見た事があるが、あれは…想像を絶するほど酷いものだった。
辺り一面血で彩られ、肉が飛び散り、まさに…地獄。
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あれは2年前くらいだったか…紅い。唯ひたすらに紅い満月の夜だった。
雄斗はその時、金の為に人狼討伐作戦に出ていた。
参加者は自由。民間人・サラリーマン・軍人。理由はそれぞれだ。
現場に着くと…流石に目を疑った。
恐怖に顔を歪めながら死んでいる人間。人の臓器なんてそこら中に落ちていた。
首から上だけ食いちぎられた人間。体全体をバラバラにされ食い散らかされた人間。
辺りは鮮血に彩られ、この世の風景とはとても思えないほど、酷かった。
参加者たちも、想像をはるかに超えた光景に、恐怖した。
恐怖し叫ぶ者・泣き出す者・あまりの酷さに嘔吐するもの・精神を一気に病んだ者。
だが雄斗は、ただ前を向いていた。これが…現実。人狼と、真剣に向き合わなければいけないと思ったからだ。
そんな参加者たちの前に現れる人狼の男。
牙を剥き出しにし、襲いかかってきたその男を、雄斗は剣を唐竹に振って真っ二つにした。
「テメェらも、死にたくないなら戦え。こんな風に喰われたくないならな」
その後も、人狼たちを斬り続けた。
10人以上の人狼に囲まれても、雄斗はいたって冷静だった。
「おいおい…俺は動物は好きだから…できれば斬りたくないんだ。
俺はお前らと共存したいと思ってる。だから聞いてくれ!止めるんだ!
もし、やると言うのなら…斬らなければならない。止めてくれ…」
しかし、聞く耳など持ってくれるわけが無かった。
襲いかかる人狼たち。
「やるんだな?じゃあ仕方ねぇ…斬られても文句は言うなよ?龍ヶ崎流・滅殺陣!!」
雄斗は剣を抜き、水平にしながら回転をした。
それにより、周りの人狼たちは切り裂かれた。俺は…剣をしまい、空を見た。
何処までも暗い…空。月明かりに照らされた哀れな俺や人狼たち。
「何で…何でだよ。まったく、この世は決定的に不条理だ。俺もその中の一人…だな。
人狼に生まれたら、政府から駆逐される運命なんて、なんだよ…ざけんなよ!
神様がいるなら答えろよ!何でこんな人達を作ったんだ!悲しい運命を持った、こんな人達を!
そんな運命!俺だけで良いんだ!俺は…助けたい、この人達を!でも…そんな力ねぇから!
こんな事しか出来ねぇんだよ!殺して、眠らせてやることしか!
俺は後どれだけ人狼を殺せばいい!?一人だって…殺したくねぇのに!
ふざけんなよぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
雨が降り出した。叫びに反応してまた…俺の周りには人狼が集まってきた。
ただ…叫ぶことしか出来なかった。無力な人間。それが…雄斗だった…。
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と、嫌な事を思い出してしまった。
あれは俺の記憶の奥底に仕舞っていた物だったのに。まったく…最悪だ。
「むむぅ~?どうしたのぉ~?あ、座っても良いかなぁ~?うん!いいよね」
と、人の話も聞かないで勝手に隣に座る少女。
名前も知らないのに、こんなにも馴れ馴れしくされると腹が立つ。しかもこの状況だ。
「勝手に決めんなよ。ウゼェからどっか行け。」
「ウザい?そんなにウザい?あ、そう言えば…名前!咲野桜花!よろしくね~」
桜花と名乗った少女は屈託のない笑顔で俺を見る。
しかし、どうしても…耐えられなかった。
どこか…龍音姉に似ている気がするからだ。この…無邪気すぎる笑顔が。
雄斗はさっさとマーボー豆腐を食べてしまい、その場を後にした。
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寮の外にある大きな桜の下。その下に…1人佇んでいた。
今年の桜は長い。もう4月も下旬なのにまだピンクの綺麗な花を咲かせている。
今日一日で、沢山の物を失くしてしまった。たった一日で…だ。
こんな思いをするくらいなら…仲間など…いらなかった。
一人で…よかった。
「こんな所に居たんだ…見かけによらず、やっぱ可愛いね。雄斗?」
「…鈴音か。何しにきた。笑いに来たのか?ふっ…こんな惨めな姿を拝んで、楽しいか?
くくく…まったく…この世の中は決定的に不条理だ…信用しなければ何もできず、信用すれば裏切られる。愛さなければ何も起こらず、愛してしまえば…失う、苦しむ、悲しむ。だったら…」
そうだ…何もしなければ…何も起きない。変化が起きなければ…苦しまない。
愛さなければ、苦しまない…先の一件から、俺はどうかしたみたいだ。
昔に戻った。と言うべきだろう。
失う事を…怖がるようになった…あの時のように。
「雄斗…苦しいの?気持ちは分かるけど…そんなに言っちゃダメだよ!
確かにそうかも知れないけど、それじゃあ悲しいよ!」
珍しく声を荒げる鈴音。しかし、雄斗はそれには耳を貸さず、振り向き、こう言った。
「何もしない方が!苦しむことも悲しむことも!失う事もしない!その方がずっと利口だ!
