34 勝負の行方
星羅が提案しながら、何の気なしに振り返ると、いつからいたのか光司がテーブルに肘かけてお茶を飲みながら眺めていた。
「い、いつからいたのよ」
「んー。星羅がビッグボンビーにめっちゃやられてたところからかな」
「2年目じゃん」
「まぁ、楽しそうで何よりだよ」
「お、怒ってない?」
「怒る? どうして?」
「や、ほら、ソファーとか動かしちゃったし」
「お菓子もこんな時間にこんなに食べて……」
「気にすんな。……テレビその位置だとやりづらそうだな。後で位置変えとくよ」
特に怒ることもなく、寧ろ慈しむような表情で四人を見る光司。
「ね?」
「光司の機微に関しては唯さんに一日の長がありますね」
「…………」
静の発言に笑顔の寧々の表情が曇る。
そんな寧々の背中をそっとさする星羅。
そしていつもの朗らかな表情に変わる寧々。
「もうこんな時間ですか。寝る時間ですねー」
「そうだな。大分長いことやっていたな」
壁に掛けてある時計を見るとすでに零時を回っていた。
「ありゃりゃ。意外と時間かかったんだね」
「星羅と静さんがばちばちやってたのが原因ですね」
「わ、わたしは被害者よ。静が煽るから……」
「被害者だなんて、星羅さんのキャラ的には許せないのでは?」
「ふん。そうね。……でもいいわ。静、あんたにだけは負けないわ」
「いいでしょう。いくらでも受けて立ちますよ。次は100年でやりましょう」
「(そっちじゃないわよ。でも……)ええ。そうね」
「では、片付けしましょうか」
「そうね」
何だかんだ言いつつ二人はソファを元の位置に戻した。
寧々はお菓子を片付け、唯はゲーム機を片付けていた。
光司はテーブルの上の食器を流し台へ持っていき、洗い始めた。
「あ……」
寧々が出遅れたとばかりに声を漏らすが、既に洗い終わっていたのか、カゴへ食器が置かれていた。
「じゃあ寝るか。ちゃんと歯磨けよ」
「分かってるし」
*
歯を磨き終わったのだろう。
ミントの香りが漂っている。
静が誇らしげに。唯がニヤニヤしていた。
そして寧々ががっくりと肩を落とし、星羅は不満そうな顔をしていた。
先ほどのゲームの順位通りだが、何を企んでいるんだろうか。
「では勝者であるわたくしは光司のベッドで寝ますね」
「あーしもー」
待て。何を言っているんだ?
「ほら、敗者は早く布団を敷かないと。冷たいですよ?」
「ベッドだって冷たいでしょうよ」
「待て待て」
「何よ光司」
「俺のベッドが…なんて?」
「光司さんのベッドを賭けて勝負してたんです」
寧々が暗い表情で淡々と告げる。勝負に負けたからだろうか、声も低い。
「で、あーしと静が勝ったからコージのベッドで寝るんよ」
「なるほど。確かに俺はソファで寝ると言ったが、布団と毛布は持っていかないとは言ってないんだが……」
「え、ダメだし」
「ええ。ダメですよ。置いてってください」
なんでそんな真顔で拒否するんだよ。怖いだろ。
「別に俺のベッドで寝なくてもいいだろ? 今週は干してないし」
「だからです」
「そうそう」
訳が分からない。普通嫌だろ? え、マジで分からない。
寧々も星羅も教えてくれそうにない。
このままだと俺は毛布を被らずに寝る事になるんだが。
「はぁ……仕方ない」
俺はクローゼットの上に置いておいた袋の中から予備の毛布を取り出した。
「これでいいだろ? じゃあ俺は寝るから」
「一緒に寝てもいいんですよ。布団も二つ余っちゃいましたから」
寧々が魅力的な提案とばかりに言うが、見た目女子高生の女の子と一緒に寝るなんて許されないだろ。
「ダメだぞ。男は狼なんだから」
「古い言い方ね。じゃあわたしが狼になろうかしら」
「バカなこと言ってないで寝なさい」
「まるでお父さんですね」
父親か。なるほど。このなんとも言えない気持ちに名前をつけるならそれが一番合うな。
……おかしいな。好きという感情はあったんだが、どうしてこんな気持ちになっているんだろうか。
考えても分からない。そう言う時は寝るに限る。
「まぁ、なんでもいいけど早く寝た方がいいぞ。肌に悪いぞ」
「それはいけませんね。って寧々さん、星羅さんそこをどいてください」
*
「はいはい。どきますよー」
「全く……。光司く…光司の香りが混ざってしまうではないですか」
「先にいただいといたわよ」
腰掛けていたベッドから退いて、負け惜しみを言いながら、布団を敷く星羅。
黙って布団を敷く寧々もなぜか入り口に近かった。
「ふふ…。ふふふふ……。じゃあ寝ましょうか唯」
「だね。ふふふ。コージのベッド……あー、やばい。寝られないかも」
「夢にまで見た光司のベッド。ふへへ」
「静、顔やばいことになってる」
「今だけはいいじゃないですか。ところで、そんな端では落ちてしまいますよ」
「でも…」
「ほらほら。こっちへ来てくださいな」
「ん。……うわぁ。抱き心地すっご」
「唯もいい感じですよ」
「えへへ…」
そんな様子を黙って眺める寧々と星羅。
「なんか負けた気がする」
「……………」
「寧々?」
「……………」
「あら。寝ちゃったの?」
反応がないからか、既に眠っていると思った星羅も二人を見るのをやめて布団を被り直したのだった。
「……………」




