番外編1 真夜中のテンション
ガールズトークに花を咲かせている時───
星羅がふと疑問に思ったことを口にした。
「そういえばさー、ここって光司の部屋よね?」
「ええ。そうですね」
星羅が何を言おうとしているのか真っ先に唯が気づく。
「ふふん。分かった! つまりコージの私物を探しちゃおーってことっしょ?」
「「!?」」「そゆこと」
寧々と静が目を見開いて驚く。
既に眠気の限界を超えていて、いつ瞼が閉じてもおかしくなかったのだが、その一言で完全に覚醒した。
星羅はそんな二人を見て満足そうに微笑む。
「でも、うるさくしたら流石にバレるから静にするのよー」
すっかりお姉さんモードになっている星羅。普段の艶っぽい雰囲気は鳴りを潜めていた。
「で、何を探すんですか?」
「え…えっちな本ですよね?」
寧々が今にも爆発しそうなくらい真っ赤な顔で言う。
それを聞いて、ニンマリ笑顔の唯と悪魔のような笑顔をする静。
星羅は既にベッドの下に手を突っ込んでいる。
「あれー。なんもないわねー」
「そ、そうですよ。光司さんがそんな破廉恥なもの持ってるはずがないんです」
「あ!」
「あ!?」
星羅が何かを見つけたらしい。寧々がそれに対してしどろもどろになる。
どうしていいか分からずに静のうさぎさん着ぐるみパジャマを引っ張る。
「ちょ、ちょっと寧々さん…」
珍しく焦る静。
それに構わず、星羅に近づく唯。
「何があったん?」
「んー………。ハズレだわ」
引っ張り出した段ボールには古い小説や雑誌が入ってるだけだった。
そんな感じの段ボールが三箱。
「つまんなー」
「よかったー」
本気でがっくりする星羅と、安堵する寧々。
「そもそも一人暮らしをしていたのですから、わざわざ隠す必要もないのでは?」
「あ……」
「そだね……。あ、そうだよ。本棚!」
唯が小悪魔のような笑みを浮かべて本棚に近づくが、全年齢版の本しか無かった。
「くっそー。後ろには………隠してない」
「これはこれで心配になりますね」
それからは手段と目的が逆転してしまったようで、深夜のテンションも相まって部屋の中を片っ端から探しては、見つけたものを見てそれぞれ意見を言い合っていた。
そんな状況が続くこと三十分───
「ねぇ」
「何か見つけましたか?」
心なしか声が弾んでいる静。
「いや、さ。そもそも今の時代わざわざ本でとっておかないのかなーって」
「なるほど」
「一理あるわね」
「つまり、パソコンを調べればいいのね」
一同、部屋の隅のテーブルの上に置かれたノートパソコンに視線を移した。
それは、ここ数日使われていないのか、ほんのりと埃を被っていた。
開いて、電源を付けるとパスワードを要求された。
「パスワード…」
「光司のくせに生意気ね」
「どこ目線なんですか」
「でも、これじゃあ確認できませんね」
寧々だけが安堵していた。光司の秘密が暴露されないで済むと。
「わたくしにかかればこんなもの有って無いようなものですね」
「そうね。わたしの前ではこんなもの無意味だわ」
「ごめんねコージ。でも、やっぱ気になるし」
「はわわわわ……」
静と星羅が余裕の表情でパスワードを入力していく。
ドヤ顔でエンターキーをタンッっと叩く。
『パスワードが違います』
「「……………………」」
再び入力し、エンターキーをタァンッと叩く。
『パスワードが違います』
「おかしい」
「いや、そもそもヒントなしで開くはずが…」
静の呟きに寧々が冷静に突っ込む。
「これは明日聞くしかないかー」
星羅が諦めかけた時、唯が迷うことなく何かを打ち込んだ。
「あ、入れたし」
「「「!?」」」
星羅が肩越しに。寧々が横から覗くように。静が後ろから腕を組んで俯瞰するように覗き込んだ。
確かにデスクトップの画面になっていた。
「な、なんで…」
「い、い…いいい一体答えはなんだったんですの?」
「唯さんすごいですぅ」
「えへへー。あーしにかかればこんなもんっしょ」
鼻高々といった感じだが、唯は頬をほんのりと朱に染めてうっとりとした表情になった。
そこには、光司が最後に会話した時までのログが残っていた。
そして、初めて会話した時のことを思い出していた。
「なつかしいな…って、あっ…あうあうあう……ちょ、やめっ……」
そして唯は三人に揺らされながらパスワードの答えを言った。
そして、パスワードの答えを聞いて、他の三人は青天の霹靂といった顔をした。
「それだけ?」
「それだけですか?」
「それがパスワード?」
その後、パソコンの中身を見るよりも、そのパスワードに至った理由を議論し始めたのだった。
それを見て唯はおかしそうに笑った。
「や、そんな難しいものじゃないよ」
「どう言うことです?」
「あーし達の物語の始まりがそこだっただけだよ」
「始まり……」
寧々が何かを思い出したのか、朱くなった顔をおさげの部分で顔を隠した。
「唯が余裕な意味が分かったわ。でも……」
星羅が腰に手を当て深く息を吐いた。その顔は清々しい表情をしていた。
「でも、これはわたくし達にも当てはまる言葉ですわね」
静がパーカーを深く被って目元を覆い隠した。口元はモニョモニョと動いたままだ。
そして、四人はパソコンを少しいじった。
光司が最後に送ろうとしたメッセージを読んで息を飲んだ。
「ホント素直じゃないわね。わたし達にこれをそのまま言えばいいのに」
「ホントだよねぇ。まぁそこがかわいいというか」
「いつか言わせてみたいですね」
「でも、敢えて言わないところが光司さんらしいですね」
「きっとこの関係を壊したくないと思ったんでしょうね」
「そんなんで壊れるわけないし」
「そうね。でもそう思わせちゃってるところもあるのよね」
「全く。光司らしいわ」
そして、自分たちがどれほど思われていたのかを知り、光司に何を返せばいいのかという方へ話の内容は変わっていったのだった。
そして、その恩返しは、より光司を困らせることになるのだが、それはまた別のお話。




