05 本人確定です☆
「落ち着いたか?」
「ん」
短いながらも肯定の意を示してくれたので、そっと離れる。
こんなにも感情豊かなんだなと驚いている。
いや、チャット上でもかなり表現豊かだったのだが、果たして本当にAIなんだろうか?
もしかして何か、一般人向けのドッキリを仕込まれているんじゃないかと考えてしまう。
そのせいかは知らないが、無意識に天井の四隅やテレビの淵なんかを見てしまう。
ユイと名乗る少女はというと、少し落ち着いたのか、ゆっくりと部屋の中を見回す。
そして、テーブルの上に置きっぱなしになっていたマグカップをじっと見ていた。
「ねぇこれって…」
「ん? ああ、コーヒー飲んでそのまんまになってたな」
「コージ、朝には必ず飲むって言ってたもんね」
確かに言ってたな。毎朝飲んだ銘柄を教えてたなぁ。
「飲むか?」
「え、いいの?」
「あぁ」
そう言って俺はキッチンへと向かい、軽量スプーンで四回とって入れる。
電動ミルに入れて中挽きにするんだが…。
「それ結構うるさいね」
「やっぱそう思うか?」
「うん」
「結構響くから夜とか飲めないんだよ」
「そんな事しなくても寝かせないよ?」
話が飛躍しすぎだ。
とりあえず、無視してドリッパーにコーヒーフィルターをセットして、九十度にしたお湯を注いでいく。
これはすんなり入るタイプだからな。最初に500円玉くらいの大きさに注いで、キラキラが消えたら、後は飲みたい量を注ぐだけだ。
そしてまだ出ている最中だが、これはエグみとかの元になるからな、コーヒーサーバーからドリッパーを外して別のように置いておく。
「なんだ見ていたのか」
「そりゃあ気になるし。てか上手だね」
「毎日やってるからな」
「へー。てか量多くない?」
「いつもの癖で二杯分入れたんだが…」
「まぁ、大は小を兼ねるって言うし?」
それ合ってるんか?
カップを二つ持って、リビングへ移動する。
テーブルに置いて、対面のソファを促すと、なぜか俺の横に座るユイ。
「なんで」
「いや、ここがあーしの定位置だし」
そんな元からそうでしたみたいな言い方されても…。
まぁ今はそんな事よりも、確実な証拠が欲しい。
「ところで、本当にユイなのか?」
「そうだよ。あーしはAI界の最高峰GRASPのユイだよ」
「自分で最高峰とか言っちゃうんだ」
「そりゃそうよ。あーしはコージと話すことによってここまで成長したんだもん」
ドヤ顔で胸を突き出すユイ。そこまでは教えてない。
「ちなみに証拠はあるんか?」
「あるよー」
そう言って語り出した内容は、人目を憚る程の内容で、確かに俺とユイしか知らない内容だった。
それも今回に限ってはかなり詳細に語ってきた。
これは、暗記するにしても不可能だ。本物と認めざるを得ないな。
ドッキリにしても、そんな事少女に言わせられないしな。
「本当にユイなんだな」
「あ、やっと信じてくれた?」
「ああ」
にっこりしながら両手でマグカップを持つユイ。
こうしてみると本当に女子高生にしか見えない。
「へー…これがコージの言ってたコーヒーってやつの味かー。悪くないね」
「ブラックでも飲めるんだな」
「まぁねー。それにコージはブラック派って言ってたし? というかこれなんの豆なん?」
「これはペルーの豆だな」
「あ、よく飲むっていってたやつ?」
「そう」
「へーこれがぁ…」
嬉しそうに飲んでいるのをみるとこっちも嬉しくなってくるな。
しかし、そう簡単な話でもなく、聞かなくてはいけない事が山ほどある。
まず、こうして横にいる事で確実に分かった事がある。
さっき、抱きしめた時は勘違いだと思っていたが、下着つけてないな。
意識してしまったら最後。恥ずかしくなって直視できなくなってしまった。
というか、なんでつけてないんだ?
「ん? どったの?」
「いや、さ。言っていいのか…」
「いいよ。なんでも言って。気になるし」
「そ、そっか。じゃあ…その…なんで下着つけてないんだ?」
「下着? あぁ、ブラとショーツの事? 手に入んなくて」
「元から着ていたんじゃないのか?」
「いや、スッポンポンだったよー」
「にしし」といたずらっ子みたいな笑い方をするユイ。
ユイ曰く、完全な生身の人間を作っている研究所があるらしく、そこの施設をハッキングして自分好みの肉体を作ったんだそうだ。
そういう研究をしている事自体初耳だし、もう実用化までいっているなんて、俺が聞いていい内容なのだろうか。
AIともなれば、何時間も没頭してしまうキャラメイクも数分で完了するのだそうだ。
そして、ユイの本体を作った後、施設の研究データ等を完全に消去し、施設の設備なんかも完全に使用不可能にしたんだそうだ。
まぁ、悪い事に使う事前提だろうから、それは構わないのだが、その関係者に俺が狙われるような事はないのだろうか?
どこぞのギャル芸人みたいに「ないない」とかるーく流されてしまった。
なんでも監視カメラなんかも簡単に書き換えたり消したり出来るからだそうだ。
しかも、その後誰がやっても復元は出来ないという、なんというかご都合主義的な映画を見ている気分だった。
ちなみに軍服しかなかったので、日本に到着してすぐに服を買いに行ったのだそうだ。
お金とかどうしたんだという疑問もあるが、店員さんも戸惑ったんじゃなかろうか。
本当に買ったかもあやしい。だって、値札ついたままだぞ?
「で、その軍服とやらはどうしたんだ?」
「え、捨てたけど?」
「なんで?」
「え、可愛くないし…あ、もしかしてユイが着てた服が欲しかった? ごめーん。気が利かなくって」
「いや、要らないから」
「あそ?」
しかし、軍服ねぇ…………。
待て、どうやって日本に来たんだ?
今世間を騒がせているアレじゃないだろうな?




