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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第二章

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09 水族館に行こう③


 それからマリンガーデンで動物を堪能してから水槽のある方へと向かった。

 入るなり、色とりどりの魚やサンゴ礁が視界を埋めた。

 それは言葉では言い表せないほど美しく幻想的だった。


 四人もそれぞれ見て回っていた。

 ユイと寧々はカラフルな魚とサンゴ礁に目を奪われていた。

 「きれー」

 「どれもこれも個性があるな」

 「光司さん、見てください。あんなに小さな青いお魚さんや、鮮やかな黄色のお魚さんが、サンゴの間を縫うように泳いでいて……。まるで、あたしたちみたいですね」

 「俺はサンゴなのか?」

 「ダメですか?」

 「別に構わないが」

 確かにそこにどっしりと構えてるのは俺…らしいか……。

 そんな感じで眺めていると、寧々がふと心の声が漏れたように呟いた。


 「あの子たち、ずっと一緒ですね」

 水槽越しに自分たちの姿を重ねる寧々の、少し熱を帯びた視線。

 そこにはイソギンチャクの間に隠れているクマノミがいた。

 「でも他の魚が近づくと怒るんだな」

 俺がそう返事すると、ユイが俺の腕にギュッと抱きついてきた。


 「あーしも他の女が来たら怒る!」

 「寧々たちはいいのか?」

 「それは別」

 「はい。あたしも同じ意見です」

 もしかしてさっきの区役所での件を引きずっているんだろうか?


 「安心しろ。二人の考えているようなことは起こらない。それだけは断言できる」

 「コージ……」「光司さん……」

 どうしてそんな台無しになるようなことをできようか。


 「じゃあやっぱイソギンチャクでもいいんじゃない?」

 「なんで?」

 「あーしがクマノミなら一緒に住んでるっぽくね? あーしを大事にしてくれるんでしょ?」

 「あ、ずるい。それならあたしも」

 二人ともあの関係に理想を持ちすぎだ。


 「イソギンチャクには毒があるんだぞ? あれに耐えられるのがクマノミってだけで」

 「知ってるし」

 「あたし達が知らない訳ないじゃないですか」

 「お、おう…」

 確かに毒づくことはあるかもしれないが、それとこれは別で。


 「でも、そうですね……確かにイソギンチャクとクマノミよりサンゴ礁とお魚さん達の方がいいかもしれませんね」

 「……だね」

 あんなにクマノミがいいって言ってたのに、どんな心変わりだ?

 「それはどうして?」 

 ほんの少し間を置いて、寧々が笑った。


 「ふふっ。やっぱり光司さんはサンゴ礁ですね」

 寧々が嬉しそうに目を細めた。

 「優しく聞いてくれますから。光司さんは誰でも受け入れてくれる『海のベッド』みたいですね。あたしたちがどんなことを言っても受け入れてくれますし」

 「あーしたちはどんなことあってもコージの周りを泳ぐからね」

 こういうのを、共存って言うのかもしれない。

 そんな魚たちを見て嬉しそうにする二人。

 あっちの二人はどうなんだろうか?



 「綺麗に列をなして泳いでますね」

 「よくぶつかったりしないわよね」

 静と星羅が小魚の群れを見て呟いている。

 団子状に集まっている魚の群れを見た時は目を見開いて驚いていた。

 「一体どのような原理でこのような動きがプログラミングされているのか非常に興味深いです」

 「ホントにね。それぞれがちゃんと意志と目的を持って動いてるのね。みんなを守るために」

 「それだけでしょうか? わたくしには別の意図があるようにも思えます。それこそ何かに変わるために」

 そこで星羅がフッと笑う。


 「それはきっとあそこで静みたいに不愛想で泳ぐお魚さんがいるからね」

 それに対してニッコリと水槽の中よりも冷たい温度の笑顔で返す静。

 「ふふ。なるほど。では、あちらの魚なんて星羅さんそっくりですね。泳ぎ方が下手です」

 「何よ。どう意味よ」

 「そのまんまの意味です。不器用だと」

 「……う、うっさいわね」

 そっぽを向いて腕を組んで不貞腐れる星羅。やっぱり星羅は静には少し敵わないんだろうか?


 「もう喧嘩しないで仲良く見よーよ。ね?」

 「そうですよ。お魚さんも呆気にとられてますよ」

 ユイと寧々が二人を嗜める。

 実際何匹もの魚が二人をじーっと眺めていた。


 「……こっち見てる魚なんて唯に似てない?」

 「ええ。こっちなんて寧々さんそっくりです」

 「もう……。すぐそうやって話をそらす」

 「でも、まぁいいじゃないですか」

 何だかんだこうして丸く収まるんだな。

 誰が悪いとか。誰が主導権を握るとかそういうのがない。

 まるで背面を泳ぐ魚のようだ。


 「写真撮ろうか?」

 色がハレーションを起こしそうなほどカラフルだったが、なかなかどうしてこんなにも一体感があるのだろうか。

 あの笑顔を見たかったんだろうな。

 なぜか四人の方ではなく、スマホの画面の方を凝視してしまった。

 どうしても顔を上げることができなかった。


 「あれ、コージどしたん……って、あれ、朱くなってない?」

 「本当ですね。熱でもあるんですか?」

 「星羅さん。それ本気で言ってますか?」

 「ええ。本気よ。だって…ねぇ。心拍数測ってあげようか?」

 星羅がニヤニヤしながら覗き込んできた。分かってて言ってるな。


 「ああ。愛おしいと思ってな」

 魚の群れが一斉に散った。

 それくらいの衝撃が四つ、この場に落ちた。

 たまには俺から返したっていいだろう。


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