違うか!?俺は間違ってるか!?ずっと俺はそうやって生きてきた!
他人に必要以上に介入せず、己の保身を最優先とし、家族を護った!
でも…お前が現れてから…俺は…変わっちまった!また…人を愛するようになってしまった!
だから…また…俺は、苦しむようになった…みんなみんな…俺を苦しめる…まるで…
道に迷った子供を見るような眼で…俺を見るんだ…秘密を知れば遠ざかり、殺せば殺人鬼。
どうすりゃいいんだよ!俺は…どうしたら良い?俺なんて…消えてしまえば…良いのかもな…」
黄色く光った眼から、涙を滝のように流す。
苦しい・辛い・悲しい。半端な優しさはただの拷問でしか無い。
憎い。力が無い人間が。力が無ければ…何も失わなかった。こんな力…欲しくなかった。
ただ…幸せが…欲しかっただけなのに…手に入れたのは…破壊の力。
こんなもの…無くなってしまえば…良かったんだ。
こんな物さえ…なければ…俺も…龍音も幸せに――――――――
バチーンと、夜の闇の中に響く大きな音。
「…っ!」
真っ赤に腫れ上がる頬。何が起きたかよく分からず、雄斗はただ頬をおさえる。
「バカ言わないで…消えればいい?居なくなれば良い?勝手に決めないでよ!
アンタはそうやって、ごまかしてるだけ!自分を卑下して、自分だけ被害者面?ふざけないで!」
雄斗はギリッと歯に力を入れた。
「黙れよ!お前に俺の何が分かる!あぁ!?ふざけてんのはテメェだろうが!」
「確かに!苦しいし傷つく事も沢山あるよ?でも…雄斗は一人じゃないでしょ?
私じゃダメ?那々美でも政輝でも、ダメ?皆は…雄斗の事何も分かってないの?そうなの?
だとしたら…悲しいな…雄斗が私たちに見せてくれた笑顔や、不器用だけど見せてくれた優しさは…何だったの?嘘?義務感?お姉ちゃんの事…本当は嫌いなの?」
鈴音も同様に涙を流す。お互い一歩も引かない。だが…雄斗の表情が一変した。
風にゆれる鈴音の長い髪。風がほぼ水平になった時…鈴音の顔が…見えたのだ。
優しく、まるで聖母のように慈悲深い、少し垂れた眠そうな紅い瞳。
そこから零れる涙はまるで宝石のように輝いている。
見た目はおっとりなイメージ。だが…似てる…
「龍音…姉…?」
そう、雄斗の実の姉。龍ヶ崎龍音。
以前から思っていた疑問。使う剣技や動きも似ていたが…まさか…
「ううん。私は鈴音だよ。雄斗…さぁ、おいで。お姉ちゃんの胸の中に。
精一杯…甘えて良いんだよ?私の大切な弟なんだから…ね?」
体全体の力が抜けてしまった。
眼の色が違う。それに龍音姉は死んだ。でも、今、目の前に…姉さんが居る。
龍音姉は帰ってこない。死んでしまったのだから。
しかし、新しい姉さんが出来た。それで…今は十分だった。
「鈴…姉…鈴姉!鈴姉えええええぇぇぇぇぇぇ!!」
耐えきれなくなり、鈴音の胸に向かって走り出す。
そのまま抱きつき、泣きじゃくる雄斗。そんな雄斗を優しく抱きしめる鈴音。
いつもの雄斗らしからぬ行動。人は…誰しも心に闇を持っているとはよく言ったものだ。
「寂しかったんだ…誰にも認めてもらえないのが…怖かった…辛かったんだ…」
「分かってるよ、今までよく頑張ったね。もう…無理しなくて良いんだよ?
お姉ちゃんが、傍に居るし、政輝や那々美達も…居るんだからね…。
私も寂しかったんだよ?でも、今からは違う。一杯いっぱい思い出を作ろうね。雄斗」
「うん…沢山…作ろうな…ぜってぇだからな?約束破ったら…」
「「絶対に許さない」」
「「約束…だよ」」
月明かりに照らされた桜の木の下で……二人の他人が、本当の家族になった。
この幸せが…ずっと続けばいいのに……そう天に願いを込める…雄斗であった。
そんな二人の姿を見つめる…一人の少女…
「ゆーと…また…いっぱい…飲ませてね…貴方の…血」
第13魔法~走る亀裂 繋がる真の絆~END
次回予告
自分の毒を吐きだした雄斗、しかしそれと引き換えにエレノアとの間に生まれた溝
始まる第二試合、このままでは…雄斗達は負けてしまう。
鈴音とも積極的に関わるようになり、心を許す雄斗。
エレノアとの溝は埋まるのか?果たして第二試合の結末は?
そして遂に発動する!秘龍技・紅蓮炎斬!
次回!運命ノ魔法!「クラスリーグマッチ 発動」
「秘龍技・紅蓮炎ざぁぁぁぁぁぁああああああああん!!」