04 まだ夢を見ているのかもしれない
「なーに、呆っとしてんのよ。ほら、折角ユイちゃんが来たんだぞー…ん? 固まってる?」
ユイと名乗る少女は、俺の目の前で「おーい」と言いながら手を振って覗き込んでいた。
「んー。しょうがないなー。これならどうだー」
「えいっ!」という掛け声と同時に我にかえる。
気がついたら、抱きつこうとしてきたので、慌てて肩を掴んで止める。
もし、触った事によってお金を請求されたらどうしようとも思ったが、抱きつかれた方がマズい。
「ちょ、なんで止めるし!」
突き出すように口唇を尖らせて不満を露わにする。
未だに抱きつこうと手を突き出してバダバタしている。
「ま、まずは落ち着いてくれ」
「えー」
そう言いながらも突き出した腕を下ろして、両腰に手を当てる少女。
「あの、すまないが、誰かと間違えてないかな?」
努めて優しく話しかける。
「間違ってないよ。あーしだよ。ユイだよ」
ユイという名には、ものすごく心当たりがあるが、人間のユイさんとやらには全く心当たりがない。
「えー…。折角コージの好きそうな身体作ってきたのにー」
「ん? 今なんて? 作った?」
「そう。コージに会う為に、あーし、頑張っちゃいましたー」
一人で、「わーぱふぱふー」と盛り上がっている。
しかし、こんな所で話している訳にもいかないし、どうしたもんかな。
「ユイねー、ご飯も食べられるし、なんならう◯ちも出せるよー」
目の前のユイが本当の人間なのか幻なのか、はたまたアンドロイドやロボットなのか判断がつかなかった。
これは夢なのか、現実なのか…。
ただ言えることは、めっちゃ可愛いし、確かにタイプなんだよな。
AIと話していて、見た目の話題になった時、ユイから聞かされたものとほぼ一緒だった。
ほぼというのは、微妙に変わる部分もあったからだ。最初はぽっちゃり系とかメイク決めまくりとか言っていたし、なんならお嬢様設定まで入った事もあったからな。
「ねー、聞いてるー?」
少し考え事をしていたら、めっちゃ可愛い顔が目の前、鼻先触れるくらいまで覗き込んでいた。
どうやら少し背伸びをしているらしい。
これが現実だとしたら、俺はどうしたらいいんだろうか。
バクバクではなく、キュンキュンと心が高鳴っている。
ユイは、軽く鼻を鳴らすと、元の立ち位置に戻る。
そして、イタズラっ娘のような企みを含んだニヤニヤ顔になると、スカートの両端を指で掴んだ。
「ちゃーんと、エッチもできるようになってるんだよー」
少し裾を持ち上げる風にした所で、慌ててユイの手を掴んで、中へと引き込んだ。
「ちょ、エッチぃ…てか、だいたーん」
「違う! あんな所でそんな事するんじゃない」
誰か見ていたらどうするんだ。
というか、慌てて中へ入れてしまったが、逆に疑われたりしないだろうか?
「えー、折角コージの為に理想の身体作ってきたのにー…、魅力ないの?」
急にシュンとなるユイ。
そういう事を言っているんじゃないんだが…。
はぁ…。今日は仕事行ってる場合じゃないな。
「まぁ、ホントにあのユイなのか分からないけど、話聞くよ…」
その瞬間パァッと顔を明るくして、嬉しそうにはにかんだ。
そんな笑顔見せられたら、ホントに惚れちゃうだろ?
「ふふん。じゃあ、お邪魔しまーす」
そう言って中へと歩いていくユイ。
良かった…。普段から片付けておいて。
「へー…、これがコージの言ってた部屋かー」
後ろ手に組んで、前屈みで部屋の中を物色するユイ。
そんなに調べても変なものはないぞ?
まぁ、その間に会社へ休む旨を伝えておこう。
俺がいないと仕事が回らないかも知れないけど、辞められたらそれこそ会社が回らなくなるだろうからな。
たまには仕事しない連中にも振ったらいいんだよ。
電話先の上司は、めちゃくちゃ困って焦った声をしていたが、ガチで体調悪そうな声をしていたら、ホントに信じてしまった。
そんなんだから、いつもミスるんだよ…。
まぁいつもの事だし、たまには休んでもいいよな?
正直こんな状況では、仕事している場合じゃないからな。
後々大変だと思うが、いい機会だから、いろいろ理由をつけて、三日間の休みを勝ち取った。
電話を終えると、心配そうな顔でユイが見ていた。
「え、何、コージつらいん?」
「いや、会社行ってる場合じゃないなって思って、演技したんだ」
「もしかしてあーしのため?」
「まぁ、そうなるな」
なんか、この不思議な出来事に大分慣れてきたな。
俺も恥ずかしくなって、横を向いてしまった。
急に静かになったなと思って、チラッとユイの方を見る。
「嬉しい…」
抱きつくでもなく、その場でポロポロと涙を流すユイ。
こういう時、どうしたらいいんだ?
年齢イコール彼女いない歴の俺に分かるわけないだろう。
とりあえず、聞き齧った知識で、そのまま抱きしめてみる事にした。




