11 水族館に行こう⑤
あの日言おうと思ったことだ。何を今更迷うことがある。
これを言って壊れることはないが、言わないで失ってしまうことはあるかもしれない。
ユイ、寧々、星羅、静とそれぞれの目を見る。もう迷わない。これは、俺の望んだことだ。
「ユイ、寧々、星羅、静。どうか俺と一緒に暮らしてくれないか。今は誰か一人を選ぶことはできない。女々しいと思ってくれても構わない。だが、俺を宿り木として一緒に生きて欲しい」
「それって」
「あぁ」
それぞれ四人の目を見る。
「俺と家族になって欲しい」
「コージ!」「光司さん…」「光司…」「光司くん……」
「ずっと一緒にいてくれるなら、俺も嬉しい」
その言葉に少し空気が和らいだ。
だが、少し思うところもある。
「でもさ、せっかく自由に動ける身体を手に入れたんだ。好きに世界を見て回ってもいいし、何かを成し遂げてもいい」
四人をそれぞれ見る。
「それでも……戻ってきたいって思う場所がここでいいなら、俺はいつでもそこにいる。それじゃあダメだろうか……いや、待ってるじゃなくて、ちゃんと迎えるからさ」
これが俺なりの答えだが、どうだろうか?
送れなかったメッセージの一歩先を伝えたのだが……。
その瞬間止まっていたクラゲが動き出した。
まるで何も無かったかのようにゆっくりと泳いでいる。
今まで止まっていた時間が動き出したかのように。
……確かに。あの日から俺の時間は止まっていたのかもしれないな。
『ウサギは寂しいと死んじゃう』
静の言っていた言葉をふと思い出した。
そうか……。俺は『うさぎ』だったのか。
もしかしたら、四人に見透かされていたんだろうな。
そんな俺の回答に四人はどう反応するだろうか。
誰かが口を開くまですごく長く感じる。
それは、これまでのどんな孤独よりも長く感じた。
だが、そんな空気は静の一言で消え去った。
「78点」
「え、ちょ! 静低すぎない?」
「そうですよー。光司さんがあんなに頑張って答えてくれたんですよ?」
「いいえ。正当な評価です」
ユイと寧々が驚き、静に噛み付いている。
俺的には高すぎるくらいだと思ったんだが……。
「わたくしは甘い評価はしません。……でも、嫌いではありません」
「まぁ、静の言うことはもっともだわ」
静の意見に星羅が同調した。
「静はね、こう言いたいのよ。『光司自身の欲』がまだ聞けていないってことにね。つまり、光司の言った答えに主語がないのよ。少し逃げにも思えるしね」
星羅が静の言いたいことを代弁したようだ。
静が少し視線を彷徨わせている。そこまで言い切るつもりはなかったようだ。
そんな星羅が俺の前に立ち、俺の胸をツンツンとつつき、囁くように言った。
「いつか聞かせてよね。光司がどうしたいか。今はこれでもいいわ。でもいつまでもそれではダメよ。あそこに書かれていたメッセージの方がもっと甘くて欲張りだったわ」
「分かった」
「あら、そこはもっと狼狽えると思ったのだけど……、あはっ。ははは」
「何が面白いんだ?」
「光司も成長してるんだなって。わたしたちと一緒ね。……同じ景色を見れることを願ってるわ。そうね……もっと満点の星空を見せてね」
俺の胸に突きつけていた指を離して戻っていった。そして寧々に抱きつく星羅。
星羅の言葉を聞いて、水槽へ振り返る。そこには深海の夜空が広がっていた。
折角の幻想的な光景を前にそれぞれの想いを話した。
こういった場所でなかったらきっと言えなかっただろう。
それぞれが朱い顔をしながら奥へと向かう。
ずっと星の海の中を歩いているようで、なぜか星羅が誇らしげに歩いていた。
「どうして星羅はそんな誇らしげなんだ?」
「だってわたしのためにあるような場所じゃない?」
「まぁ、そうだな」
「あなたが考えてくれた名前よ。誇りに思うじゃない。どう、この光景そのものでしょ?」
「星はもう少し落ち着いてるんだけどな」
「でも明るく輝いてるわよ」
アーチ状の空間でクルクル回る星羅。それはとても絵になっていた。
そしてクラゲもそんな星羅に合わせて舞っているようにみえた。
情報だけじゃなくてクラゲも並列化できるんだな。
「ここに連れてきてくれてありがとね」
そんな様子を見て、ユイと寧々も星羅に混じり、手を繋いでクルクル回り出した。
「星羅はホントに楽しんでますね」
「クラゲさんも一緒に踊ってるねー」
そんな中で静が俺の横で腕を組んで立っていた。
「静は入らなくていいのか?」
「星羅は『動』ですから」
そんな静を星羅が微笑みながら腕を掴んで引っ張った。
「あ、ちょっと」
「折角だから、静も入りなさいよ」
「待ってください。わたくしは……」
「あら。静動きがぎこちないわね。もしかして踊るの下手なのね」
「正直三人ともわたくしと変わりませんよ」
確かに四人とも動きがおかしい。
「じゃあ光司も混ざりなさいよ」
「俺はいいって、ちょ……」
そのまま変な動きにつられたまま、二階へと向かっていったのだった。




