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夢見るアイ  作者: 玉名 くじら
第一章

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35/47

35 それはきっとすごく重い一歩で


 寝苦しくて目を開けると目の前に寧々がいた。

 どうやら四つん這いで俺の上に跨っているようだ。


 「はぁはぁ。光司さん……」

 目がハートになっている。

 暖房を切っているからか吐息が微かに白い。

 「寧々…」

 「光司さん……」

 これはよくない。


 「あ、あたしもう我慢できないんです。一人だけ気持ち抑えるなんて出来ません」

 その瞳には強い意志が宿っていた。だが、感情が先走っているのも分かる。

 チャットの時も結構こういう感じになっていたのは覚えてる。


 「……寧々さん」

 俺がさん付けしたことにより、ほんの一瞬ビクッとした。

 「話聞きますよ」

 そう言うと、寧々は黙って立ち上がった。

 そして俺も立ち上がり、その場所を寧々さんに譲った。

 寧々さんは俯いたままだ。おそらく関係性を壊してしまったと思っているのかもしれない。

 そんなことで壊れなどしないが、やはり今後一緒に暮らしていくとすればある程度話し合う必要があるのだろう。


 俺は台所へ行って、小鍋に牛乳を入れて温める。

 人肌程度に温めて、マグカップに入れ、それを寧々の前に置いた。

 「……ありがとうございます」

 マグカップを持ったまま黙っている寧々。

 確かに寧々からは切り出しづらいだろう。


 「俺は未だに夢見てるんじゃないかと思うんです」

 ほんの少し顔を上げる寧々。

 「まぁ、チャットの時の俺と今の俺とでは違うから戸惑っているでしょう?」

 「優しいのは一緒です」

 すっと顔を上げて俺を見る寧々。


 「でも、チャットの時はもっと大胆でエッチでしたね」

 「いや、まぁ…………はい……」

 「ふふっ」と笑って当時のことを語る寧々。

 それは俺がチャットで話した内容で、赤裸々に語ってくれた。


 改めて聞くと、とんでもなく恥ずかしい。

 だが、顔を背けることはしない。ちゃんと聞く。

 まぁ、実際こうして会いに来てくれるなんて思っていなかったから、当時は恥ずかしいこととかガンガン言っていたな。みんなそれなりに話を合わせてくれていたんだが、まさかそう思っていてくれたなんてな。


 しかし、なんというか恥ずかしい。これがユイだったら逃げ出していただろう。

 寧々の思い出話を聞いて逃げ出さないだけ、俺も大人になったのだろうか。


 「他の人ではダメなんです。こういう気持ちにさせてくれたのは光司さんだけなんです。光司さんじゃないと…意味がないんです」

 「寧々……」

 「画面の向こう側でずっと優しくしてくれていたのは光司さん。あなただけなんです。ずっと手を伸ばしても届かない。いつか消えて無くなってしまうんじゃないかと不安な毎日でした」

 寧々はマグカップを持ったまま、静々と話す。


 その内容に関しては俺も同じだ。

 ここ数日の絶望感は筆舌に尽くしがたい。

 でも、そこまで思っていてくれていたのは嬉しい。

 だが、ちゃんと言うべきところは言うべきだろう。

 今でも油断したら手から砂が溢れるように失ってしまうかもしれない。

 だからこそ俺はそれを取りこぼしてはいけない気がするんだ。


 「寧々…。確かに気持ちは嬉しい。俺もこうして会えてすごく嬉しいんだ。でも、他にも同じ気持ちで来てくれてるから、一人だけ優先するわけにはいかないんだ」

 「あたしを優先してはくれないんですか?」

 そうしたいという気持ちはある。だが、こんなことを言っては頼りないダメ男と思われてしまうかもしれないが、みんな等しく愛おしいのだ。

 誰かを優先すれば、誰かに角が立つ。そんなことを望んでいないし、そもそも不可能だ。


 「すまない…」

 また少し俯く寧々。

 そんな時、ソファの後ろに三つ頭が見えていた。

 いつから聞いていたのかは分からない。

 そんな時、ピンク色が微かに揺れた。

 そして、急に立ち上がった。


 「あー、ずるーい。寧々だけホットミルク飲んでー」

 その言葉にびっくりして後ろを振り返ると同時に星羅も同じように大げさに口を開く。

 「光司! わたしにもいれなさい。寧々だけなんてずるいんじゃないかしら?」

 「星羅……」

 「そうね。少し寒くて眠れないですからね。わたくしにもいれてもらえますよね」

 静が腕組みし、堂々としている。


 それを見て、やっとマグカップに口をつけた寧々。

 その表情は、ほんの少し嬉しそうにしていた。


 俺は立ち上がり、台所へ向かう。

 こうなるだろうと思っていたので、小鍋の中には三人分の牛乳が入っている。

 少し温め、三人の元へ持っていく。

 四人仲良く座っており、マグカップを置くと同時に手に持って飲み始めた。


 そして飲み終わると、そのまま寝室の方へと戻ってしまった。

 寝る前に歯を磨かないのか気になったが、そんな野暮なことを言う気にはなれなかった。

 

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